「おまえは今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」という名言がありますが、ジョジョファンの皆さんは、今まで登場したすべての「スタンド名」を覚えているでしょうか。
ジョジョの奇妙な冒険において、切っても切り離せないのが「スタンド」という概念です。超能力を擬人化したこの存在は、その能力の面白さはもちろん、付けられた「名前」にこそ作者・荒木飛呂彦先生の凄まじいこだわりが詰まっています。
初期のタロットカードから、エジプト神話、そしてファンにはお馴染みの洋楽アーティスト名まで。この記事では、ジョジョのスタンド名に隠された由来や、思わず膝を打つような元ネタとの関係性を徹底的に深掘りしていきます。これを読めば、次にジョジョの奇妙な冒険を読み返す時の興奮が倍増すること間違いなしです。
スタンド名の夜明け:第3部を彩った運命のタロットカード
スタンドという概念が初めて登場した第3部「スターダストクルセイダース」。ここでの命名規則は非常にシンプルかつ象徴的でした。それは「タロット大アルカナ」から名前を取るというものです。
物語の主人公、空条承太郎のスタンド「スタープラチナ(星の白金)」は、タロットの「星」のカードに由来します。希望や輝きを象徴するこの名前は、暗闇を切り裂く拳の速さと圧倒的なパワーにぴったりですよね。
一方で、宿敵DIOの「ザ・ワールド(世界)」は、タロットの最後に位置するカード。まさにすべてを支配し、完成された存在であることを示唆しています。時を止めるという絶望的な能力にこれ以上ないほどマッチしたネーミングです。
他にも、炎を操る「マジシャンズレッド(魔術師)」や、銀の騎士「シルバーチャリオッツ(戦車)」など、色の名前とカードの名前を組み合わせるスタイルが初期の王道でした。この時期のスタンド名は、読者にとっても直感的に能力やイメージが伝わりやすいのが特徴です。
エジプト九栄神の登場:神話へと広がるスタンド名
物語がエジプトに上陸すると、タロットの枠を超えた新しい命名規則が現れます。それが「エジプト九栄神」です。
地面から手が出てくる「ゲブ神(水の神)」や、剣に宿る意思を持つ「アヌビス神(死者の守護神)」など、神話の神々の名前がそのままスタンド名になりました。タロットよりもさらに不気味で、予測不能な能力が増えた時期でもあります。
この「既存の枠組みから名前を借りる」という手法が、後のジョジョにおける「洋楽シリーズ」への布石となったのかもしれません。神話という強固なイメージを背景に持つことで、スタンドそのものの格が一段上がったような印象を読者に与えました。
第4部からの大転換:荒木先生の愛する「洋楽」の世界
第4部「ダイヤモンドは砕けない」から、ジョジョのスタンド名は劇的な変化を遂げます。ここから現在に至るまで、スタンド名のほとんどが「実在する洋楽のアーティスト名、アルバム名、楽曲名」から取られるようになったのです。
なぜ洋楽なのか。それは荒木飛呂彦先生自身が熱狂的な音楽ファンであり、執筆中に聴いている音楽からインスピレーションを受けることが多いからだと言われています。
例えば、東方仗助の「クレイジー・ダイヤモンド」。元ネタはプログレッシブ・ロックの雄、ピンク・フロイドの楽曲「Shine On You Crazy Diamond」です。「直す」という優しい能力を持ちながら、キレると手が付けられない仗助のキャラクター性は、この楽曲の持つ壮大さと繊細さに見事に重なります。
また、広瀬康一の「エコーズ」は同じくピンク・フロイドの楽曲から。虹村億泰の「ザ・ハンド」はザ・バンド(The Band)からと、音楽ファンならニヤリとする仕掛けが至る所に散りばめられるようになりました。
宿敵たちの名前にも隠された音楽的メッセージ
ジョジョの魅力は魅力的な悪役(ヴィラン)にありますが、彼らのスタンド名もまた、音楽への深いリスペクトが込められています。
第4部の吉良吉影が操る「キラークイーン」。これはクイーン(Queen)の名曲そのままです。爆弾で証拠を残さず消し去る殺人鬼でありながら、静かな生活を望むという矛盾したエレガントさが、フレディ・マーキュリーの華やかな歌声とリンクします。ちなみに、キラークイーンの技名である「シアーハートアタック」や「アナザーワン・バイツァ・ダスト(地獄へ道づれ)」もすべてクイーンの曲名です。
第5部のディアボロが持つ「キング・クリムゾン」。こちらもプログレの伝説的バンド名です。その音楽性は複雑怪奇で、一度聴いただけでは理解できない難解さを持っています。それが「時を飛ばし、その間の過程を消し去る」という、初見では理解不能なスタンド能力の不気味さと見事に一致しているのです。
これらのネーミングは、単なるパロディの域を超えています。音楽の持つ雰囲気や歌詞の世界観が、スタンドの能力設計そのものに影響を与えている。これこそがジョジョのスタンド名がこれほどまでに愛される理由でしょう。
海外版での名称変更:大人の事情が生んだ「珍名」たち
ここで少し面白いトピックを。アニメが世界中で配信されるようになると、一つの問題が発生しました。それは「著作権」です。
アメリカなどの海外では、実在のバンド名をそのままキャラクター名として商標利用することに非常に厳しい制限があります。そのため、海外版のジョジョでは、本来のスタンド名が別の名前に差し替えられているのです。
例えば、ブチャラティの「スティッキィ・フィンガーズ」は、海外版では「Zipper Man(ジッパーマン)」になっています。身も蓋もない名前ですが、ジッパーを使う能力なので分かりやすいといえば分かりやすいですね。
他にも、ジョルノの「ゴールド・エクスペリエンス」は「Golden Wind」、ナランチャの「エアロスミス」は「Lil’ Bomber」といった具合です。中には、プッチ神父の「メイド・イン・ヘブン」が「Maiden Heaven」に変更されるなど、発音が似ていることを利用した粋な改名もあります。
日本のファンからすると違和感があるかもしれませんが、この「海外名」を知ることで、逆に元のスタンド名がどれほど音楽業界に根ざしたものだったかを再認識させられます。
黄金の精神を継承する:第6部から第9部への流れ
物語が進むにつれ、スタンド名の元ネタはさらにマニアック、かつ洗練されていきます。
第6部「ストーンオーシャン」の主人公、空条徐倫のスタンド「ストーン・フリー」。ジミ・ヘンドリックスの曲名から取られたこの名前は、監獄という束縛された環境から「自由(フリー)」になりたいという彼女の切実な願いそのものです。
第7部「スティール・ボール・ラン」では、ジョニィ・ジョースターの「タスク」はフリートウッド・マックのアルバム名。第8部「ジョジョリオン」の定助の「ソフト&ウェット」はプリンスの楽曲です。
そして、現在連載中の第9部「The JOJOLands」でも、ジョディオ・ジョースターの「ノーベンバー・レイン(ガンズ・アンド・ローゼズ)」など、時代の空気感を反映したネーミングが続いています。
荒木先生のプレイリストが更新されるたびに、新しいスタンドが誕生し、私たちの想像力を刺激してくれる。この循環こそが、30年以上にわたってジョジョが古びない理由の一つだと言えるでしょう。
まとめ:ジョジョのスタンド名から広がる新しい世界
ジョジョのスタンド名を調べることは、そのまま音楽の歴史を辿る旅でもあります。
もしお気に入りのスタンドがいるなら、ぜひその元ネタとなった楽曲を一度聴いてみてください。歌詞を読み解いてみると、「あ、だからこのスタンドはこういうデザインなんだ!」「この能力はこの歌詞の比喩だったのか!」という驚きの発見があるはずです。
ジョジョという作品は、漫画という枠を超えて、ファッション、美術、そして音楽を繋ぐ巨大なカルチャーの交差点になっています。その入り口として、これほど面白いものはありません。
さあ、皆さんも自分だけの「ベスト・オブ・スタンド名」を見つけてみませんか?ジョジョの奇妙な冒険 文庫版を片手に、ヘッドフォンで元ネタの洋楽を流せば、そこにはあなただけの「黄金の体験」が待っているはずです。
ジョジョ スタンド 名の由来を知ることで、物語の解像度はもっと高くなります。次にスタンドが叫ぶその名前を耳にしたとき、あなたの心には今までとは違うメロディが流れ始めることでしょう。

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