「ドラゴンボールGT」が最終回を迎え、悟空が神龍と共に去っていったあの日。多くのファンが「もっと続きが見たい」と願いました。そんな切実な願いと、ネット黎明期の熱狂が混ざり合って生まれた奇跡のような存在、それがドラゴンボールAFです。
かつて「公式の続編が制作されているらしい」という噂が世界中を駆け巡りました。銀色の髪をなびかせた未知の戦士「スーパーサイヤ人5」の画像を見て、胸を躍らせた記憶がある方も多いのではないでしょうか。
今回は、長年謎に包まれていたドラゴンボールAFの正体から、伝説の投稿画像、そして驚きの「その後」までを徹底的に紐解いていきます。
ドラゴンボールAFの正体は「公式」ではない?
まず結論からお伝えすると、ドラゴンボールAFは鳥山明先生や集英社、東映アニメーションが制作した公式作品ではありません。その正体は、海外のファンによる「デマ」から始まり、日本の同人作家たちの手によって形を与えられた**二次創作(ファンフィクション)**です。
AFという名称についても、当時はさまざまな説が飛び交いました。
- After Future(未来のあと)
- Alternative Future(もう一つの未来)
- Alternative Final(もう一つの完結)
一般的には「GTの後の物語」という意味で「After Future」の略とされることが多いですが、元々は実体のない噂からスタートしたため、定義そのものが曖昧だったのです。
では、なぜここまで多くの人が「公式かもしれない」と信じ込んでしまったのでしょうか。そこには、インターネットが普及し始めた時代特有の爆発的な拡散力と、一枚の衝撃的なイラストの存在がありました。
伝説の「スーパーサイヤ人5」と一枚のイラスト
ドラゴンボールAFの象徴といえば、何といっても「スーパーサイヤ人5」です。スーパーサイヤ人4の面影を残しつつ、全身が白い体毛に覆われ、銀色の長髪を逆立たせたその姿は、当時の少年たちの心を鷲掴みにしました。
このイラストこそが、全世界に「AF」という言葉を広めた元凶です。長らく「公式の没設定資料が流出したもの」だと信じられていましたが、後に明確な作者が判明しました。
始まりはスペインの雑誌だった
このイラストを描いたのは、スペインのデヴィッド・モンティエル氏です。彼は1999年、スペインのゲーム雑誌『Hobby Consolas』の読者投稿コーナーに、自身の描いたファンアートを投稿しました。
彼が描いたキャラクターの本来の名前は「タブロス」。悟空ではなく、彼が考えたオリジナルの戦士だったのです。しかし、この画像がネット掲示板などを通じて転載されるうちに、「GTの続編であるドラゴンボールAFの主役、スーパーサイヤ人5の悟空だ!」という尾ひれがつき、瞬く間に世界中へ拡散されてしまいました。
ネットの噂を「現実」に変えた日本の同人作家たち
ただの噂やコラ画像で終わらなかったのが、ドラゴンボールAFの凄いところです。2000年代に入ると、この「AF」という架空の設定を元に、実際に漫画として描き始める才能豊かな作家たちが現れました。
その中でも、特にクオリティが高く、ファンから「本物以上」とまで絶賛された二人の作家をご紹介します。
Toyble(トイブル)氏と驚愕のシンデレラストーリー
ドラゴンボールAFを語る上で絶対に外せないのが、Toyble氏です。彼の描く漫画版AFは、鳥山明先生の画風を完璧に近いレベルで再現しており、ストーリー構成も非常に巧妙でした。
物語はGTの数年後、悟空の遺伝子と界王神の血を継ぐ強敵「ザイコー」が地球に襲来するという衝撃的な幕開けで始まります。この「ザイコー」というキャラクターもまた、AFを象徴するアイコンとなりました。
そして、ここからが現実のドラマです。Toyble氏はその圧倒的な画力と才能が公式の目に留まり、現在は**「とよたろう」**名義で、Vジャンプ連載中の公式続編『ドラゴンボール超』の作画を担当しています。
「同人誌でAFを描いていたファンが、後に公式の続編を任される」という展開は、まさに漫画以上の出来事として語り継がれています。
ヤングじじい氏によるもう一つのAF
もう一人の巨頭が、ヤングじじい氏です。彼もまた、凄まじい画力で独自のAFワールドを展開しました。彼の描く戦闘シーンの迫力や、独自に考案された変身形態、新キャラクターたちのデザインは、多くのファンを魅了し続けています。
彼の作品は現在も中古市場や同人ショップで非常に高い人気を誇っており、当時の熱狂を今に伝える貴重な資料ともなっています。
ドラゴンボールAF独自のストーリーと魅力的な設定
公式ではないとはいえ、AFの世界観にはファンを惹きつける独自の魅力が詰まっています。多くのAF作品で共通して描かれる、代表的な設定をいくつか見ていきましょう。
究極の変身「スーパーサイヤ人5」
AFにおける最大の見どころは、やはりスーパーサイヤ人5への到達です。公式の「スーパーサイヤ人ゴッド」や「スーパーサイヤ人ブルー」が登場する遥か前に、ファンたちは「4の次」を夢見ていました。
その力は銀河を揺るがすほど強大で、変身に伴うプレッシャーやリスクなど、二次創作ならではのハードな設定が盛り込まれることもありました。
宿命の敵「ザイコー(Xicor)」
悟空の息子を自称するザイコーは、AFにおける最強クラスのヴィランです。
- 圧倒的な戦闘力
- 冷酷な性格
- 悟空に似た容姿でありながら邪悪なオーラ
これらの要素が、ベジータや悟飯たち残された戦士たちの絶望感を際立たせ、物語を盛り上げました。
フリーザの息子「アイズ」
「もしフリーザに息子がいたら?」というIF設定から生まれたキャラクターです。父をも凌ぐ潜在能力を持ち、冷酷非道な振る舞いで地球を危機に陥れます。公式の『ドラゴンボールZ 復活の「F」』よりずっと前に、ファンはフリーザ一族との再戦をAFの世界で楽しんでいたのです。
なぜ今、再びドラゴンボールAFが注目されているのか?
数十年経った今でも、YouTubeやSNSで「ドラゴンボールAF」という言葉を見かけない日はありません。その理由は大きく分けて3つあります。
1. 「とよたろう」先生の活躍
先述した通り、AFの作者が公式の『ドラゴンボール超』を描いているという事実は、新規ファンにとっても大きな驚きです。「あの『超』を描いている人の原点を見てみたい」という動機で、過去のAF作品を探す人が後を絶ちません。
2. 多様なマルチバースの受け入れ
現在、ドラゴンボールの世界は『ドラゴンボール超』だけでなく、ゲームオリジナルの『スーパードラゴンボールヒーローズ』など、さまざまな「もしもの物語(マルチバース)」が共存しています。
この状況が、「公式ではないけれど面白い作品」としてのAFを再評価する土壌を作りました。ファンメイドのアニメーションのクオリティも年々上がっており、中には公式と見紛うほどの映像も存在します。
3. ノスタルジーと「IF」への憧れ
30代から40代のファンにとって、AFはインターネット黎明期のワクワク感を象徴する存在です。「あの頃信じた嘘が、形を変えて今も生き続けている」という事実に、一種のロマンを感じるのでしょう。
また、最新のゲームドラゴンボールシリーズなどで、MOD(改造データ)を使用してAFのキャラクターを登場させる動画が流行していることも、認知度を維持している要因の一つです。
ドラゴンボールAFを今から知りたい人への注意点
もしあなたが「これからAFを詳しく調べてみたい」と思っているなら、いくつか注意しておくべきポイントがあります。
- 完全な公式作品は存在しない: 本屋さんに「ドラゴンボールAF 1巻」という公式コミックスが並ぶことはありません。あくまで同人誌やネット上の創作物であることを理解しておく必要があります。
- 情報の取捨選択: AFは世界中のファンが自由に描いているため、設定がバラバラです。「これが正解」という統一されたストーリーは存在せず、それぞれの作者の数だけAFが存在します。
- 入手難易度: Toyble氏やヤングじじい氏の同人誌は、現在では非常に入手困難です。メルカリやヤフオク、まんだらけといった中古市場で探すことになりますが、プレミア価格がついていることも珍しくありません。
もし手軽に雰囲気を味わいたいのであれば、作者の方々のSNSや、当時のアーカイブサイト、ファンが制作したオマージュ動画などを探してみるのが良いでしょう。
現代のドラゴンボール作品との意外な共通点
面白いことに、AFで描かれていた「ファンたちの妄想」が、時を経て公式作品に似た形で登場することがあります。
例えば、『ドラゴンボール超』に登場する「身勝手の極意」。悟空の髪が銀色に輝くその姿は、かつてAFで描かれた「スーパーサイヤ人5」を彷彿とさせます。また、邪悪な界王神が悟空の体を奪う「ゴクウブラック」の設定も、ザイコーというキャラクターが持っていた「悟空の遺伝子を持つ敵」というエッセンスに通じるものがあります。
これが意図的なオマージュなのか、それとも「ドラゴンボールを愛する者が行き着く究極のアイデア」が一致しただけなのかは分かりません。しかし、ファンの熱意が公式をも動かす、あるいは公式と共鳴するという現象は、ドラゴンボールという作品がいかに愛されているかを物語っています。
まとめ:ドラゴンボールAFとは?噂の真相や作者、スーパーサイヤ人5の正体を徹底解説!
ドラゴンボールAFは、公式の枠を超えて世界中のファンが作り上げた「終わらない夢」の結晶です。
スペインの一人の青年が描いたイラストが、ネットの海を渡り、海を越えて日本で形になり、ついにはその作者が公式のペンを握る。これほどドラマチックな二次創作の歴史は、他の作品ではまず見られません。
- 正体: 海外のデマから派生したファンによる二次創作。
- 作者: 元絵はスペインのデヴィッド氏。漫画版はとよたろう(Toyble)氏やヤングじじい氏が有名。
- スーパーサイヤ人5: AFの象徴であり、銀色の髪を持つ究極の戦士。
公式ではないからといって、その価値が下がるわけではありません。むしろ、これほどまでに長く語り継がれるAFの存在は、ドラゴンボールという物語が持つ無限の可能性を証明しています。
もしあなたが最新のドラゴンボール超を読んでいて、ふと「もしこの先に更なる変身があったら?」と考えたとき、そこにはすでに新しい「AF」の種が生まれているのかもしれません。
かつて少年たちが夢見た「GTのその先」。ドラゴンボールAFという伝説は、これからも形を変えながら、ファンの心の中で生き続けていくことでしょう。

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