『進撃の巨人』という物語を語る上で、避けては通れない存在。それが主人公エレン・イェーガーです。
彼は物語の当初、巨人を駆逐したいという純粋な怒りに燃える少年として描かれていました。しかし、物語が進むにつれて彼が直面する現実はあまりにも過酷で、選ばされる選択肢はどれも「地獄」と言えるものばかり。
なぜ彼は、全世界を敵に回してまで「地鳴らし」という道を選んだのか。その結末に救いはあったのか。多くのファンが涙し、同時に困惑したエレンの真意について、その軌跡を追いながら徹底的に考察していきましょう。
自由を求めた少年が突きつけられた残酷な二択
エレン・イェーガーというキャラクターを突き動かしていたのは、常に「自由」への渇望でした。壁の中に閉じ込められ、家畜のように飼われている現状を打破し、壁の外にある「自由な世界」を見ること。それが彼の原動力だったはずです。
しかし、ついに辿り着いた海の向こうに待っていたのは、彼が夢見た「誰もいない自由な世界」ではありませんでした。そこにいたのは、島の人々を「悪魔」と呼び、絶滅を願う世界中の人間たちだったのです。
ここでエレンは、究極の選択肢を突きつけられます。
- 世界を救うために、自分たちパラディ島の人々が静かに滅びゆく道(安楽死計画)
- 自分たちの生き残りをかけて、島以外の世界をすべて踏み潰す道(地鳴らし)
この二択を前に、エレンが選んだのは後者でした。なぜ彼は、これほどまでに極端な答えを出してしまったのでしょうか。
確定した未来という絶望に抗い続けた日々
エレンには「進撃の巨人」の力によって、未来の記憶を見る能力がありました。物語の後半、彼が時折見せる虚ろな瞳は、自分が行うことになる「虐殺」という未来をすでに知っていたからです。
「未来は変えられる」と信じたいところですが、エレンの葛藤は凄まじいものでした。彼は、自分が地鳴らしを行うという未来を回避するために、別の道がないか必死に模索していたことが示唆されています。しかし、何をしても、どんな言葉を交わしても、事態は彼が見た記憶の通りに進んでいく。
ここで重要になるのが、エレンが抱いた「失望」です。彼は、外の世界に人類がいたこと、そしてその人類が自分たちを憎んでいたことに、心底がっかりしてしまった。アルミンと夢見た「未知の自然が広がる真っさらな世界」を実現したいという個人的な願望と、仲間を守りたいという使命感が、彼を虐殺へと向かわせる引き金となってしまいました。
仲間を守るという大義名分と個人的なエゴの境界線
エレンが「地鳴らし」を実行した理由として、よく挙げられるのが「仲間の長寿を願ったから」というものです。サシャやハンジといった尊い犠牲は出たものの、最終的にアルミンやミカサたちが「人類を救った英雄」として、平和な世界で生き残るための下地を作ろうとしました。
しかし、それだけが理由でないところが、エレン・イェーガーというキャラクターの深みであり、恐ろしさでもあります。
彼は最終回で、アルミンに対してこう告白しています。
「やりたかったんだ……」
この言葉は、彼の中にあった破壊衝動や、自分の理想とする「自由」を阻むものをすべて消し去りたいというエゴを認めた瞬間でした。
彼は決して完璧な聖人でも、冷徹な悪魔でもありませんでした。あまりにも大きな力を手に入れてしまった、どこにでもいる「普通で、ちょっとバカな少年」が、極限の状態で見せてしまった剥き出しの本性。それが、あの恐ろしい選択の裏側にあったのです。
ミカサの選択がもたらした巨人の力の終焉
物語の結末において、最も重要な役割を果たしたのはミカサ・アッカーマンでした。始祖ユミルが2000年もの間、フリッツ王への「愛」という呪縛に囚われ続けていたことは作中で明かされています。
その呪縛を解いたのは、ミカサが示した「愛しているからこそ、正しさのために愛する人を殺す」という選択でした。
エレンは、ミカサが自分を殺すことで巨人の力が消えるという結末をあらかじめ知っていました。彼は自分が悪役になりきり、ミカサに自分を討たせることで、世界から巨人の恐怖を消し去り、彼女を苦しみから解放しようとしたのです。
マフラーを巻いてくれたあの温かな思い出を胸に、ミカサがエレンの首を撥ねるシーン。それは残酷でありながら、エレンが唯一受け入れることができた「愛による断罪」でした。
エレンが辿り着いた結末に残されたもの
人類の8割を死滅させるという、漫画史上類を見ないほどの凄惨な結末を迎えたエレン。彼の行動は決して許されることではありません。しかし、その結果として、少なくとも仲間たちの世代には平和が訪れました。
最後に現れた鳥がミカサのマフラーを巻き直すシーンは、エレンが形を変えて彼女を見守っているかのような、かすかな希望を感じさせます。
エレンは「自由」を求めて進み続けましたが、皮肉にも「未来の記憶」に縛られ、最も不自由な存在としてその生涯を閉じました。彼が本当に自由になれたのは、すべてをやり遂げて、ミカサの手によってその命を終えた瞬間だったのかもしれません。
この物語を読み終えた後、私たちは「彼に別の選択肢はなかったのか?」と考えずにはいられません。しかし、もし別の道があったとしても、エレンという人間である以上、やはりあの結末に辿り着いたのではないか。そう思わせるほどの圧倒的な筆致が、この作品には込められています。
エレン 漫画の主人公が選ぶ選択肢と結末を徹底的に考察・解説のまとめ
さて、ここまで『進撃の巨人』の核心部分についてお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか。
エレンが選んだ「地鳴らし」は、愛する者を守るための究極の献身であると同時に、世界を自分の理想の色に染め変えようとした傲慢なエゴでもありました。その両面を持ち合わせているからこそ、彼は今もなお、私たちの心に強く残り続ける主人公なのだと感じます。
物語が完結してもなお、エレンの選択について議論が絶えないのは、彼が私たち読者に対して「お前ならどうする?」という問いを常に投げかけているからかもしれません。
もし、エレンやミカサたちの生き様をもう一度じっくりと振り返り、彼らの心の機微を深く味わいたいのであれば、進撃の巨人 全巻を手元に置いて、一気に読み返してみるのも一つの楽しみ方です。あの時気付かなかった伏線や、エレンの表情の裏にある真意に、新しい発見があるはずです。
エレンが最後に見た景色、そしてミカサが守り抜いた想い。その意味を考え続けることこそが、この壮大な物語を受け取った私たちができる、唯一のことなのかもしれません。
あなたの目には、エレンの選択はどう映りましたか?その答えはきっと、あなた自身の「自由」の中にあるはずです。

コメント