「最近、パートナーの様子がおかしい」「もしかして、うつ病なのかな……」
そんな不安を抱えながら、暗いトンネルの中にいるような気持ちで過ごしている方に、ぜひ手に取ってほしい一冊があります。それが、細川貂々さんのコミックエッセイツレがうつになりまして。です。
2006年の発売以来、ドラマ化や映画化もされ、今や「うつ病を扱った作品」の代名詞とも言える本作。なぜ、これほどまでに多くの人の心を打ち、読み継がれているのでしょうか。
今回は、実際に読み終えたあとに心に広がる温かな「感想」とともに、この漫画が描く「家族の絆」の真の魅力について、深く掘り下げていきたいと思います。
「宇宙風邪」という捉え方が教えてくれること
本作の最大の魅力は、うつ病という重くなりがちなテーマを、著者の細川貂々さん(てんさん)ならではの「ゆるい絵柄」と「独特の視点」で描き出している点にあります。
特に印象的なのが、うつ病を「宇宙風邪」と表現していること。
「心の風邪」という言葉はよく聞きますが、それよりももっと得体が知れず、どこからやってきたのかも分からない。でも、いつかは過ぎ去っていくもの。そんなニュアンスが込められたこの言葉に、救われた読者は少なくありません。
うつ病の診断を受けたとき、多くの家族は「自分のせいではないか」「どうしてこんなことになってしまったのか」と原因探しに奔走し、自分を責めてしまいます。しかし、この「宇宙風邪」という捉え方は、「仕方のないことが起きてしまったんだ」と、現状をありのままに受け入れる勇気を与えてくれるのです。
「頑張らない」という目標が生む新しい家族の形
物語は、バリバリのサラリーマンだった夫(ツレ)が、ある朝突然「死にたい」と口にするところから始まります。
それまでの「ツレ」は、完璧主義で、毎日お弁当を自分で作り、几帳面な性格でした。そんな彼がうつ病になり、これまでの生活がガラガラと崩れていく様子は、読んでいて胸が締め付けられる部分もあります。
しかし、本作が素晴らしいのは、そこからの「てんさん」の対応です。
彼女は、無理にツレを励まそうとはしません。世間一般で言われる「うつ病の人に言ってはいけない言葉」を、うっかり言ってしまうシーンも描かれます。完璧な看病を目指すのではなく、失敗しながらも、ツレと一緒に「頑張らないこと」を目標に掲げていくのです。
- 会社を辞めてもいい。
- 家事ができなくてもいい。
- ただ、生きていればそれでいい。
そんな究極の肯定感が、ページをめくるたびに伝わってきます。家族が病気になったとき、私たちはついつい「早く元通りになってほしい」と願ってしまいますが、本作は「元通り」ではなく「新しい自分たち」を見つける旅路を描いているのです。
割れなかったお皿のエピソードに見る「存在の価値」
本作の中で、多くの読者が「最も感動した」と挙げるエピソードがあります。それが「割れなかったお皿」のお話です。
ある日、ツレが体調の悪さからお皿を割ってしまいそうになります。しかし、お皿は割れずに済みました。それに対しててんさんがかけた言葉や、作品を通じて語られる「割れなかったことに価値がある」というメッセージ。
私たちは普段、何かを成し遂げたり、誰かの役に立ったりすることで自分の価値を測りがちです。特に、仕事ができなくなったうつ病の当事者は「自分には価値がない」と思い詰めてしまいます。
しかし、この漫画は「ただそこに存在していること」「壊れずにそこにいること」そのものに、かけがえのない価値があるのだと教えてくれます。このメッセージは、うつ病当事者だけでなく、現代の成果主義社会で息苦しさを感じているすべての人に刺さる「感想」として語り継がれています。
ズボラな妻と几帳面な夫の絶妙なバランス
ツレがうつになりまして。を語る上で欠かせないのが、夫婦のキャラクターの対比です。
- 超几帳面で真面目な「ツレ」
- マイペースで少しズボラな「てんさん」
一見、てんさんが一方的にツレを支えているように見えますが、実はそうではありません。てんさんもまた、漫画家としての仕事に悩み、不安を抱えています。ツレが病気になったことで、てんさんが一家の大黒柱として成長していく姿も、本作の大きな見どころです。
また、家の中にいるペットのイグアナ「イグ」の存在も重要です。人間同士だとどうしても感情がぶつかり合ってしまう場面でも、言葉を発しないイグがそこにいるだけで、家庭内の空気がふっと和らぐ。
「家族の絆」とは、何も常に手を取り合って見つめ合っていることだけではありません。程よい距離感を保ち、時にはお互いに頼りすぎず、ペットや趣味などの「第三の存在」を介して繋がっていることの大切さを、この漫画は教えてくれます。
専門書よりもリアルに伝わる「波」の正体
うつ病の治療は、右肩上がりに良くなっていくものではありません。三歩進んで二歩下がるような、一進一退の繰り返しです。
本作では、その「波」の描写が非常にリアルです。
昨日まで元気そうだったのに、今日は布団から起き上がれない。そんなツレの姿に、てんさんも戸惑い、時にはイライラしてしまいます。この「家族のリアルな感情」が隠さずに描かれているからこそ、同じ境遇にいる読者は「自分だけじゃないんだ」と深く共感できるのです。
専門的な医学書を読めば、うつ病の症状や治療法は分かります。しかし、その「波」の中で家族がどう揺れ動き、どうやって折り合いをつけていくべきかという「知恵」は、こうした体験記からしか得られません。
「調子が悪い状態が、今の自分たちの普通なんだ」と思えるようになったとき、家族の絆はより強固なものへと変わっていく。そのプロセスが、優しいタッチの絵で丁寧に綴られています。
映画やドラマ版との違いと漫画版の魅力
『ツレうつ』は映像作品も非常にクオリティが高いですが、やはり原点である漫画版ツレがうつになりまして。には独自の良さがあります。
映像ではどうしてもドラマチックな演出が必要になりますが、漫画はもっと淡々としています。その「淡々とした日常」こそが、療養生活の真実です。
また、各章の合間に挿入されている「ツレ本人のコラム」が非常に貴重です。
当事者がその時何を考えていたのか、どんな言葉が辛かったのか。後から振り返って書かれた本人の言葉は、今まさに家族を支えている人にとって、最高のガイドブックになります。
「あぁ、夫もあんなふうに感じているのかもしれない」と、相手の心の中を想像するヒントが詰まっているのです。
家族の絆を再構築するための「夏休み」
うつ病を、人生における「長い夏休み」だと捉え直してみる。
本作を読み進めていくと、そんな考え方が自然と身についてきます。これまでの走り続けてきた生活を一度止めて、自分たちにとって本当に大切なものは何か、どんな生き方が心地よいのかを再確認する時間。
もちろん、経済的な不安や将来への恐怖は消えません。しかし、ツレとうちの夫婦が選んだ「会社を辞める」「家でのんびり過ごす」「新しい仕事の形を模索する」という選択肢は、現代の私たちに「もっと自由でいいんだ」という勇気を与えてくれます。
病気がきっかけで壊れてしまう絆もあれば、病気があったからこそ結び直される強い絆もある。本作が描くのは、間違いなく後者の希望です。
ツレがうつになりましての感想は?家族の絆を描く漫画の魅力に迫る
ここまでツレがうつになりまして。の魅力をさまざまな角度から見てきました。
改めて、「ツレがうつになりましての感想は?」と問われれば、私はこう答えます。
「これは、病気の解説本ではなく、夫婦が自分たちらしい幸せを見つけるためのラブストーリーである」と。
うつ病という困難に直面したとき、どうしても私たちは「失ったもの」ばかりに目を向けてしまいます。仕事、健康、以前のような明るい家庭。しかし、この漫画は、失ったものの代わりに手に入れた「深い理解」や「飾らない優しさ」、そして「何があっても一緒にいられるという自信」に光を当てています。
もし今、あなたが大切な人のうつ病で悩んでいるのなら、どうか一人で抱え込まないでください。この本を開いて、てんさんとツレの歩んだ道を辿ってみてください。
そこには、完璧ではないけれど、とても温かくて愛おしい「家族の絆」の形が描かれています。読み終えたとき、きっとあなたの心にも、少しだけ風が通り抜けるような軽やかさが生まれているはずです。
ツレがうつになりまして。を読み終えたあとの、あなたの心に浮かぶ「感想」が、明日を生きる一筋の光になることを願っています。

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