週刊少年マガジンで10年もの間、多くの読者を熱狂させてきた本格テニス漫画『ベイビーステップ』。主人公・丸尾栄一郎(エーちゃん)が持ち前の分析力を武器に、一歩ずつプロへの階段を登っていく姿に、自分自身の人生を重ね合わせたファンも多いはずです。
しかし、2017年の連載終了時、ネット上には「えっ、これで終わり?」「完全に打ち切りじゃないか」という悲鳴にも似た声が溢れました。全47巻という大長編でありながら、なぜこれほどまでに「打ち切り説」が根強く囁かれているのでしょうか。
今回は、作者である勝木光先生が最後に残した言葉や、物語が迎えた結末の形から、その真相と続編の可能性について深く掘り下げていきます。
唐突すぎた最終回とファンの困惑
『ベイビーステップ』の最終回を読み終えた瞬間、多くの読者が感じたのは「爽快感」よりも「困惑」でした。
それもそのはず、物語はエーちゃんがプロ転向後、いよいよ世界ツアーの過酷な戦いに身を投じ、格上の強豪選手と対峙する「まさにこれから」というタイミングで幕を閉じたからです。スポーツ漫画の王道であれば、宿敵との決着やグランドスラム(四大大会)での活躍が描かれて然るべきところですが、本作は試合の決着すら描かれないまま「俺たちの戦いはこれからだ」という形で終了してしまいました。
連載終了の告知も、最終回のわずか3週前という異例の早さでした。10年続いた看板作品としてはあまりに急な幕引きだったことが、打ち切りという噂に拍車をかけた大きな要因と言えるでしょう。
勝木光先生が語った「力不足」という本音
打ち切り説を裏付ける最も有力な証拠とされているのが、単行本第47巻のあとがきに記された勝木光先生のメッセージです。
そこには、「色々事情もあり、主に私の力不足で主人公の人生を描くのはここまでになってしまい残念です」という趣旨の言葉が綴られていました。
通常、円満な形で物語が完結する場合、作者は「描き切った」「満足している」といった言葉を添えることが多いものです。しかし、勝木先生が選んだのは「力不足」と「残念」という、無念さが滲み出る表現でした。この言葉から、作者自身もこのタイミングでの完結を望んでいたわけではなく、何らかの外的な要因や限界によって筆を置かざるを得なかった状況が読み取れます。
なぜ物語は完結を急がなければならなかったのか
では、なぜこれほどの名作が、志半ばのような形で終わらなければならなかったのでしょうか。そこには複数の要因が絡み合っていると推測されます。
まず現実的な問題として、週刊連載における「掲載順位」と「単行本の売上推移」が挙げられます。47巻という長期連載になると、どうしても新規読者の参入ハードルが高くなります。物語が緻密であればあるほど、途中から読み始めるのが難しくなるため、雑誌全体の活性化を考える編集部側と、物語を丁寧に描き切りたい作者側で、継続の判断が分かれた可能性があります。
次に、本作の最大の特徴である「リアルさ」が、執筆のハードルを上げすぎてしまったという側面もあります。エーちゃんの強さは、超人的な必殺技ではなく、徹底した「分析」と「確率」に基づいています。
プロ編に入り、舞台が世界に広がると、対戦相手のバリエーションやテニスの技術論、さらには海外遠征の過酷な実態など、描くべき情報の密度は飛躍的に高まります。読者が納得する「エーちゃんならではの勝利の方程式」を毎週作り続けることは、精神的にも肉体的にも、そして取材の面でも、想像を絶する負荷がかかっていたはずです。
未回収の伏線と描かれなかった未来
本作には、ファンがどうしても見たかった「続き」がいくつも残されています。
- 四大大会での活躍:エーちゃんが最終的に目指していたグランドスラムの舞台。そこで世界のトッププレイヤーたちとどう渡り合うのか。
- 宿敵との再戦:難波江優や荒谷寛といった、ジュニア時代からのライバルたちとのプロの舞台での決着。
- なっちゃんとの恋の行方:ヒロイン・鷹崎奈津との関係。二人がプロテニスプレイヤーとして、支え合いながら世界を転戦する姿。
これらすべての要素が、最終回では「想像にお任せします」という形で投げ出されてしまいました。読者の多くが「打ち切り」だと叫びたくなったのは、彼らの未来を、勝木先生の描く繊細な筆致でもっと見守りたかったという愛ゆえの反発だったのかもしれません。
アニメ3期や続編の可能性はあるのか?
原作がこのような形で終了した今、ファンが期待するのはアニメの続編や、漫画の「プロ編・完全版」の執筆でしょう。
アニメ版はNHKで第2期まで放送され、原作の18巻あたりまでが描かれました。しかし、放送終了から長い年月が経過しており、原作の連載も終了している現状では、アニメ第3期の制作は極めて難しい状況にあります。
また、漫画の続編についても、2026年現在、公式な動きは見られません。勝木光先生はその後、短編の発表や他作品への協力など、自身のペースで活動を続けておられます。
しかし、絶望することはありません。昨今の出版業界では、一度完結した名作が数年、数十年を経て「新装版」や「続編」として復活するケースが増えています。デジタル配信での売上が伸びたり、SNSでの熱量が高まり続けたりすれば、いつかエーちゃんが世界で戦う姿を再び見られる日が来るかもしれません。
もし、今改めてエーちゃんの軌跡を最初から辿り直したい、あるいはテニスを始めてみたいと思った方は、ベイビーステップで単行本を揃えたり、テニスラケットを手に取ってみるのも良いでしょう。
まとめ:勝木光のベイビーステップが打ち切りと言われる真相
『ベイビーステップ』が打ち切りと言われる最大の理由は、物語が頂点に向かう途中で突如として幕を下ろした「終わらせ方」にあります。
作者である勝木光先生自身が「力不足」と認め、無念さを滲ませたあとがきは、ファンの心に今も深く刻まれています。しかし、たとえ終わり方が唐突だったとしても、この作品が描いてきた「努力の天才」の物語が、スポーツ漫画としての金字塔である事実に変わりはありません。
エーちゃんのノートには、まだ空白のページが残されています。いつかその続きが描かれることを願いつつ、私たちは彼が教えてくれた「一歩ずつ、着実に進むこと」の大切さを、自分自身の日常に活かしていくべきなのでしょう。
勝木光先生のベイビーステップ、打ち切りの噂を超えて語り継がれるその魅力は、今も色褪せることはありません。

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