『ジョジョの奇妙な冒険』という長い歴史を持つ物語の中で、なぜか特定の「昆虫」が読者の心に強く残ることがあります。そう、カブトムシです。
ジョジョファンであれば、「カブトムシ」と聞いて思い浮かべるシーンは大きく分けて二つあるはず。一つは、第6部「ストーンオーシャン」でプッチ神父が唱える謎めいた呪文のような言葉。そしてもう一つは、第4部「ダイヤモンドは砕けない」で描かれた、東方仗助と岸辺露伴によるあまりにもシュールで熱い昆虫バトルです。
一見すると、ただの虫に過ぎないカブトムシ。しかし、荒木飛呂彦先生が描く世界において、この生き物には深いメタファーや物語を動かす重要な鍵が隠されています。
今回は、ジョジョにおけるカブトムシの存在意義を、元ネタや考察を交えて徹底的に解剖していきます。これを読めば、次にジョジョを読み返す時の視点がガラリと変わるかもしれません。
第6部で繰り返される「カブト虫」14の言葉の正体
第6部の黒幕であるエンリコ・プッチ神父。彼が「天国へ行く」という目的を果たすために、自分自身の魂に刻み込んだ「14の言葉」があります。
この呪文のようなフレーズの中に、なぜか「カブト虫」という単語は4回も登場します。
- らせん階段
- カブト虫
- 廃墟の街
- イチジクのタルト
- カブト虫
- ドロローサへの道
- カブト虫
- 特異点
- ジョット
- エンジェル
- 紫陽花
- カブト虫
- 特異点
- 秘密の皇帝
このリストを見て、多くの読者が「なぜカブトムシが4回も?」と首を傾げたことでしょう。実は、これにはいくつかの非常に興味深い説が存在します。
ビートルズという伝説のバンドへのオマージュ
最も有力、かつジョジョらしい説が「ビートルズ(The Beatles)」説です。ご存知の通り、作者の荒木先生は大の洋楽好き。スタンド名やキャラクター名の多くが有名なアーティストや楽曲から引用されています。
カブトムシは英語で「Beetle」。そして伝説のバンド、ビートルズのメンバーはジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターの4人です。「カブト虫」という言葉が4回繰り返されるのは、この4人のメンバーを象徴しているのではないか、という考察は非常に説得力があります。
完全変態という「不可逆的な進化」の象徴
生物学的な視点から見ると、カブトムシは卵、幼虫、さなぎを経て成虫になる「完全変態」を行う昆虫です。一度成虫になってしまえば、二度と幼虫の姿に戻ることはありません。
プッチ神父が目指した「天国」とは、全人類が未来に起こる運命を予知し、それを覚悟して受け入れる世界でした。この「後戻りできない進化」や「運命の固定」というテーマが、劇的な変化を遂げて姿を変えるカブトムシの生態とリンクしていると考えられます。プッチ神父自身のスタンドが、ホワイトスネイクからC-MOON、そしてメイド・イン・ヘブンへと進化していく過程そのものを暗示しているのかもしれません。
エジプト神話と再生の象徴「スカラベ」
ジョジョの物語において、エジプトは第3部の決戦の地であり、すべての因縁が始まった場所でもあります。古代エジプトにおいて、カブトムシの仲間であるスカラベ(フンコロガシ)は、太陽神ケプリの化身とされ、「再生」や「復活」を司る聖なる虫として崇められていました。
DIOがプッチに授けたこの言葉の中にカブトムシが含まれているのは、DIO自身の復活や、彼が望んだ「新世界への再生」という願いが込められていた可能性も否定できません。
第4部・仗助vs露伴!狂気のカブトムシ相撲
第6部のシリアスな雰囲気とは打って変わって、第4部ではカブトムシが「遊び」の対象として登場します。しかし、そこはジョジョ。単なる遊びでは終わりません。
主人公の東方仗助と、人気漫画家の岸辺露伴。この二人が、チンチロリンでのイカサマ騒動を経て、プライドを懸けて激突したのが「カブトムシ相撲」です。
岸辺露伴の異常なまでの「リアリズム」
露伴は漫画家として「リアリティ」を何よりも重んじる男です。彼は仗助に勝つために、山に入って最強のカブトムシを捕まえるだけでなく、その生態を徹底的に研究しました。
劇中では、露伴がカブトムシの構造を理解するために、生きたまま解剖して中身を観察するという衝撃的な描写があります。「読者にリアリティを伝えるためには、自分が見たものしか描かない」という彼の狂気的なプロ意識が、カブトムシという小さな命を通じても表現されているのです。
スタンドを使わないからこそ熱い心理戦
このエピソードの面白いところは、お互いにスタンド能力で直接攻撃をするのではなく、あくまで「カブトムシの戦い」というルールの中で相手を負かそうとするところにあります。
露伴はカブトムシの習性を利用して仗助を追い詰め、仗助は仗助で、持ち前の機転(と少しのズルさ)で対抗します。ジョジョの魅力はスタンドバトルだけではありません。こうした「日常の延長線上にある知略戦」にこそ、荒木節が凝縮されています。
もしあなたが、自分でも最強のカブトムシを育ててみたい、あるいは昆虫の神秘に触れてみたいと思ったなら、まずはカブトムシ 飼育セットを手に入れて、彼らの生命力を間近で観察してみるのもいいかもしれません。露伴のような解剖はおすすめしませんが、観察することで見えてくる「黄金の精神」があるはずです。
ジョジョの世界における「虫」というメタファー
荒木先生の作品には、カブトムシ以外にも多くの昆虫が登場します。第8部「ジョジョリオン」ではクワガタ同士のバトルが描かれました。
なぜ、これほどまでに虫が登場するのでしょうか。それは、昆虫が持つ「造形美」と「異質さ」が、スタンドという概念に近いからではないでしょうか。
- 幾何学的な外骨格の美しさ
- 人間とは全く異なる行動原理
- 小さき者が持つ、生命の爆発力
これらはすべて、ジョジョのキャラクターやスタンドデザインに通じる要素です。特にカブトムシは、その硬い殻と圧倒的な角の造形から、まさに「重戦車」のような力強さを感じさせます。プッチ神父が言葉を繰り返すほどに執着したのも、その力強く完成された生命の形に、神性を見出していたからかもしれません。
カブトムシから読み解く「覚悟」の物語
プッチ神父が唱えた14の言葉は、最終的に彼のスタンドを「メイド・イン・ヘブン」へと導きました。時間の加速により、世界は一巡し、人々は自分の運命を知るようになります。
一見すると脈絡のない単語の羅列である「らせん階段」や「紫陽花」、そして「カブト虫」。これらはすべて、DIOとプッチという二人の男が共有した、特別な精神的イメージの断片です。
カブトムシが土の中で長い時間を過ごし、やがて地上へ出て空を目指すように、プッチ神父もまた、長い年月をかけてDIOの遺志を継ぎ、天国(地上より高い場所)へと辿り着こうとしました。
もし、この物語の奥深さをより深く理解したいなら、関連書籍や画集をチェックしてみるのもおすすめです。ジョジョの奇妙な冒険 第6部を改めて読み返せば、あの呪文の響きが以前よりもずっと重みを増して聞こえてくるはずです。
まとめ:ジョジョのカブトムシが教えてくれること
『ジョジョの奇妙な冒険』において、カブトムシは単なる記号ではありません。
第4部では、露伴の執念と仗助のバイタリティをぶつけ合うための「舞台装置」として。
第6部では、運命を変え、世界を一巡させるための「聖なる鍵」として。
それぞれ全く異なる役割を与えられながらも、共通しているのは「生命の強烈な個性を象徴している」という点です。
荒木先生が描くカブトムシのエピソードには、読者の好奇心を刺激する仕掛けが満載です。それは音楽への愛であったり、生物への畏敬の念であったり、あるいは人間心理の深淵であったりします。
カブトムシというキーワード一つをとっても、これだけの物語が広がっている。それこそが、ジョジョという作品が世代を超えて愛され続ける理由なのでしょう。
次にあなたがカブトムシを見かけた時、ふと頭の中で「らせん階段…カブト虫…」と呟いてしまったら、あなたも立派なジョジョ好き、あるいは「覚悟」を決めた一人かもしれません。
物語の細部に宿るこだわりを知ることで、ジョジョの体験はもっと豊かになります。ぜひ、この記事をきっかけに、原作のページをめくってみてください。そこには、小さなカブトムシが背負った、あまりにも壮大な宇宙が広がっています。
「ジョジョのカブトムシを徹底解剖!4部と6部の意味や元ネタ、呪文の謎を考察」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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