「ジョジョの奇妙な冒険」という偉大なサーガの中でも、ひときわ異彩を放ち、ファンの間でも熱い議論が交わされるのが第8部『ジョジョリオン』です。約10年というシリーズ最長の連載期間を経て完結しましたが、SNSや掲示板では「面白くない」「難解すぎる」という声もあれば、「これこそがジョジョの最高傑作だ」と断言する熱狂的なファンもいます。
なぜこれほどまでに評価が分かれるのか。そして、物語に散りばめられたあの伏線たちは何を意味していたのか。今回は、杜王町で起きた「呪いを解く物語」の真実に迫ります。
記憶喪失の主人公と「壁の目」から始まる異様な幕開け
物語は、2011年の東日本大震災後のM県S市杜王町から始まります。震災によって突如出現した隆起物「壁の目」のふもとで、ヒロインの広瀬康穂が発見したのは、全裸で土の中に埋まっていた一人の青年でした。
彼は自分の名前も、どこから来たのかも覚えていません。唯一の手がかりは、帽子に付いた記号と、肩にある星形の痣。そして何より異様なのは、彼の身体に「玉が4つある」という生物学的な矛盾でした。
この「自分は何者なのか」というアイデンティティの探求こそが、ジョジョ8部のメインテーマです。過去のシリーズのような「宿敵を倒すための旅」ではなく、自分の足元を掘り下げるような「内向的なミステリー」として物語が進んでいくため、これまでのジョジョに慣れ親しんだ読者は、まずこの温度差に戸惑うことになります。
康穂によって「東方定助」と名付けられた彼は、地元の名士である東方家に引き取られます。しかし、その家はどこか歪んでいました。家族全員がスタンド使いであり、それぞれが何かを隠している。この閉鎖的なコミュニティでの心理戦が、序盤の不気味な魅力を形作っています。
なぜ「面白くない」と言われるのか?その理由を分析
『ジョジョリオン』を読んで「面白くない」と感じる人の多くは、おそらく「物語のゴールが見えにくいこと」にストレスを感じているのではないでしょうか。
第3部なら「DIOを倒す」、第5部なら「ギャングのボスになる」という明確な目的がありました。しかし、8部は謎が謎を呼び、解決したと思ったらさらに深い謎が出てくるという構造をしています。
特に以下の3点が、読者を混乱させる要因となっています。
- 岩人間の生態とロジック: 敵が人間ではなく「岩人間」という特殊な生物であること。彼らの損得勘定や「摂理」を重んじる思考回路は、人間的な情熱に欠けるため、バトルのカタルシスが得にくい側面があります。
- 等価交換という冷徹なルール: 奇跡の果実「ロカカカ」を巡る争奪戦ですが、この果実は「何かを得れば何かを失う」という絶対的なルールがあります。ご都合主義な逆転劇が許されない世界観が、読者に重苦しい印象を与えます。
- スタンド能力の抽象化: ジョジョの奇妙な冒険 第8部 モノクロ版を読み返すと分かりますが、能力が「物理的な破壊」から「概念的な干渉」へとシフトしています。直感的に「すごい!」と思える描写よりも、「どういう理屈で負けたのか」を論理的に解読する必要があるため、読むのにエネルギーを要するのです。
しかし、これらの要素こそが、荒木飛呂彦先生が現代社会の「不条理」を描くためにあえて選んだ手法であるとも言えます。
徹底考察:未回収に見える伏線の正体とは
ジョジョ8部には、最後まで明確な説明がなかったように見える描写がいくつか存在します。これが「伏線回収が不十分だ」という批判に繋がっていますが、深く読み解くと、それらはあえて「余白」として残された、あるいは別の形で回収されたと解釈できます。
「壁の目の男」とジョニィの呪い
第1話に登場した謎の男の影。結局彼は誰だったのか。一説には設定の変更があったとも言われますが、物語の文脈から考えれば、あれは「過去の因縁の見守り人」のような象徴的な存在です。
8部は、第7部『スティール・ボール・ラン』の主人公、ジョニィ・ジョースターが持ち込んだ「聖なる遺体」の影響が色濃く残っています。ジョニィが家族を救うために犯した「等価交換の罪」が、100年後の杜王町に「呪い」として降り積もっている。壁の目は、その呪いを浄化し、二人を一人に融合させるための「場所そのものの意志」だったと考えられます。
赤ちゃんの取り違え事件
物語の中盤で語られる、過去の海岸での赤ちゃんの入れ替わり。これは物語に直接的な解決をもたらすギミックではありませんが、「血筋(血統)」が絶対だった旧世界(1~6部)に対し、新世界(7~8部)では「血縁を越えた繋がり」や「運命の混ざり合い」が重要であることを示すメタファーになっています。
ラスボス「透龍」と究極のスタンド「ワンダー・オブ・ユー」
物語の終盤に満を持して登場する透龍(とおる)。彼がこれまでのジョジョのラスボスと決定的に違うのは、彼自身が「悪」というよりは「システム(災厄)」そのものである点です。
彼のスタンド「ワンダー・オブ・ユー」は、「彼を追おうとする意志」を持った者に、周囲のあらゆる事象が「災厄」となって襲いかかるという無敵の能力です。雨粒が弾丸になり、タバコの煙が肺を切り刻む。この「追わせない」という能力は、物語の核心である「探求」に対する最大の拒絶です。
これを打破したのは、定助のスタンド「ソフト&ウェット」の中に隠されていた「この世に存在しない紐」でした。ジョジョの奇妙な冒険 第8部 カラー版の鮮やかな描写で見ると分かりやすいですが、爆発的な回転によって「無」となった紐は、この世の理(災厄の法則)に縛られません。
「存在しないものが、理不尽な運命を打ち砕く」というこの結末は、震災という抗えない災厄を経験した現代日本において、荒木先生が出した一つの希望の形だったのではないでしょうか。
結末の謎:定助は「誰」になったのか?
最終回、定助は東方家の家族として受け入れられ、ケーキを選ぶシーンで物語は幕を閉じます。
彼は吉良吉影でもなく、空条仗世文でもない。二人が混ざり合って生まれた「新しい誰か」です。失った記憶は戻りません。しかし、記憶がないことは「不幸」ではなく、これから新しい思い出を作っていく「自由」であると定義されました。
これは、過去の因縁や血統に縛られ続けてきたジョジョという作品が、ついに「個人」として自立した瞬間でもあります。結末が地味だと感じる人もいるかもしれませんが、一人の人間が「自分自身の人生」を獲得する物語としては、これ以上ないほど美しい着地点です。
ジョジョ8部『ジョジョリオン』は面白くない?伏線や結末の謎を徹底解説・考察!:まとめ
『ジョジョリオン』は、一度読んだだけではその真価が分かりにくい作品かもしれません。しかし、今回解説した「呪いからの解放」や「災厄との対峙」というテーマを念頭に置いて読み返すと、すべてのエピソードが緻密に繋がっていることに気づかされます。
- 定助のアイデンティティの確立
- 東方家を覆う石化の呪いとの決着
- 新ロカカカを巡る科学と野望の衝突
これらが複雑に絡み合い、最終的に「ソフト&ウェット・ゴー・ビヨンド」という奇跡に収束していく流れは、まさに圧巻です。
もしあなたが「途中で投げ出してしまった」あるいは「結末に納得がいかなかった」のであれば、ぜひもう一度、最初からページをめくってみてください。杜王町の地面の下には、まだあなたが気づいていない「輝く真実」が埋まっているはずです。
ジョジョの奇妙な冒険 第8部 全27巻セットを手に取り、この奇妙で切ない愛の物語を最後まで見届けてみませんか。あなたの目には、定助の最後の笑顔がどう映るでしょうか。

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