『ジョジョの奇妙な冒険』を読み進めていると、ふと耳にした洋楽のフレーズに「おや?」と手が止まる瞬間はありませんか?特に第4部や第6部を彩る強烈なキャラクターたちの背後には、伝説のロックバンド「クイーン(Queen)」の影が色濃く反映されています。
作者の荒木飛呂彦先生が無類の洋楽好きであることは有名ですが、中でもクイーンへのリスペクトは格別です。単に名前を借りているだけでなく、キャラクターの精神性や能力の根源にまで、彼らの楽曲が深く根を張っているのです。
今回は、ジョジョファンなら避けては通れない「クイーン」との密接な繋がりについて、スタンド能力の元ネタから歌詞に隠されたシンクロニシティまで、徹底的に深掘りしていきます。
宿敵・吉良吉影を形作った「Killer Queen」の衝撃
ジョジョ史上、最も静かに、そして最も恐ろしく読者の心に刻まれた悪役といえば、第4部の吉良吉影でしょう。彼のスタンド名「キラークイーン」は、言わずと知れたクイーンの代表曲Killer Queenから名付けられています。
この楽曲は、1974年に発表されたアルバムSheer Heart Attackに収録され、クイーンが世界的なスターダムにのし上がるきっかけとなった一曲です。歌詞の内容は、気品にあふれ、洗練された振る舞いを見せながらも、裏では恐ろしいまでの野心を秘めた女性を描いています。
歌詞とキャラクターの奇妙な一致
「キラークイーン」の歌詞を読み解くと、吉良吉影という男の性質がいかにこの曲に依拠しているかが分かります。
- 「Gunpowder, gelatine(火薬、ゼラチン)」:爆発物の代名詞が歌詞に登場し、これが「触れたものを爆弾に変える」というスタンド能力の直接的な着想源になったことは想像に難くありません。
- 「Dynamite with a laser beam(レーザー光線付きのダイナマイト)」:一瞬で標的を消し去る正確無比な爆破能力を象徴しています。
- 「Playful as a pussy cat(子猫のように遊び好き)」:スタンドのデザインが猫をモチーフにしている点や、吉良が自身の凶行をどこかゲームのように、あるいは日常のルーティンとして楽しんでいるサイコパス性を暗示しています。
吉良は「平穏に暮らしたい」と願いながらも、殺人衝動を抑えられない二面性を持っています。曲中で描かれる「高級なシャンパンを飲みながら、冷酷に相手を追い詰める貴婦人」のイメージは、エリートサラリーマンの仮面を被りながら夜の街を徘徊する吉良の姿そのものです。
アルバム『Sheer Heart Attack』に凝縮された第4部のエッセンス
吉良吉影の能力は、物語が進むにつれて進化していきますが、その追加能力の名称もまたクイーンの作品群から抽出されています。
弱点のない自動追尾弾「シアーハートアタック」
吉良の左手から放たれる第2の爆弾「シアーハートアタック」。この名称は、先述したアルバムタイトルSheer Heart Attackからそのまま取られています。
「Sheer Heart Attack」という言葉には「純粋な心臓麻痺」という意味があります。作中では、熱を感知して執拗に標的を追い詰め、有無を言わさず爆発させるという「不可避の死」として描かれました。曲自体も非常にパンキッシュでスピード感があり、逃げ場のない絶望感を見事に表現しています。
運命を固定する「アナザーワン・バイツァ・ダスト」
さらに吉良が追い詰められた末に発現させた第3の能力「バイツァ・ダスト(負けて死ね)」。元ネタはクイーンのヒット曲Another One Bites the Dust(邦題:地獄へ道づれ)です。
この曲は、単調ながらも力強いベースラインが繰り返されるのが特徴です。直訳すると「また一人が土を噛む(死ぬ)」という意味になります。
- 同じ時間を何度もループし、秘密を知った者を次々と爆殺していく能力。
- 逃れられない運命のリズムに飲み込まれていく絶望感。
まさに、曲の持つ「執拗な繰り返し」と「避けられない死」というテーマが、このスタンド能力の核となっているのです。荒木先生がいかに音楽の「質感」を漫画の能力に落とし込んでいるかがよく分かるエピソードです。
第6部で完成する「天国」とクイーンの魂
物語は第4部から第6部「ストーンオーシャン」へと進みますが、ここでもクイーンは物語のクライマックスにおいて重要な役割を果たします。
「メイド・イン・ヘブン」への名称変更とフレディの遺志
第6部の宿敵、エンリコ・プッチ神父が最終的に到達したスタンド能力「メイド・イン・ヘブン」。実は、雑誌掲載時の名前はレッド・ツェッペリンの楽曲に由来する「ステアウェイ・トゥ・ヘブン(天国への階段)」でした。
単行本収録時にMade in Heavenへと変更された背景には、いくつかの説がありますが、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーへのリスペクトが大きな要因の一つと言われています。
この楽曲はフレディの死後に発表されたアルバムの表題曲であり、彼が自身の運命を受け入れ、天に召されるような崇高な響きを持っています。「全人類が未来の運命を覚悟して生きる」というプッチ神父の目指した「天国」の概念に、この曲のタイトルはこれ以上ないほど合致しました。
世界を一巡させる圧倒的なスケール
「メイド・イン・ヘブン」の能力は、時の加速によって宇宙を終焉させ、新たな世界へと一巡させるという、シリーズを通じても最大規模のものです。
クイーンというバンド自体、オペラのような多層的なコーラスや、壮大なサウンドスケープを得意としていました。宇宙規模の物語の結末を飾るのに、クイーンの音楽的スケール感が必要不可欠だったのかもしれません。
「ボヘミアン・ラプソディー」に見るカオスと様式美
同じく第6部には、ウンガロのスタンドとして「ボヘミアン・ラプソディー」が登場します。
元ネタであるBohemian Rhapsodyは、ロック、バラード、オペラが複雑に組み合わさった、クイーンの最高傑作と名高い一曲です。作中での能力は「あらゆる架空のキャラクターを実体化させる」という、まさにカオスそのものの世界を作り出すものでした。
バラバラな要素が一つの楽曲として奇跡的なバランスで成立しているこの曲のように、漫画やアニメ、絵画といった多様なキャラクターが現実を侵食していく様子は、まさに「自由人の狂想曲」という名にふさわしい展開でした。
荒木飛呂彦先生がクイーンから受けた視覚的影響
ジョジョとクイーンの繋がりは、名前や能力だけではありません。キャラクターの立ち振る舞い、いわゆる「ジョジョ立ち」にも、クイーンの影響を見て取ることができます。
特にフレディ・マーキュリーのステージでのパフォーマンスは、非常に演劇的で、肉体の美しさを強調する独特のポージングが多用されていました。
- 胸を張り、片手を突き上げるポーズ。
- タイトなレザーやスパンコールを多用した、ジェンダーレスで華美なファッション。
- 筋肉質でありながら、どこか優雅さを感じさせるしなやかな動き。
これらは、ジョジョのキャラクターたちが持つ「グラマラスな美学」と共通しています。80年代の音楽シーンにおいて、圧倒的なビジュアルショックを与えたクイーンの存在は、荒木先生の作画スタイルにおける重要なピースとなっているのです。
音楽を知ることで広がるジョジョの世界観
ここまで見てきたように、ジョジョにおけるクイーンの要素は、単なる「オマージュ」の域を遥かに超えています。
もし、まだクイーンの楽曲をじっくり聴いたことがないのであれば、ぜひGreatest Hitsなどのベストアルバムを手に取ってみてください。音楽を聴きながら原作を読み返すと、それまで気付かなかったキャラクターの心情や、バトルのリズムが見えてくるはずです。
吉良吉影の冷徹な爆発音が、フレディの力強い歌声と共に脳内で再生される。そんな体験ができるのも、ジョジョという作品が持つ大きな魅力の一つです。
ジョジョとクイーンの深い関係!キラークイーンの元ネタから歌詞の繋がりまで徹底解説のまとめ
さて、ジョジョとクイーンの密接な関係について振り返ってきましたが、いかがでしたでしょうか。
キラークイーンという名前に込められた二面性、シアーハートアタックがもたらす絶望的なスピード感、そしてメイド・イン・ヘブンが導く宇宙規模の運命。これらの要素は、クイーンという伝説的なバンドが残した音楽的遺産と、荒木飛呂彦先生の創造力が奇跡的に融合した結果生まれたものです。
ジョジョという物語は、常に「人間讃歌」をテーマに掲げています。クイーンの音楽もまた、人間の弱さや醜さ、そしてそれを超える高潔さを歌い続けてきました。両者がこれほどまでに惹かれ合い、共鳴し合っているのは、根底にある「生命への熱量」が同じだからかもしれません。
次にあなたがジョジョのページをめくる時、そこにはきっと、クイーンの華麗な旋律が鳴り響いているはずです。音楽と漫画の境界線を超えたこの素晴らしい芸術の繋がりを、これからも存分に楽しんでいきましょう。

コメント