「ジョジョの奇妙な冒険」という作品が、今や世界中で愛されるビッグタイトルであることは説明不要でしょう。第1部から第9部まで続く壮大な物語の中で、すべての始まりである「ファントムブラッド」。実はこの第1部、かつてスクリーンで公開されながらも、現在は「存在しないもの」として扱われている劇場版アニメがあるのをご存知でしょうか。
「観たくても観られない」「公式から抹消された」……そんな不穏な噂が絶えない2007年公開の映画版。なぜこれほどの人気作が、DVD化も配信もされずに「幻」となってしまったのか。その謎と真相について、当時の熱気や事情を知るファンの声を交えながら、徹底的に深掘りしていきます。
2007年に公開されたもう一つの「第1部」とは
ジョジョの第1部といえば、2012年から放送されたテレビアニメ版が有名ですよね。しかし、それより5年も前の2007年、シリーズの連載開始20周年を記念して、劇場用長編アニメーション『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』が全国公開されました。
制作を担当したのは、1990年代に高いクオリティでファンを驚かせたOVA版第3部を手掛けたスタジオ「A.P.P.P.(アナザー・プッシュ・ピンプ・プランニング)」。監督は、劇画的な作画に定評のある羽山淳一氏が務めました。
当時のファンは、あの重厚な第1部の世界が、スクリーンでどう描かれるのかと胸を躍らせて劇場へ足を運んだのです。しかし、公開が終わると同時に、この作品は文字通り「消えて」しまいました。
なぜDVD化も配信もされない「封印された作品」になったのか
通常、映画が公開されれば数ヶ月後にはDVDが発売され、現在なら動画配信サービスで視聴できるのが当たり前です。しかし、この劇場版に限っては、公開から15年以上が経過した今でも、パッケージ化の兆しすらありません。
その理由は公式には明言されていませんが、複数の深刻な要因が重なったためだと言われています。
まず挙げられるのが、2008年に発覚した「宗教的表現に関する問題」です。この映画を制作したA.P.P.P.が過去に作ったOVA版第3部において、悪役のディオが手にしていた書物がイスラム教の聖典「コーラン」であったことが判明し、国際的な騒動に発展しました。
集英社と制作側は謝罪し、当時の関連商品の出荷停止や回収が行われました。この余波を受け、同じ制作会社が手掛けた劇場版『ファントムブラッド』も、再展開が極めて困難な状況に陥ったという説が濃厚です。
さらに、作品自体の「内容の大胆すぎる改変」も、ソフト化が見送られた一因ではないかと囁かれています。
スピードワゴンがいない?原作ファンを驚愕させた大胆な改変
この映画が「幻」と言われる最大の理由は、その特異な構成にあります。なんと、ジョジョ史上屈指の人気キャラクターであり、物語の解説役として欠かせない存在であるロバート・E・O・スピードワゴンが、物語から完全にカットされているのです。
上映時間約90分という限られた尺の中に、第1部の全容を詰め込むため、制作側は「ジョナサンとディオの愛憎劇」に焦点を絞るという決断を下しました。その結果、スピードワゴンだけでなく、波紋の師匠であるツェペリ男爵との出会いや修行シーンも大幅に削られ、物語はハイスピードで進んでいきます。
「君が泣くまで殴るのをやめない!」といった名セリフも別の表現に差し替えられるなど、原作の忠実な再現を期待したファンにとっては、戸惑いの大きい内容だったことは否定できません。
それでも評価される「圧倒的な作画」と「至高の音楽」
一方で、この映画を「駄作」と切り捨てることはできません。実際に劇場で鑑賞した人々の記憶に残っているのは、息を呑むような美しい映像美です。
羽山淳一氏によるキャラクターデザインは、原作初期の荒々しくも力強いタッチを現代的に昇華させたものでした。特にディオの美しさと禍々しさは、歴代のアニメ化作品の中でもトップクラスだと評する声も多いです。
そして、忘れてはならないのが音楽です。主題歌を担当したのは、当時絶大な人気を誇ったラップグループ「SOUL’d OUT」。彼らの楽曲VOODOO KINGDOMは、ディオという男のカリスマ性を完璧に表現した名曲として、今なお多くのジョジョファンに愛され続けています。
映像の一部は、この楽曲のミュージックビデオや、当時のプロモーション用映像でわずかに確認することができます。それを見るだけでも、この映画がどれほどの熱量で作られていたかが伝わってきます。
今から観る方法は本当にないのか?
「どうしても観たい!」と願うファンのために、現在の視聴可能性を調査しましたが、結論から言うと「公式に観る方法は存在しない」というのが現実です。
中古市場でDVDを探そうとしても、そもそも発売されていないため、店頭に並ぶことはありません。稀にオークションサイトなどで「試写会用DVD」や「特典ディスク」が出品されることがありますが、それらは本編の一部やダイジェストを収録したものであり、映画全編を収めたものではないことがほとんどです。
また、2012年のテレビアニメ化以降、ジョジョの映像作品としての決定版はそちらに移った感があります。権利関係が複雑に絡み合った旧劇場版を、あえて今の時代に再リリースする商業的なメリットが薄いことも、封印を解く妨げになっているのかもしれません。
ジョジョの歴史に刻まれた「語り継がれるべきミステリー」
ジョジョの奇妙な冒険という作品は、常に新しい挑戦を続けてきました。2007年の劇場版もまた、その挑戦の一つだったのでしょう。スピードワゴンを削り、純粋な男二人の決着に特化した構成は、ある意味で非常に贅沢な試みだったとも言えます。
もし、あの宗教的な問題が起きなければ。もし、もう少し上映時間が長ければ。今頃私たちは、Fire TV Stickを使って、自宅で気軽にこの幻の映像を楽しんでいたかもしれません。
観ることができないからこそ、その価値は高まり、ファンの間で伝説として語り継がれる。まさに「黄金の精神」ならぬ「幻の精神」を宿した作品と言えるのではないでしょうか。
ジョジョの奇妙な冒険ファントムブラッド映画版はなぜ幻に?配信やDVD化の真相を徹底調査:まとめ
今回の調査を通じて、劇場版『ファントムブラッド』がたどった数奇な運命が明らかになりました。
作品のクオリティ不足ではなく、制作スタジオを巡る国際的な騒動や、あまりにも尖りすぎた構成、そしてその後のテレビアニメ版の成功。これらがパズルのピースのように組み合わさり、本作を「観ることができない伝説」へと変えてしまったのです。
今後、もし奇跡的にリマスター版が発売されるようなことがあれば、それはジョジョ界における最大級のニュースになるでしょう。それまでは、主題歌VOODOO KINGDOMを聴きながら、かつてスクリーンの中だけで燃え上がったジョナサンとディオの物語に思いを馳せるしかありません。
ジョジョの世界は、知れば知るほど奥が深いものです。原作漫画や現行のアニメを楽しみつつ、こうした「失われた歴史」に触れることで、作品への愛着はより一層深まっていくはずです。いつか再び、あの幻の映像が日の目を見る日が来ることを願って止みません。

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