『ジョジョの奇妙な冒険』の熱狂的なファンならずとも、その独特な世界観に一度触れたら忘れられないキャラクター、それが漫画家・岸辺露伴です。
彼が挑むのは、単なる敵とのバトルではありません。リアリティを追求するあまり、自ら怪異の深淵へと足を踏み入れてしまう「好奇心の化身」としての物語です。その中でも、ひときわ異彩を放つエピソードが『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』。
舞台はフランス、花の都パリ。世界最大級の芸術の殿堂であるルーブル美術館を舞台に、露伴は「この世で最も黒い絵」の謎に迫ります。なぜ日本の漫画家がルーブルでロケを行い、これほどまでに美しい物語を紡げたのか。
映画版で描かれた圧倒的な映像美や、物語の核心に迫る「黒い絵」の正体、そしてファンなら一度は訪れたいロケ地の秘密まで、その魅力を余すことなく紐解いていきましょう。
荒木飛呂彦が挑んだ「世界一の美術館」との異例のコラボ
そもそも、なぜ日本の漫画キャラクターである岸辺露伴がルーブル美術館へ行くことになったのでしょうか。そこには、アートの歴史を塗り替える画期的なプロジェクトがありました。
ルーブル美術館は2003年から「バンド・デシネ(BD)プロジェクト」を始動させました。これは、漫画を「第9番目の芸術」として認め、選ばれた漫画家にルーブルをテーマにした作品を描いてもらうという試みです。
このプロジェクトに日本人として初めて選ばれたのが、『ジョジョの奇妙な冒険』の生みの親である荒木飛呂彦先生でした。荒木先生は実際に現地を取材し、閉館後の誰もいない美術館の静寂や、地下に眠る広大な収蔵庫の空気感を肌で感じ、それを作品へと昇華させたのです。
原作漫画は全編フルカラー。ジョジョ特有の鮮やかな色彩が、ルーブルの歴史ある建物や名画と見事に調和しています。この「芸術×漫画」の融合こそが、本作が他のスピンオフ作品とは一線を画す「特別な一作」と言われる理由です。
映画化に際しても、岸辺露伴 ルーヴルへ行く Blu-rayなどの映像作品で確認できる通り、本物のルーブル美術館でロケが行われました。映画のスクリーンに映し出される「サモトラケのニケ」や「モナ・リザ」の迫力は、まさに本物だけが持つオーラを放っています。
呪われた「最も黒い絵」の正体とは?江戸時代の絵師が残した業
物語の軸となるのは、露伴が青年時代に淡い恋心を抱いた女性・奈々瀬から聞いた「この世で最も黒い絵」の噂です。その絵は、あまりに邪悪であるがゆえに、ルーブルの地下深く、忘れ去られた「Z-13倉庫」に封印されているといいます。
この絵を描いたのは、江戸時代の絵師・山村仁左右衛門。彼は既存の墨では満足できず、禁じられた「蜘蛛の糸から抽出した黒い顔料」を使い、狂気の中で一枚の絵を完成させました。
しかし、その絵は見る者に災いをもたらす呪いの品でした。仁左右衛門は処刑され、絵は海を渡り、いつしかルーブルの暗闇に収められることになったのです。
この「黒い絵」の正体、それは見る者の「血筋」や「過去の罪」に呼応する鏡のような存在です。絵に触れた者は、自分の先祖が犯した過ちや、自分が心の奥底に封じ込めた後悔を具現化され、それに飲み込まれて命を落とします。
「黒」という色は、すべての光を吸収し、何も跳ね返さない色です。それは、言い逃れのできない「過去の真実」そのものを象徴しているのかもしれません。露伴はこの絶対的な暗黒を前に、自身の特殊能力「ヘブンズ・ドアー」すら通用しない絶望的な状況に追い込まれることになります。
高橋一生が体現する岸辺露伴のリアリティと映画版の魅力
実写版において、岸辺露伴を演じる高橋一生さんの存在感は欠かせません。ドラマシリーズから続く彼の熱演は、漫画的な誇張を削ぎ落としつつ、露伴という男の「変人ゆえの気高さ」を完璧に表現しています。
映画版では、青年時代の露伴を長尾謙杜さんが演じ、現在と過去が交錯する構成になっています。青年期の瑞々しくも危うい感性と、円熟味を増した現在の露伴。その対比が、物語に深みを与えています。
また、映画版のオリジナル要素として、編集者の泉京香(飯豊まりえ)の同行が挙げられます。原作では露伴一人でフランスへ渡りますが、映画では二人の掛け合いが、重苦しくなりがちなホラー・サスペンスの中に心地よいリズムを生んでいます。
特に印象的なのは、ルーブル美術館の館内を二人が歩くシーン。本物の芸術作品に囲まれた彼らの姿は、まるで絵画の一部のように美しく、観客をパリの空気感へと誘います。高橋一生 雑誌などのインタビューでも語られている通り、実際のルーブルでの撮影は、役者自身の演技にも計り知れない影響を与えたようです。
聖地巡礼ガイド:日本とフランスを結ぶロケ地の秘密
映画の世界観に浸りたいなら、ロケ地巡りは最高の体験になります。本作はフランスだけでなく、日本の美しい風景も重要な役割を果たしています。
まず、青年時代の露伴が夏を過ごした旅館のモデルとなったのが、福島県会津若松市にある「向瀧」です。この旅館は国の登録有形文化財にも指定されており、木造建築の美しさと、夜に灯る明かりが幻想的な雰囲気を醸し出しています。奈々瀬と露伴が過ごしたあの静謐な時間は、この場所だからこそ表現できたと言えるでしょう。
また、回想シーンに登場する「霧幻峡」も必見です。川面に霧が立ち込める中、小舟が進む様子は、この世とあの世の境界線のような不思議な感覚を抱かせます。
そして、舞台は一気にパリへ。
ルーブル美術館はもちろんのこと、露伴と京香が歩いた「ポン・デ・ザール(芸術橋)」は、セーヌ川を一望できる絶景スポットです。かつては恋人たちが南京錠をかける場所として有名でしたが、現在はその景観の美しさで知られています。
さらに、劇中で重要な役割を果たすオークション会場。ここは横浜の「ホテルニューグランド」で撮影されました。重厚なクラシック様式の内装は、フランスの建物と比較しても遜色のない気品を感じさせます。
これらの場所を訪れる際は、ぜひ一眼レフカメラを携えて、露伴が見たであろう「リアリティ」を写真に収めてみてください。
ジョジョ初心者でも楽しめる?本作を120%楽しむためのポイント
「ジョジョの奇妙な冒険」は長い歴史を持つ作品ですが、この『ルーヴルへ行く』に関しては、予備知識がなくても十分に楽しめる独立した作品になっています。
押さえておくべきポイントはたった一つ。岸辺露伴が「ヘブンズ・ドアー」という、相手を本にして人生の記録を読み、情報を書き換えることができる特殊能力を持っているということだけです。
この能力があるからこそ、露伴はどんな危機も「ネタ」として面白がります。しかし、今回の相手は「自分自身の血筋」という、書き換えることのできない宿命。無敵に思えた能力が通用しない時、露伴がどのような選択をするのか。そこが最大の評価ポイントです。
また、美術に興味がある人にとっても、この作品は興味深い視点を提供してくれます。「修復」とは何か、「保存」とは何か。美術館という場所が持つ、歴史を「閉じ込める」という性質が、ホラー的な文脈で語られる面白さは、他の作品では味わえません。
まとめ:ジョジョ・岸辺露伴とルーブル美術館の謎が教える「表現者」の覚悟
物語の終盤、露伴は自らの過去と向き合い、一つの答えに辿り着きます。それは、単なる事件の解決ではなく、一人の表現者としての成長でもありました。
「この世で最も黒い絵」が象徴していたのは、消し去ることのできない怨念や後悔でしたが、露伴はそれを「知る」ことで、自らの血の中に流れる物語を受け入れたのです。
荒木飛呂彦先生がルーブルという世界最高の舞台で描きたかったのは、芸術が持つ「光」と、その裏側にある「闇」の両立だったのかもしれません。美しいものには必ず影があり、その影こそが作品に永遠の命を吹き込む。
ジョジョファンの方はもちろん、美しい映像や深いミステリーを求めるすべての人に、この物語は鮮烈な印象を残すはずです。
もし、あなたがまだこの物語に触れていないのなら、まずは原作漫画や映画をチェックしてみてください。そして、いつか本物のルーブルを訪れた時、地下の暗闇に目を凝らしてみてください。そこには、今も露伴が追い求めた「究極の黒」が眠っているかもしれません。
ジョジョ・岸辺露伴とルーブル美術館の謎を追いかける旅は、あなたの日常に「リアリティ」という名の刺激を与えてくれることでしょう。


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