「おまえは今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
そんな衝撃的なセリフや、重力を無視したかのような独特のポージング。35年以上の歳月を経てなお、色褪せるどころか輝きを増し続ける唯一無二の作品、それが『ジョジョの奇妙な冒険』です。
なぜ、私たちはこれほどまでにジョジョに惹きつけられるのでしょうか? 単に「絵が個性的だから」とか「能力バトルが面白いから」という言葉だけでは片付けられない、圧倒的な「王道の引力」がそこには存在します。
実は、作者である荒木飛呂彦先生の創作術には、あらゆる表現者がひれ伏すほどの緻密な計算と、揺るぎない「基本の型」があるのです。今回は、プロの漫画家志望者から熱狂的なファンまでが唸る、荒木流・創作の極意を徹底的に解剖していきます。
漫画を支える「基本四大構造」という最強の設計図
荒木先生は、漫画という表現を「最強の総合芸術」と定義しています。そして、ヒットする漫画には必ず共通する「基本四大構造」があると説いています。
それは「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」の4つです。
この4つの要素が、黄金比のように完璧なバランスで組み合わさったとき、読者はその作品の世界から抜け出せなくなります。特筆すべきは、荒木先生がこの4要素に明確な優先順位をつけている点です。
最も重要なのは「キャラクター」。次に「ストーリー」、そして「世界観」「テーマ」と続きます。もしあなたが創作に悩み、「物語が動かない」と感じているなら、この優先順位が崩れている可能性があります。
荒木流漫画術の真髄は、まず「絶対にブレないキャラクター」を構築し、そのキャラが勝手に歩き出すのを作者が追いかけるような感覚にあります。この設計図さえしっかりしていれば、どんなに奇抜な設定を持ち込んでも、物語の背骨が折れることはありません。
魂を吹き込む「身上調査書」の魔力
ジョジョの登場人物たちが、まるで実在する人間のように生々しい存在感を放っているのはなぜか。その秘密は、荒木先生が執筆前に作成する膨大な「身上調査書」にあります。
これは単なるキャラクター設定表ではありません。身長、体重、生年月日といった基本情報はもちろん、以下のような細部まで徹底的に掘り下げられます。
- 好きな食べ物と嫌いな食べ物
- 尊敬する人物と嫌いなタイプ
- 初恋の相手と、その結末
- 今の悩み事や、ついやってしまう癖
- 他人からどう見られたいと思っているか
驚くべきことに、これらの項目の多くは、実際の漫画本編には一度も登場しません。しかし、作者の中に「この男なら、この場面でこう動くはずだ」という絶対的な確信が生まれるまで、この調査は続けられます。
例えば、空条承太郎がピンチに陥ったとき、彼が「やれやれだぜ」と呟くのか、それとも激昂するのか。それは設定の表面ではなく、彼の生い立ちや過去の傷跡から導き出される必然の行動なのです。この「見えない設定」の積み重ねが、読者に「このキャラは嘘をつかない」という信頼感を与え、圧倒的なリアリティを生み出します。
常にプラスへ!「右肩上がりの法則」を貫くストーリー
ジョジョの物語を読んでいると、独特の疾走感と「次はどうなるんだ!」という興奮が止まりません。これは、荒木先生が課している「ストーリーは常にプラスに転じなければならない」という鉄則によるものです。
多くの物語では、一度得た勝利の後に、主人公が落ち込んだり、実力がリセットされたりする展開があります。しかし、荒木流の王道では、主人公は常に前を向き、精神的に成長し続けなければなりません。
たとえ肉体的にボロボロになり、仲間を失うような絶望的な状況であっても、魂だけは「プラス」の方向へ向かっていること。これがジョジョの代名詞でもある「黄金の精神」の正体です。
また、荒木先生はサスペンスの神様、ヒッチコックの手法を巧みに取り入れています。「何かが起きそうだ」という予感(伏線)を読者に提示し、それを予想外の角度から回収する。この知的な駆け引きが、単なるパワーゲームではない、高度な「心理戦・能力バトル」を成立させているのです。
身体に刻まれる「リアリティ」と美術の融合
ジョジョを語る上で外せないのが、あの独特のビジュアルです。一見するとデフォルメされた奇抜な絵に見えますが、その根底には徹底した「観察」と「解剖学」があります。
荒木先生は、イタリアのルネサンス美術や、ミケランジェロの彫刻から多大な影響を受けています。筋肉のつき方、重心の移動、指先の表情。それらが「美しく見える角度」を、漫画という2次元の空間に落とし込んでいるのです。
あの有名な「ジョジョ立ち」も、単にかっこいいポーズを狙ったものではありません。ファッション誌のモデルの立ち振る舞いや、古典彫刻の捻りを研究し尽くした結果、生まれた表現です。
さらに、擬音(「メメタァ」「ゴゴゴ」など)や、独特のカラーリングもすべては「読者の五感に訴える」ための演出です。紙の上から音が聞こえ、温度が伝わり、匂いが漂ってくるような感覚。この「五感を刺激するリアリティ」こそが、読者をジョジョの世界という「異界」に引きずり込む引力となっています。
「人間讃歌」という揺るぎないテーマの継承
ジョジョのシリーズは、部ごとに主人公が変わり、舞台も19世紀のイギリスから現代の日本、さらには異世界へと移り変わります。それでも「これはジョジョだ」と一目でわかるのは、全編を通じて「人間讃歌」というテーマが貫かれているからです。
荒木先生は、「人間は不完全で、弱くて、死ぬ運命にある。けれど、恐怖を克服し、運命に立ち向かう姿はなんて素晴らしいんだ」というメッセージを送り続けています。
それは、吸血鬼や究極生物といった「不死身の怪物」との対比でより鮮明になります。機械や魔法の力に頼り切るのではなく、知恵と勇気、そして他者を信じる心で戦うこと。この普遍的なテーマがあるからこそ、世代を超えて、国境を越えて、多くの人の心に深く突き刺さるのです。
プロの道具と執筆を支える環境
荒木先生の創作を支えるのは、精神論だけではありません。プロとしての徹底した自己管理と、道具へのこだわりも一流です。
アナログ原稿にこだわり続け、Gペンとインクで描き出される鋭い線。その一筆一筆に魂を込めるために、先生は規則正しい生活を崩さないことで有名です。締め切りを一度も落としたことがないという逸話は、もはや伝説ですが、それは「常に最高のパフォーマンスを読者に届ける」というプロ意識の現れです。
執筆時には、洋楽(プログレッシブ・ロックやハードロック)を流し、そのリズムを画面構成に取り入れることもあるといいます。また、スケッチの際には iPad Pro や最新のデジタルツールを資料閲覧に活用するなど、伝統を守りつつも新しいものを取り入れる柔軟さを持ち合わせています。
アイディアが詰まったときには、散歩をしたり、海外旅行へ行って現地の空気(光の当たり方や建物の質感)を肌で感じたりすることを大切にされています。こうした「一次情報」を大切にする姿勢が、ジョジョという作品に奥行きを与えているのは間違いありません。
読者の心を掴む「一話完結」の緊張感
ジョジョの構成で秀逸なのは、長大な物語でありながら、毎回の連載分(あるいは1エピソードごと)に必ず「見せ場」と「解決」が用意されている点です。
「今週は面白かったけど、来週までお預け」というストレスを最小限にし、「今週もすごかった!でも次はどうなるんだ?」という期待を最大化させる。この計算されたエンターテインメント性は、週刊連載という過酷な現場で磨き上げられた職人技です。
特にスタンドバトルのルール設定においては、「何でもあり」を禁じています。「射程距離がある」「一度に一つの能力しか使えない」といった制約があるからこそ、主人公は絶体絶命のピンチに追い込まれ、それを知恵で覆すカタルシスが生まれます。
この「制約の中での自由」こそが、クリエイティビティを爆発させる鍵であることを、荒木先生の背中は教えてくれています。
荒木飛呂彦が示す、表現者の進むべき道
創作において、個性を出すことは簡単そうに見えて最も難しいことです。多くの人が「流行り」を追いかけ、どこかで見たような作品を作ってしまう中で、荒木先生は常に「自分にしか描けないもの」を追求してきました。
しかし、それは決して独りよがりなものではありません。「基本四大構造」という王道の型をマスターした上で、そこに自分の好きなホラー、映画、ファッション、ルネサンス美術といった要素をトッピングしていく。
「王道とは、決して古臭いものではなく、時代を超えて通用する最強の武器である」
荒木先生の歩んできた道は、そう物語っています。私たちがジョジョから学ぶべきは、単なる表面的なテクニックではなく、自分の好きなものを徹底的に肯定し、それをプロの技術で磨き上げる「黄金の精神」そのものなのです。
ジョジョに学ぶ漫画術!荒木飛呂彦の創作秘話と黄金の精神が宿る「基本四大構造」とは?
ここまで、荒木飛呂彦先生の創作術について深く掘り下げてきました。
キャラクターの魂を削り出す「身上調査書」、物語を停滞させない「プラスの法則」、そして作品の根底に流れる「人間讃歌」。これらの要素が、ジョジョという作品を唯一無二の存在に押し上げています。
もしあなたが、今何かを表現しようとして壁にぶつかっているのなら、一度立ち止まって「基本四大構造」に立ち返ってみてください。あなたの描くキャラクターは、あなた自身よりもそのキャラのことを知っていると言えるほど、深く掘り下げられているでしょうか? ストーリーは、困難を乗り越えて「プラス」に向かっているでしょうか?
荒木先生が示してくれた道筋は、漫画家だけでなく、すべてのクリエイター、そして自分の人生という物語を生きるすべての人にとって、輝ける道標となるはずです。
運命に立ち向かい、恐怖を我が物とすること。その先にこそ、あなただけの「黄金の精神」が宿る作品が待っています。さあ、あなたも自分自身の冒険を、その手で描き始めてみませんか?
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