「ジョジョの奇妙な冒険」を読んでいるとき、ふと目が釘付けになってしまうパーツはありませんか?強烈なスタンド能力や予測不能な擬音もさることながら、多くのファンを虜にして離さないのが、キャラクターたちの「唇」です。
なぜ、ジョジョに登場するキャラクターの唇は、あんなにも艶めかしく、そして力強いのでしょうか。単なる「口」というパーツを超えて、ひとつの芸術作品のような存在感を放つその魅力について、今回は荒木飛呂彦先生のこだわりや美術的背景からじっくりと紐解いていきます。
なぜジョジョの唇は「色」がついているのか?
ジョジョを初めて見た人が驚くことのひとつに、「男性キャラなのに唇に色が塗られている」という点があります。承太郎やディオ、ジョルノなど、屈強な男たちが青や緑、紫といった日常ではありえない色のリップを引いているように見えるシーンが多々ありますよね。
これには、作者である荒木飛呂彦先生の「色彩に対する哲学」が深く関わっています。
決まった色がないという「色彩の解放」
荒木先生はインタビューなどで、「空の色が黄色くてもいいし、木の色がピンクでもいい」という主旨の発言をされています。これは、現実の写実性に縛られるのではなく、そのシーンの「感情」や「緊張感」を表現するために最も適した色を選ぶという、西洋美術的なアプローチです。
唇の色も同様です。キャラクターが口紅を塗っているという設定があるわけではなく、そのコマの画面構成として「ここに補色の紫を入れると、キャラクターの顔が引き立つ」という判断で色が置かれているのです。この自由な色彩感覚こそが、ジョジョという作品を唯一無二のポップアートに押し上げています。
ファッション誌「VOGUE」からの影響
荒木先生が執筆の際、VOGUEなどのハイファッション誌を参考にしているのは有名な話です。モード誌のモデルたちは、性別を問わず、アーティスティックなメイクを施されています。
唇に大胆な色を乗せることで、人間離れした「崇高な美しさ」や「近寄りがたいカリスマ性」を演出する手法は、まさにファッション業界の感性そのもの。ジョジョの唇は、戦う者の象徴であると同時に、最先端のモードを纏ったモデルのような記号性も持ち合わせているのです。
荒木飛呂彦氏が追求する「彫刻的な唇」の造形美
ジョジョの唇が魅力的なのは、色だけが理由ではありません。その「形」と「立体感」にこそ、荒木先生の並々ならぬこだわりが詰まっています。
ミケランジェロから学んだ肉体美
荒木先生はイタリアのルネサンス美術、特にミケランジェロの彫刻に強い影響を受けています。彫刻は、光と影のコントラストだけでその存在を証明する芸術です。
初期の劇画タッチから、中期の肉感的、そして後期のスリムでスタイリッシュな絵柄へと変化していく中で、一貫しているのは「唇の厚み」の表現です。唇を単なる線で描くのではなく、上下の重なりや、口角のわずかな窪み、そして皮膚の張りを計算して描くことで、紙の上に「触れられそうな質感」を生み出しているのです。
ハイライトが生む「生身のリアリティ」
ジョジョの唇をよく観察してみると、下唇の中央に必ずと言っていいほど「白抜き(ハイライト)」が入っています。この小さな光の粒が、唇の水分量や弾力を表現し、キャラクターに瑞々しい生命力を吹き込んでいます。
このハイライトがあるおかげで、どれほど奇抜な色を塗られていても、読者はそこに「血の通った人間の唇」を感じ取ることができます。冷徹な悪役であっても、その唇に宿る艶が、彼らの剥き出しの欲望や生命力を物語っているかのようです。
部ごとに進化する唇の表現スタイル
連載開始から30年以上が経過し、ジョジョの絵柄は劇的な進化を遂げてきました。それに伴い、唇の描き方も変化しています。
- 第1部・第2部:男らしさを強調した重厚な口元この頃はまだ唇の色は控えめですが、北斗の拳などに代表される劇画の影響を受け、力強く結ばれた口元が「意志の強さ」を象徴していました。
- 第3部・第4部:キャラクター性の記号化空条承太郎の端正な顔立ちや、岸辺露伴のファッショナブルな容姿に合わせて、唇のラインがより洗練されていきます。アニメ版では、承太郎の唇にうっすらと乗る影が、彼のクールさを際立たせています。
- 第5部:中世的な美の極致舞台がイタリアということもあり、キャラクター全員が彫刻のような美しさを備えるようになりました。ジョルノ・ジョバァーナの唇は、若々しさと神々しさが同居するような繊細なタッチで描かれています。
- 第6部以降:ファッションと個性の融合空条徐倫が登場する第6部では、女性主人公ということもあり、グリーンのリップなど、より明確に「メイク」としての楽しさが強調されるようになりました。第7部、第8部では、さらに写実的でファッショナブルな、現代アートに近い唇の表現へと到達しています。
唇が語るキャラクターの精神性
ジョジョにおいて、唇は口ほどに物を言います。特定のキャラクターの唇に注目すると、彼らの内面が見えてくるから不思議です。
邪悪な色気を放つディオの唇
吸血鬼となったディオ、そして第3部のDIOの唇は、読者に強烈な印象を与えます。獲物を誘い込むような妖艶な厚み。彼の唇が描かれるとき、そこには圧倒的な「支配欲」と、他者を惹きつけてやまない「悪のカリスマ」が宿っています。
黄金の精神を宿すジョルノの唇
ジョルノの唇は、ディオの息子でありながら、どこか清廉な印象を与えます。それは、無駄な線を削ぎ落とし、形を整えることで表現される「規律」と「覚悟」の表れかもしれません。彼の唇が固く結ばれるとき、読者はそこに揺るぎない正義を感じるのです。
ジョジョ的な唇を描くためのポイント
もしあなたが、ジョジョのような魅力的な唇を描いてみたいと思うなら、まずはコピックやデジタルペイントソフトを用意して、以下のポイントを意識してみてください。
- 上唇の山を鋭角に描くジョジョの唇は、上唇のラインがはっきりしています。ここをボヤかさずに描くことで、顔全体が引き締まります。
- 下唇を厚めに設定する少しオーバーなくらいに下唇にボリュームを持たせると、ジョジョ特有の肉感が出ます。
- 中央に強い光を入れる真ん中に縦長のハイライトを置くことで、一気に立体感が生まれます。
- 補色を恐れずに使う肌の色に対して、あえて反対に近い色を唇に乗せてみてください。それがジョジョ的な「色彩の冒険」への第一歩です。
まとめ:ジョジョの唇はなぜ魅力的?独特な色の理由と荒木飛呂彦氏のこだわりを徹底考察!
「ジョジョの奇妙な冒険」における唇は、単なるパーツの一部ではなく、荒木飛呂彦先生の美学が凝縮された聖域のような場所です。ルネサンス彫刻の立体感、ファッション誌の色彩感覚、そしてキャラクターの魂を吹き込むハイライト。これらが複雑に絡み合うことで、私たちはあの魅力的な口元に目を奪われてしまうのです。
次にジョジョを読むときは、ぜひストーリーだけでなく、キャラクターたちの「唇」に注目してみてください。そこには、言葉以上に雄弁に語りかける、美しき黄金の精神が宿っているはずです。
もし、さらに詳しくジョジョの画力について研究したいなら、画集であるJOJO A-GO!GO!などを手に取ってみるのも良いでしょう。大判のイラストで見る唇の質感は、また格別の感動を与えてくれます。
ジョジョの世界は、唇ひとつとっても、どこまでも深く、そして奇妙に美しいのです。

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