「ジョジョの奇妙な冒険」という作品は、今や世界中で愛される日本を代表するコンテンツですよね。アニメ、漫画、スピンオフ、そして実写映画。その歴史は多岐にわたりますが、ファンの間で伝説の「黒歴史」あるいは「聖域」として語り継がれている作品があるのをご存知でしょうか。
それが、2007年に劇場公開されたアニメ映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントム ブラッド』です。
「え、そんなのあったの?」「配信サイトで見たことないよ」と思った方、その感覚は正しいです。実はこの映画、公開から20年近くが経とうとしている今もなお、DVD化もBlu-ray化も、そしてネット配信も一切行われていない「完全な封印作品」なのです。
なぜ、これほどのビッグタイトルの映画が闇に葬られてしまったのか。当時の熱狂と混乱、そして現在この作品に触れる術はあるのか。ジョジョファンなら知っておきたい、この「幻の映画」の真実に迫ります。
20周年記念の目玉だったはずの劇場版
2007年。この年は「ジョジョの奇妙な冒険」連載開始20周年という記念すべき年でした。そのアニバーサリー企画の目玉として制作されたのが、原作第1部を描く劇場版アニメでした。
制作を担当したのは、1990年代に第3部のOVAを手掛けたスタジオ「A.P.P.P.」。当時、その高い作画クオリティでファンを唸らせたスタッフが再集結するということで、期待値は最高潮に達していました。
しかし、いざ蓋を開けてみると、そこには原作ファンを驚愕させる「改変」の嵐が待っていたのです。
消された仲間たちと物語の圧縮
劇場版の最大の問題点。それは、上映時間90分という枠に収めるために、あまりにも多くの要素を削ぎ落としすぎたことでした。
驚くべきことに、ジョジョの物語において絶対に欠かせない重要キャラクターたちが「存在しなかったこと」にされています。
まず、ジョースター家を支え続ける「解説役」の代名詞、ロバート・E・O・スピードワゴンが登場しません。さらに、ジョナサンの師匠であるツェペリ男爵の弟子たち、ダイアーやストレイツォもカット。物語中盤の熱い戦いを彩るポコや、タルカス・ブラフォードといった騎士たちのエピソードも、極限まで簡略化されました。
原作の重厚な「人間讃歌」のテーマが、ジョナサンとディオの愛憎劇だけに集約されてしまった。これが当時のファンの間で「これはジョジョであってジョジョではない」という激しい反発を生む一因となったのです。
封印を決定づけた「宗教的トラブル」の影
作品の内容への不満だけなら、カルト的な人気を博してソフト化されるケースも多々あります。しかし、この映画が物理的に「封印」されたのには、より深刻な社会的背景がありました。
映画公開の翌年である2008年、同制作スタジオが過去に手掛けたOVA版『ジョジョの奇妙な冒険』において、不適切な描写があったことが発覚します。
物語の中に登場する悪役が、イスラム教の聖典である「コーラン」を読みながら指示を出すシーンがあり、これが宗教的な不敬にあたると国際的な抗議を受ける事態に発展しました。集英社および制作サイドは即座に謝罪し、関連作品の出荷停止と自主回収を決定。
この「コーラン問題」による自粛ムードの煽りをモロに受けたのが、公開直後で二次利用の契約が進んでいたであろう劇場版『ファントム ブラッド』だったと言われています。この騒動により、作品を世に出すタイミングを完全に失ってしまったのです。
クオリティ自体は低くなかった
誤解してほしくないのは、この映画が「作画崩壊」などの低クオリティ作品だったわけではない、という点です。
むしろ、総作画監督を務めた羽山淳一氏による劇画調の力強いタッチは、現在のテレビアニメ版よりも原作初期の荒々しさを体現しており、美術やアクションの評価は非常に高かったのです。
また、音楽面でも特筆すべき点があります。主題歌を担当したのは、当時絶大な人気を誇ったSOUL’d OUT。楽曲「VOODOO KINGDOM」は、ディオのカリスマ性を完璧に表現した名曲として、今なお多くのファンがSOUL'd OUTのCDや配信で聴き続けています。
映像は見られないのに、曲だけが語り継がれる。このアンバランスさが、より一層「幻」としての価値を高めてしまったのかもしれません。
現代のテレビアニメ版との決定的な違い
2012年から始まった、david productionによるテレビアニメシリーズ。これが大成功を収めたことも、劇場版の封印を解く必要性を失わせました。
テレビ版は、スピードワゴンの台詞ひとつひとつまで丁寧に拾い上げ、原作への深いリスペクトを感じさせる作りでした。もし今、あえて多くの欠落がある2007年版を公式がリリースすれば、ブランドイメージを損なうリスクがあると判断されているのかもしれません。
2007年版のジョナサンは小西克幸さん、ディオは緑川光さんが演じていました。現在の興津和幸さんや子安武人さんのイメージが定着したファンにとって、当時のキャストによる「もう一つの1部」は、今となっては非常に贅沢なIF(もしも)の世界といえるでしょう。
今からこの「幻の映画」を視聴する方法はある?
さて、最も気になる「今から見る方法」についてです。
残念ながら、2026年現在も、公式にこの映画を視聴する方法はひとつもありません。中古ショップでDVDを探そうにも、そもそもプレスすらされていないため、この世に正規の円盤が存在しないのです。
稀にネットオークションやフリマアプリで「劇場版ジョジョのDVD」と称されるものが出品されることがありますが、そのほとんどが海外製の海賊版や、劇場の隠し撮り映像を焼いた劣悪なものです。これらは違法であるばかりか、再生機器を痛めたりウイルスに感染したりするリスクがあるため、絶対に手を出してはいけません。
私たちが当時を忍ぶためにできる唯一のことは、以下の関連アイテムを通じて「かつて存在した熱量」に触れることだけです。
- 劇場パンフレット: 当時の劇場で販売された資料。設定画などが掲載されており、古本市場で見かけることがあります。
- 前売り特典: メダルなどのグッズが稀に流通しています。
- ゲーム版: 同時期に発売されたPS2用ソフトジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド PS2。映画の素材を一部流用しており、当時の雰囲気を最も近くで味わえる媒体です。
ジョジョ 映画 ファントム ブラッドはなぜ配信されない?幻の理由と視聴方法を徹底解説!のまとめ
結局のところ、この映画は「時代に翻弄された悲運の傑作(あるいは迷作)」として、ファンの記憶の中にだけ生き続ける運命にあるようです。
ストーリーの大胆なカット、宗教的な問題、そして完璧すぎるテレビアニメ版の登場。いくつもの要因が重なり、公式も触れることのできない「アポクリファ(外典)」となってしまいました。
しかし、見ることができないからこそ、当時の劇場の空気感や、あの力強い作画をもう一度拝みたいというファンの熱意は絶えません。いつの日か、何らかの形で公式アーカイブとして日の目を見る日が来ることを願うばかりです。
もしあなたが、今のテレビアニメシリーズでジョジョにハマったのであれば、あえてジョジョの奇妙な冒険 第1部のコミックスを読み返してみてください。そこには、映画が描ききれなかった「漆黒の意志」と「黄金の精神」が、今も変わらず息づいています。
幻の映画を追う旅もロマンがありますが、まずは目の前にある素晴らしい原作と現行のアニメを全力で楽しむこと。それが、ジョジョという作品への一番の敬意の表し方なのかもしれません。
今後、もし万が一にも再上映や公式配信のニュースが飛び込んできたら、それはまさに「奇跡」と呼ぶにふさわしい出来事になるでしょう。その時まで、私たちはSOUL’d OUTのビートに身を任せ、ジョースター家の血の運命(さだめ)を見守り続けましょう。

コメント