『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの中でも、異色の輝きを放つ第7部『スティール・ボール・ラン(SBR)』。この物語を語る上で、絶対に外せない主役級の存在が「馬」たちです。
単なる移動手段としての動物ではありません。過酷な北米大陸横断レースを共にする相棒であり、時にはスタンド能力を超える奇跡を起こす鍵となります。今回は、作中に登場する主要な馬たちのプロフィールから、ファンの間で語り草となっている名前の元ネタ、そして物語の核心である「黄金の回転」における重要な役割までを徹底的に掘り下げていきます。
ジョジョファンなら知っておきたい、馬たちの熱いドラマを一緒に振り返ってみましょう。
スティール・ボール・ランにおける馬という存在
第7部の舞台は1890年のアメリカ。人類がまだ「速さ」を馬の脚力に頼っていた時代です。作者の荒木飛呂彦先生は、この作品を描くために自ら乗馬を体験し、馬の骨格や筋肉の動きを徹底的に研究したといいます。
そのこだわりは、漫画のコマから馬の鼻息や蹄の振動が伝わってくるほどのリアリティを生みました。ジョジョにおける馬は、キャラクターの精神性を映し出す鏡のような存在なのです。
また、本作のテーマである「再生」や「成長」において、馬はジョニィ・ジョースターの失われた脚の代わり以上の意味を持ちます。馬と一体になることで初めて到達できる「技術」の極致が、物語をクライマックスへと導いていくことになります。
ジョニィの運命を変えた老馬:スロー・ダンサー
主人公ジョニィ・ジョースターがレースの相棒に選んだのは、決してエリートな競走馬ではありませんでした。
斑点模様のアパルーサ種
スロー・ダンサーは、11歳という競走馬としては高齢の老馬です。種類はアパルーサ。体に斑点模様があるのが特徴で、ジョニィはこの馬の「執念」に自分を重ね合わせました。下半身不随となり、絶望の淵にいたジョニィが再び立ち上がるための最初の一歩が、このスロー・ダンサーに跨ることだったのです。
名前の元ネタ
名前の由来は、70年代に活躍したアーティスト、ボズ・スキャッグスの名盤Slow Dancerから。優雅さと力強さが共存する楽曲のイメージは、満身創痍ながらも真っ直ぐに突き進むジョニィの姿に重なります。
黄金の回転における役割
物語終盤、ジョニィが最強のスタンド「タスクACT4」を発動させるためには、馬の走る力が生む「自然界のエネルギー」が必要でした。スロー・ダンサーが全力で駆け、その拍動がジョニィに伝わった瞬間、無限の回転が完成します。老いた馬が最後の力を振り絞り、主を勝利へと導く姿は、シリーズ屈指の名シーンと言えるでしょう。
ジャイロが信頼を寄せる戦乙女:ヴァルキリー
ジョニィの師であり、最高の友人であるジャイロ・ツェペリ。彼の愛馬ヴァルキリーもまた、非常に高い能力を持った名馬です。
知性と持久力の結晶
ヴァルキリーはストック・ホース系の血を引いており、非常に賢く、ジャイロの合図に完璧に応答します。ジャイロが放つ「鉄球」の回転を安定させるためには、馬の走りに一切の乱れがあってはなりません。ヴァルキリーの揺るぎない走走りは、ツェペリ一族の技術を支える土台となっていました。
名前の元ネタ
由来は、リヒャルト・ワーグナーの楽劇ニーベルングの指輪に登場する戦乙女「ワルキューレ(Valkyrie)」。戦場を駆け、英雄を導く存在として、まさにジャイロにふさわしい名前です。
絆を感じるエピソード
ジャイロはレースの合間にヴァルキリーの鼻にミントを塗ってリフレッシュさせるなど、細やかなケアを欠かしません。単なる道具ではなく、対等なパートナーとして接するジャイロの優しさが、ヴァルキリーとの強い絆を生んでいました。
帝王の野心を背負う銀の弾丸:シルバー・バレット
ジョニィたちの最大のライバル、ディエゴ・ブランドー(Dio)。彼が操るシルバー・バレットは、作中屈指のスピードを誇るサラブレッドです。
圧倒的なスピードと狂気
シルバー・バレットは、ディエゴの冷徹で野心的な走りを具現化したような馬です。どんなに険しい道でも最短距離を突き進むその姿は、まさに「銀の弾丸」。ディエゴがスタンド能力「スケアリー・モンスターズ」を手にした後は、馬自身も恐竜のような驚異的な身体能力を発揮し、他者を圧倒しました。
名前の元ネタ
由来は、アメリカのロック歌手ボブ・シーガーのバックバンド「ザ・シルバー・バレット・バンド」から。直訳すれば「銀の弾丸」であり、悪魔や怪物を倒すための特別な武器を暗示させる、ディエゴらしい攻撃的なネーミングです。
個性豊かなライバルたちの愛馬たち
SBRレースには、他にも記憶に残る馬たちが数多く登場します。
- ヘイ・ヤー(ポコロコ)超幸運の持ち主ポコロコが乗る馬。名前はアウトキャストのヒット曲Hey Ya!から。馬自体の能力以上に、ポコロコの運勢によって常に最高の結果を引き寄せます。
- ゴースト・ライダー・イン・ザ・スカイ(マウンテン・ティム)カウボーイの誇りを持つティムの馬。名前の由来はカントリー・ミュージックの名曲。広大な荒野を走る姿が目に浮かぶような名前です。
- ゲッツ・アップ(ホット・パンツ)変装の名手ホット・パンツの愛馬。ジェームス・ブラウンの楽曲が元ネタで、キレのある動きを感じさせます。
これらの馬たちは、それぞれの飼い主のスタンド能力や戦い方と密接に関わっており、キャラクターの一部としてデザインされています。
なぜ「黄金の回転」には馬が必要なのか?
ジョジョ第7部における最大の謎であり魅力なのが、「黄金の回転」という技術です。なぜ人間だけではダメで、馬が必要だったのでしょうか。
自然界の比率を体現する走り
「黄金の回転」とは、自然界に存在する最も美しい長方形の比率(黄金長方形)に基づいた回転です。ツェペリ一族の教えでは、馬が全力で走る際に描く四肢の動きや、その背中の揺れの中に、究極の黄金長方形が隠されているとされています。
馬の「拍動」が回転を加速させる
人間一人の力では、無限に続くエネルギーを生み出すことはできません。しかし、馬という巨大な生命体の脚力が生むエネルギーを、鐙(あぶみ)を通じて騎手の体に伝え、それを鉄球や爪に込めることで、物理法則を超える「無限の回転」が可能になります。
つまり、馬は騎手にとっての「増幅器」であり、自然界と人間をつなぐ「架け橋」なのです。馬への敬意を失った者は、決してこの境地に達することはできません。
荒木先生が描く馬のリアリティ:擬音の魔法
ジョジョといえば独特の擬音が有名ですが、第7部では馬の描写においてその真髄が発揮されています。
従来の漫画では馬の走る音は「パカパカ」と表現されるのが一般的でした。しかし、荒木先生はこれを良しとせず、重厚な「ドカッドカッ」や、軽快な「バカラッ」など、馬の歩法(歩き方)に合わせた音を書き込みました。
特に、馬が全速力で駆ける「襲歩(ギャロップ)」のシーンでは、地面を叩く振動が読者の手に伝わってくるような迫力があります。画集JOJOVELLERなどでも、その緻密な筆致を確認することができます。
ジョジョ第7部の馬一覧!名前の元ネタや黄金の回転に必要な役割を徹底解説:まとめ
『スティール・ボール・ラン』を読み解く上で、馬は単なる背景ではありません。ジョニィが絶望から立ち直り、ジャイロが信念を貫き、ディエゴが野望を燃やす。そのすべての傍らには、常に黙々と走り続ける馬たちの姿がありました。
今回ご紹介した馬たちの名前の由来や、物語における重要な役割を知ることで、作品の深みがより一層増したのではないでしょうか。
- スロー・ダンサーが示した執念。
- ヴァルキリーが体現した信頼。
- シルバー・バレットが放った野心。
それぞれの馬が持つ個性を意識しながら、もう一度コミックススティール・ボール・ランを読み返してみてください。きっと、最初に読んだ時とは違う「蹄の音」が聞こえてくるはずです。
馬と人間が魂を共鳴させて駆け抜けた、1890年のアメリカ。その伝説のレースは、今も私たちの心の中で走り続けています。

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