「週刊少年ジャンプ」の歴史の中で、燦然と輝く金字塔といえば『ジョジョの奇妙な冒険』ですよね。独特の絵画的なタッチ、予測不能な能力バトル、そして「人間讃歌」という深いテーマ。世界中に熱狂的なファンを持つこの作品ですが、その「真の原点」ともいえる傑作が存在することをご存知でしょうか。
それこそが、荒木飛呂彦先生がジョジョ連載前に手がけた珠玉のSFアクション、『バオー来訪者』です。
一見すると、バイオホラー色の強い短編作品に見えるかもしれません。しかし、その中身を紐解いていくと、後のジョジョへと地続きになっている設定、演出、そして魂の叫びが至る所に散りばめられています。
今回は、ジョジョファンなら絶対に素通りできない『バオー来訪者』とジョジョの深い繋がりについて、その共通点と進化の軌跡を徹底的に掘り下げていきます。
寄生虫バオーと波紋・スタンド:特殊能力の遺伝子
荒木飛呂彦作品の最大の魅力といえば、ルールに基づいた知略的な特殊能力バトルです。このスタイルの雛形は、すでに『バオー来訪者』で完成されていました。
主人公・橋沢育朗の体内に宿る秘密組織「ドレス」の生物兵器、寄生虫バオー。宿主が危機に陥ると、バオーは「武装現象(アームド・フェノメノン)」を起こし、育朗の肉体を異形の戦闘形態へと変貌させます。
この「武装現象」こそが、後のジョジョにおける能力バトルの原点です。例えば、皮膚から強酸を分泌して敵を溶かす「バオー・メルテッディン・パルマ・フェノメノン」や、体内の放電細胞を使って高電圧を浴びせる「バオー・リスキニイハーデン・セイバー・フェノメノン」。
これらの技名は、ジョジョ第1部・第2部の「波紋疾走(オーバードライブ)」における「銀色の火花(メタルシルバー)」や「緋色の波紋疾走(スカーレット)」といったネーミングセンスに直結しています。
さらに興味深いのは、能力が「生物学的な根拠」に基づいている点です。初期ジョジョの波紋も「呼吸法による肉体の活性化」という肉体的なアプローチでした。バオーもまた、筋肉の変異や分泌物の化学反応という、SF的な肉体変異をベースにしています。この「得体の知れない力が、理屈を持って発動する」というカタルシスが、後のスタンド能力という精神エネルギーの具現化へと進化していったのです。
もし、バオーの圧倒的なパワーを紙面で体験したいなら、バオー来訪者 文庫版を手に取ってみることをおすすめします。ジョジョのスタンドバトルの源流が、そこには確かに流れています。
「バルバル」から「ゴゴゴ」へ:荒木節を象徴する擬音と構え
ジョジョを語る上で欠かせないのが、画面から音が聞こえてくるような独創的な「擬音」と、彫刻のように美しい「ジョジョ立ち」です。これらの視覚的発明も、バオーの時点で芽吹いていました。
『バオー来訪者』において最も印象的な音といえば、変身した育朗が発する「バルバルバルバル」という独特の叫び声でしょう。これは単なる掛け声ではなく、バオーという未知の生物が持つ野性味と威圧感を表現しています。
ジョジョにおける「ウリィィィ」「無駄無駄」「オラオラ」といった、キャラクターの魂と一体化した叫びの原型がここに見られます。また、緊迫した場面で背景に描き込まれる「ドドドド」や「ゴゴゴゴ」といった心理的な擬音も、バオーの逃亡劇の中でより鋭利に研ぎ澄まされていきました。
そしてポージング。荒木先生はルネサンス期の彫刻やファッション誌のモデルから着想を得て、キャラクターに独特の捻り(コントラポスト)を加えます。
バオーの戦闘シーンをよく見てください。敵を迎え撃つ際の、指先の角度、腰の入り方、不自然なまでに強調された筋肉のライン。それは後のジョジョたちが戦場で見せる、あの優雅で力強いポーズそのものです。単なる格闘漫画の枠を超え、「静止画としての美しさ」を追求するスタイルは、すでにこの逃亡劇の中で確立されていたのです。
秘密組織ドレスと宿命:逃亡と孤独な戦いのテーマ
物語の構造にも、ジョジョとの強いリンクが見て取れます。
『バオー来訪者』は、巨大な陰謀を持つ秘密組織「ドレス」から、超能力を持つ少女・スミレを連れて逃げ延びる少年の物語です。この「圧倒的な力を持つ巨悪に、たった一人(あるいは少人数)で立ち向かう」という構図は、ジョジョの各部に共通するエッセンスです。
特に、逃亡劇の緊張感はジョジョ第3部のエジプトへの旅や、第5部の裏切り者としての逃避行、さらには第6部の脱獄劇に近い手触りがあります。敵が次々と送り込んでくる刺客たち(ドルド中佐やウォーケンなど)も、後の「刺客スタンド使い」たちと同じく、非常に個性的で一癖ある強敵ばかりです。
また、主人公・橋沢育朗が抱える「自分の中にある得体の知れない力への恐怖と受容」というテーマは、ジョジョ第4部の広瀬康一がスタンドを発現させた際の戸惑いや、ジョジョ第7部のジョニィ・ジョースターが成長していく過程とも重なります。
自分の意志とは無関係に選ばれてしまった「宿命」に対して、どう決着をつけるのか。その葛藤と決断こそが、荒木作品が描く「人間讃歌」の核心です。
絶望の中に光る「優しさ」:スミレとジョジョの仲間たち
バオーはバイオレンスな描写が多い作品ですが、その中心にあるのは育朗と少女・スミレの間に芽生える、純粋で無垢な心の交流です。
スミレは予知能力を持つ少女ですが、彼女の存在が育朗にとっての唯一の光となります。この「弱き者を守るために、自らを怪物に変えてでも戦う」というプロットは、ジョジョにおける仲間意識や、家族を守るための戦いへと昇華されていきました。
荒木作品のキャラクターは、一見冷酷に見える者でも、その心の奥底には高潔な精神を秘めていることが多いです。バオーにおける育朗の「スミレだけは死なせない」という執念は、第1部のジョナサン・ジョースターの自己犠牲の精神や、第3部の承太郎が見せる不器用な優しさに通じるものがあります。
過酷な状況であればあるほど、人間の精神の輝き(=黄金の精神)が際立つ。このドラマチックな対比構造は、バオーという短編の中で非常に高い密度で描かれており、それが後のジョジョという大河ドラマを支える背骨となったのは間違いありません。
バオーからジョジョへ:クロスオーバーが証明する不変の魅力
現在、バオーとジョジョの繋がりは、ファンの妄想や考察の域を超え、公式な形でも表現されています。
象徴的なのは、対戦格闘ゲームジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル Rにおける、バオーの参戦です。ジョジョ歴代の主人公や宿敵たちと同じ土俵で、バオーが「武装現象」を駆使して戦う姿は、多くのファンを熱狂させました。
ゲーム内でバオーがスタンド使いを相手に「バルバル」と叫びながら戦う姿には、全く違和感がありません。それは、彼らのルーツが同じであり、荒木飛呂彦という天才が描く世界観において、バオーもまた「ジョジョ的なるもの」の一部であることを証明しています。
また、コミックスの表紙やカラーイラストの色彩感覚も、バオー時代からすでに類まれな才能を発揮していました。補色を大胆に使ったカラーリングや、サイケデリックな背景。これらは荒木飛呂彦原画集などで確認できますが、バオーの頃の原画を見ても、その瑞々しい感性に驚かされるはずです。
バオー来訪者とジョジョの繋がりを徹底解説!荒木飛呂彦の原点と共通の魅力を探る
ここまで見てきたように、『バオー来訪者』は決して過去の短編作品の一つではありません。それは、後に世界を席巻する『ジョジョの奇妙な冒険』という大樹が育つための、最も豊穣な「土壌」だったのです。
特殊能力のネーミング、視覚を揺さぶる擬音、彫刻のようなポージング、そして絶望的な運命に抗う人間讃歌。ジョジョを形作る全てのパーツが、バオーという作品の中で激しく火花を散らしています。
もしあなたがジョジョのファンで、まだバオーを読んでいないのであれば、それはあまりにも勿体ないことです。バオーを知ることは、ジョナサンや承太郎、徐倫たちが受け継いできた「黄金の精神」の、さらに源流へと遡る体験になるからです。
橋沢育朗が感じた孤独と、それを突き破るための「武装現象」。そのパッションは、今もなおジョジョの物語の中で生き続けています。
ぜひ、今度の週末はバオー来訪者を手に取って、荒木飛呂彦先生がデビュー当時から一貫して描き続けてきた「魂の記録」に触れてみてください。そこには、あなたを驚かせる「ジョジョの原石」が、無数に転がっているはずです。
バオーを知ることで、あなたのジョジョへの理解はさらに深く、そして熱いものになるでしょう。


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