「ドラゴンクエスト」という名前を聞いて、胸が熱くならないファンはいないでしょう。今や国民的RPGとしての地位を不動のものにしていますが、かつてその世界観をベースにしたアニメが放送されていたことを覚えていますか?
そう、通称「アベル伝説」です。
しかし、この作品を語る上で避けて通れないのが「あれって打ち切りだったよね?」という噂です。子供心に「えっ、ここで終わり?」と困惑した記憶を持つ人も多いはず。今回は、アベル伝説がなぜ打ち切りと言われるのか、その裏に隠された真実と、波乱万丈な完結までの道のりを掘り下げていきます。
「アベル伝説」が打ち切りだと誤解される最大の理由
まず結論からお伝えすると、アベル伝説は完全に物語が途絶えた「打ち切り」ではありません。しっかりと完結まで描かれています。それなのに、なぜこれほどまでに「打ち切り」というイメージが定着してしまったのでしょうか。
一番の理由は、第一部のラストがあまりにも唐突だったからです。
1990年9月。土曜日のゴールデンタイムに放送されていた第一部の最終回、第32話「大復活!! 伝説の竜」。主人公のアベルがようやく伝説の竜を復活させ、宿敵バラモスとの最終決戦に向けて「さあ、これからだ!」という最高潮のタイミングで、物語は幕を閉じました。
ナレーションによる「アベルたちの戦いはこれからだ」という、いわゆる「俺たちの戦いはこれからだエンド」を地で行く展開。当時の視聴者は「え? 倒してないよね?」「来週からどうなるの?」とパニックになりました。このあまりに不自然な幕引きが、人々の記憶に「打ち切り」という強烈な印象を植え付けたのです。
なぜ第一部はあんなに中途半端に終わったのか?
では、なぜ第一部はあの中途半端なタイミングで終了せざるを得なかったのでしょうか。そこには、テレビ業界特有の厳しい現実と、いくつかの要因が絡み合っていました。
まず挙げられるのが、視聴率の苦戦です。アベル伝説が放送されていた木曜19時の枠は、裏番組に強力なコンテンツが並ぶ激戦区でした。当時の子供たちの興味は多岐にわたり、期待されていたほどの数字が安定して稼げなかったという背景があります。
また、制作コストの問題も無視できません。ドラゴンクエストというビッグタイトルをアニメ化するにあたり、キャラクターデザインには鳥山明氏、音楽にはすぎやまこういち氏を起用。作画のクオリティも当時の基準では非常に高く設定されていました。
潤沢な予算が必要な一方で、関連グッズやゲームソフトとのタイアップ効果が、放送継続を支えるほど爆発的には伸びなかったことも、一旦の放送終了を判断させる要因になったと言われています。
知る人ぞ知る「完結編」の存在
第一部の終了から約4ヶ月の空白期間を経て、1991年1月に「完結編」とも呼ばれる第二部がスタートします。しかし、ここでの放送形態の変化が、「打ち切り説」をさらに加速させることになりました。
第一部が全国ネットのゴールデンタイムだったのに対し、第二部は「ローカルセールス枠」へと降格してしまったのです。
具体的には、夕方の時間帯などに移動し、放送する局としない局に分かれました。これにより、「再開したこと自体を知らなかった」という子供たちが全国に続出します。毎週欠かさず見ていたはずなのに、ある日突然続きが始まって、気づいた時にはもう終わっていた。そんな悲劇が各地で起こりました。
さらに、完結編は全11話という非常にタイトな構成でした。第一部が32話かけてじっくり世界観を描いたのに対し、第二部は一気に物語を加速させて大団円まで持っていく必要がありました。この「急ぎ足感」も、打ち切り的な印象を強める要因となったのです。
アベル伝説が描いた「ドラクエらしさ」の魅力
打ち切り騒動ばかりが注目されがちですが、作品そのものは非常にクオリティが高く、今見ても色褪せない魅力に溢れています。
特に画期的だったのが、ゲームのシステムをアニメ演出に落とし込んだ点です。
- キャラクターのレベルアップが数値で表示される
- 呪文の習得プロセスが修行に基づいている
- 装備品の変化が明確に描かれる
これらの要素は、当時の子供たちに「自分がゲームをプレイしている感覚」を与えてくれました。アベルが装備する「吹雪の剣」や「稲妻の剣」の描写、そしてヤナックが唱えるメガンテの衝撃。それらは単なるファンタジーアニメの枠を超え、ドラクエの血が通った物語として成立していました。
また、ヒロインであるティアラの存在も重要です。単に助けを待つだけのヒロインではなく、彼女自身が物語の鍵を握り、アベルとは別の場所で戦い続ける姿は、当時のアニメとしては先進的なヒロイン像でした。
豪華すぎるクリエイター陣の功績
アベル伝説が今なお語り継がれるのは、関わったスタッフが余りにも豪華だったからです。
鳥山明 画集を手に取ればわかりますが、鳥山氏がデザインしたアベルやティアラ、デイジィといったキャラクターたちは、一目でそれと分かる個性を放っています。特に青いスライムの「チチ」や、どこか憎めない敵役たちのデザインは秀逸です。
さらに、音楽はゲーム同様、すぎやまこういち氏が担当。おなじみの「序曲」が流れるだけで、視聴者のテンションはマックスになります。アニメオリジナルの楽曲もドラクエの世界観を完璧に補完しており、映像と音楽の融合という点では、当時のアニメ界でもトップクラスの完成度を誇っていました。
現代で「アベル伝説」を完結まで見届ける方法
もし、あなたの記憶が「第一部の中途半端な終わり」で止まっているなら、それは非常にもったいないことです。今は配信サービスが充実しており、当時の混乱を飛び越えて、物語の最後まで一気に楽しむことができます。
ドラゴンクエスト アニメ DVDなどのパッケージ版はもちろん、動画配信プラットフォームでも全43話(32話+11話)がセットで公開されていることが多いです。
完結編では、アベルとバラモスの決戦だけでなく、デイジィの過去やヤナックの成長、そして旅の仲間たちがそれぞれの運命にどう決着をつけるのかが、怒涛の勢いで描かれます。あの頃「打ち切りだ」と思って諦めていた続きを、大人になった今こそ見届けてみてはいかがでしょうか。
ドラクエのアニメ「アベル伝説」は打ち切り?理由と真相、完結までの経緯まとめ
改めて振り返ると、アベル伝説を巡る「打ち切り」という噂は、作品への期待値が高かったからこそ生まれた「誤解と不運の産物」であったことがわかります。
ゴールデンタイムからの撤退、ローカル枠への移動、そして分割放送。これらの不規則な放送形態が、視聴者の間で情報の断絶を生んでしまいました。しかし、制作陣は逆境の中でも物語を投げ出すことなく、全43話を通してアベルの旅を見事に描き切りました。
アベル伝説は、決して失敗作ではありません。ドラクエという巨大なIPを背負い、アニメというメディアでどう表現すべきかに真摯に向き合った、野心的な名作です。
「アベル伝説は打ち切りだった」という古い記憶を上書きし、勇者たちの真の結末をその目で確かめたとき、あなたの中で止まっていたドラクエの物語が、ようやく本当の完結を迎えるはずです。

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