三宅乱丈先生が描く唯一無二のサイコ・サスペンス『pet リマスター・エディション』。記憶を操作する「イメージ」という独創的な設定と、人間のエゴや絆を泥臭く描いたこの名作には、長年「打ち切りだったのではないか?」という噂がつきまとってきました。
結論から言えば、本作は「掲載誌の休刊という不運に見舞われながらも、作者の執念によって完結まで描き切られた作品」です。
なぜこれほどまでに「打ち切り」というキーワードが検索され続けるのか。そこには当時の出版業界の事情や、出版社を跨いだ異例の移籍劇、そして物語の「真の結末」へと続く長い道のりがありました。今回は、ファンならずとも気になるその舞台裏を徹底的に紐解いていきます。
なぜ三宅乱丈の『ペット』は打ち切りだと思われたのか?
多くの読者が「打ち切り」だと確信してしまった最大の原因は、2003年から連載されていた『週刊ヤングサンデー』での不自然な幕引きにあります。
物語が核心に触れ、これから主人公たちの運命が大きく動き出すというタイミングで、掲載誌である『週刊ヤングサンデー』自体が休刊という事態に陥りました。雑誌がなくなれば、当然連載も止まります。これが、多くの人の記憶に「中途半端に終わった作品」として刻まれることになった第一の理由です。
さらに、当時の小学館から発売されていた単行本全5巻は、物語が解決するどころか、絶望的な状況のまま「俺たちの戦いはこれからだ」と言わんばかりの地点で途切れていました。後書きなどで事情は説明されていたものの、雑誌を追っていなかった読者からすれば「人気がなくて打ち切られたんだな」と判断しても無理はない状況だったのです。
また、三宅先生の作風は非常に緻密で難解です。人の記憶の中に潜り込むという設定上、絵的な表現も抽象的になりやすく、当時の主流だった少年・青年漫画の枠には収まりきらない前衛的な魅力がありました。その尖りすぎた個性が「一般受けしなかったから打ち切られた」という憶測に拍車をかけた側面も否定できません。
移籍と描き直し。リマスター版でようやく見えた「光」
『週刊ヤングサンデー』の休刊後、数年間の沈黙がありました。しかし、三宅乱丈先生はこの物語を諦めていませんでした。
2009年、出版社をエンターブレイン(現KADOKAWA)に移し、コミックビームにて再始動。ここで刊行されたのが『pet リマスター・エディション』です。
これは単なる「再出版」ではありませんでした。旧版(小学館版)で描き切れなかった部分、あるいは当時の制約で表現しきれなかった部分に、三宅先生が大幅な加筆修正を施したのです。特に後半の展開は、構成そのものがブラッシュアップされ、物語の整合性が劇的に向上しました。
この「リマスター・エディション」全5巻が完結したことで、ようやく一つの物語としての形が整いました。しかし、これでもまだ、全ての伏線が回収されたわけではなかったのです。この時点では「第一部・完」といった趣が強く、真の完結を求めるファンの渇望は続いていました。
続編『fish』の存在が打ち切り説を完全に過去にした
『pet』を語る上で欠かせないのが、続編であるfish 三宅乱丈の存在です。
リマスター版の刊行後、さらに物語を深化させる形で始まった『fish -フィッシュ-』。これこそが、読者が長年待ち望んでいた「ペットたちのその後」であり、物語の真の終着点でした。
この続編では、かつての主人公たちが抱えていた業(ごう)や、「会社」と呼ばれる組織との決着が克明に描かれました。2015年に『fish』が全2巻で完結したことにより、2003年から始まった長い旅路はようやく幕を閉じたのです。
もしあなたが小学館版の5巻だけを読んで「打ち切りだ」と思っているなら、それは非常にもったいないことです。リマスター版を経て『fish』まで辿り着いたとき、初めてこの作品がどれほど壮大なスケールで構想されていたのかを理解できるはずです。
三宅乱丈先生のこだわりと「完結」への執念
三宅先生の作品は、キャラクターの心理描写が痛いほどリアルです。記憶を書き換えられ、ボロボロになりながらも誰かを求め、依存し、裏切られる。そんな重厚なテーマを描き切るためには、雑誌の休刊や出版社の都合といった障壁はあまりに大きな壁でした。
一時は筆を折ってもおかしくない状況だったはずですが、三宅先生は別の場所を探し、内容を磨き直し、10年以上の歳月をかけて物語を完結させました。この「執念」こそが、単なる打ち切り作品を「時代を超えて愛されるカルト的名作」へと昇華させた原動力と言えるでしょう。
また、2020年に放送されたテレビアニメ版も大きな役割を果たしました。アニメ版では原作の最後までが描かれ、長年のファンだけでなく新しい層にも「この物語にはちゃんとした終わりがある」ことを示してくれました。アニメをきっかけにpet DVDや原作を手に取った人も多く、現在では打ち切りという不名誉なレッテルは、コアなファンの間では既に過去のものとなっています。
三宅乱丈『ペット』は打ち切りではなく「再構築」された傑作
改めて整理すると、三宅乱丈『ペット』が打ち切りだと誤解されている理由は以下の通りです。
- 連載誌『週刊ヤングサンデー』が物語の途中で休刊してしまった。
- 初期(小学館版)の単行本が非常に中途半端なところで終わっていた。
- 完結までに10年以上の歳月と、出版社の移籍を必要とした。
現在、この物語を正しく楽しむためのルートは確立されています。まずはpet リマスター・エディション全5巻を読み、その後に続編fishを読む。この手順を踏めば、そこに「打ち切り」の文字など微塵も感じられない、圧倒的な完成度の物語が待っています。
もしあなたが、かつて途中で読むのをやめてしまった一人なら、ぜひ今の完成された形でもう一度手に取ってみてください。そこには、時間をかけて熟成され、作者の執念によって磨き上げられた究極の人間ドラマが広がっています。
三宅乱丈先生の作品は、時として読む側に覚悟を強いるほどの熱量を持っています。しかし、その先に待っている読後感は、他のどの漫画でも味わえない特別なものです。三宅乱丈『ペット』の打ち切り理由という噂の裏側には、作品を死守しようとした作者と、それを支えた熱狂的なファンたちの物語が隠されていたのです。

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