2018年に放送され、多くの視聴者に強烈なインパクトを残したドラマ『獣になれない私たち』(けもなれ)。新垣結衣さんと松田龍平さんのダブル主演、そして『逃げ恥』の野木亜紀子さんが脚本を務めるということで、放送前は「社会現象再来か!」と大きな期待を背負っていました。
しかし、放送が始まるとネット上では「内容が重すぎる」「見ていて辛い」という声が上がり、いつしか「打ち切りだったのではないか?」という噂まで流れるようになりました。
果たして、あの物語は本当に途中で打ち切られてしまったのでしょうか?それとも、私たちが受け取るべき大切なメッセージが隠されていたのでしょうか。今回は、視聴率の推移や当時の反応、そして今だからこそわかる本作の真の価値について、徹底的に深掘りしていきます。
「打ち切り」という噂は本当?数字から見る真実
まず、最も気になる「打ち切り説」の真相からお伝えします。結論から言えば、『獣になれない私たち』は打ち切りではありません。
日本の民放ドラマの標準的な構成である全10話できっちりと完結しています。ストーリーも中途半端に終わったわけではなく、主人公・深海晶と根元恒星、そして彼らを取り巻く人々がそれぞれの「答え」を見つけるまでが丁寧に描かれました。
では、なぜ「打ち切り」という物騒なキーワードがこれほどまでに検索されているのでしょうか。その最大の要因は、放送当時の「視聴率の推移」にあります。
初回放送は11.5%と好調なスタートを切ったものの、第2話で8.5%に急落。その後も一桁台での推移が続き、第6話では10月期ドラマとしては異例の低さとなる数字を記録したこともありました。最終的な平均視聴率は8.7%。「ガッキー主演×野木脚本」という最強の布陣に対して、世間の期待値が15%や20%といった高いハードルを設定していたため、相対的に「大爆死」「打ち切り間近」といったネガティブな言葉が独り歩きしてしまったのです。
しかし、この数字だけで作品の価値を決めてしまうのはあまりに早計です。なぜなら、この「低視聴率」こそが、本作がいかに現代社会の痛いところを突き、視聴者の心をざわつかせたかの証明でもあるからです。
視聴者が「辛すぎる」と悲鳴を上げた理由
本作が放送されていた水曜22時という枠は、週の真ん中で仕事に疲れ、「明日も頑張ろう」と思えるような爽快感を求める人が多い時間帯です。そこに投入されたのは、ガッキーのキラキラした笑顔ではなく、理不尽なパワハラに耐え、愛想笑いで自分を殺して働く主人公・晶の姿でした。
視聴者が「見るのが辛い」と感じたポイントは、主に以下の3つに集約されます。
まず一つ目は、ブラックすぎる職場のリアルな描写です。
晶が勤めるオフィスでは、社長の九十九が常に怒号を飛ばし、周囲の同僚たちは自分のミスをすべて晶に押し付けます。膝をついて謝罪させられたり、深夜まで大量の業務を一人でこなしたりするシーンは、多くの現役世代にとって「自分の日常を見せられているようで、心が休まらない」と感じさせてしまいました。
二つ目は、煮え切らない恋愛模様です。
田中圭さん演じる恋人・京谷は、優しくてスペックも高いけれど、自宅に元カノの朱里(黒木華さん)を住まわせたままでいるという、現代的な「優柔不断の罪」を体現したキャラクターでした。このドロドロとした関係がなかなか解消されない展開に、フラストレーションを溜める視聴者が続出したのです。
三つ目は、主人公たちの「可愛げのなさ」です。
晶は誰にでもいい顔をしてしまい、恒星は毒舌で冷淡。従来のドラマであれば、困っている主人公をヒーローが助け出すといったカタルシスがありますが、本作は徹底して「自分を救えるのは自分だけ」という現実を描き続けました。
こうした「キラキラしていない日常」の連続が、エンタメとしての楽しさを求めていた層を遠ざける結果となったのは否定できません。
時代が追いついた?今こそ再評価されるべき「大人の傑作」
放送から数年が経過した今、SNSや動画配信サービスでは本作を「人生の一本」に挙げるファンが急増しています。当時の評価を覆す、再評価の動きがなぜ起きているのでしょうか。
それは、本作が描いたテーマが「個人の尊厳」や「自己解放」という、今まさに私たちが直面している問題そのものだからです。
放送当時は「イライラする」と言われた主人公の晶ですが、今振り返ると彼女の葛藤は、多くの人が抱える「いい人でいなきゃいけない」という呪縛そのものです。ビールバー「5tap」で、クラフトビールを飲みながら本音を少しずつ漏らしていく晶と恒星の関係は、恋愛を超えた「魂の戦友」のようにも見えます。
特に、作中に登場するクラフトビールは、物語の重要なメタファーでした。
クラフトビール セットで飲み比べをするように、人生には苦いものもあれば、フルーティーで華やかなものもある。自分の喉越しに合う生き方を自分で選んでいいんだ、というメッセージが、最終回に向けて静かに、かつ力強く紡がれていきました。
また、当初は「不快指数の高いキャラ」として嫌われていた元カノの朱里や、パワハラ社長の下で右往左往していた上野、松任谷といった同僚たちが、少しずつ自分の足で立ち上がり、変化していく様子は、全10話を一気見した時にこそ味わえる深い感動を呼び起こします。
制作陣が仕掛けた「獣」という名の野生
タイトルの『獣になれない私たち』。この言葉には、「理性を持ち、空気を読み、社会に適合しようとするあまり、本能(野生)を失ってしまった現代人」への切実な問いかけが込められています。
野木亜紀子さんの脚本は、決して視聴者に媚びることはありませんでした。安易なハッピーエンドを用意せず、晶が会社を辞めるという選択をするまで、じっくりと時間をかけて彼女の絶望と再生を描きました。
このドラマを最後まで見届けた人は知っています。第1話で死んだような目をしていた晶が、最終回で自分の意志で鐘を鳴らし、恒星と一緒に新しい一歩を踏み出すシーン。あの瞬間に流れた空気こそが、このドラマが伝えたかったすべてだったのです。
数字の上では苦戦したかもしれませんが、誰かの人生の指針になるような、深い傷跡と救いを残した。それこそがクリエイティブにおける「勝利」ではないでしょうか。
まとめ:獣になれない私たちは打ち切りだった?低視聴率の理由と知られざる評価の真相を徹底解説
ここまで見てきたように、『獣になれない私たち』が打ち切りだったという噂は、高い注目度ゆえの誤解に過ぎませんでした。視聴率という物差しだけでは測れない、非常に濃密で誠実な人間ドラマがそこにはありました。
もしあなたが今、仕事や人間関係で行き詰まり、「自分さえ我慢すればいい」と笑っているのなら、ぜひ一度この作品を手に取ってみてください。
獣になれない私たち Blu-ray BOXを開いて、彼らの苦しみと解放の記録を辿ることで、あなたの心の中にある「獣」が少しだけ目を覚ますかもしれません。
「獣になれない」まま、それでも私たちはどう生きていくのか。
その答えは、決してスマートではないけれど、泥臭くて美しい彼らの姿の中に、きっと見つかるはずです。
次回の休日には、お気に入りのビールグラスを用意して、晶たちと一緒に「人生の苦味」を味わってみてはいかがでしょうか。当時の評価に惑わされず、今のあなたの感性でこの名作を再定義してみてくださいね。

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