「To Be Continued」の文字と共に、あのアコースティックギターのアルペジオが聴こえてくる……。ジョジョの奇妙な冒険、特に第1部や第2部を観たことがある人なら、あの鳥肌が立つようなエンディングへの入り方に心を奪われた経験があるはずです。
アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の第1部『ファントムブラッド』および第2部『戦闘潮流』でエンディングテーマ(ED)に採用されたのが、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド、Yes(イエス)の代表曲「Roundabout」です。
なぜ1970年代の洋楽が、21世紀のアニメのエンディングに選ばれたのでしょうか。そこには原作者である荒木飛呂彦先生の深いこだわりと、制作スタッフの並々ならぬ情熱、そして楽曲そのものが持つ不思議な魔力が隠されています。今回は、ジョジョファンなら絶対に知っておきたい「Roundabout」にまつわる物語を深掘りしていきましょう。
原作者・荒木飛呂彦先生の「執筆時のBGM」が採用の決め手
まず、多くのファンが驚いたのが「なぜアニソンではなく、あえて40年以上前の洋楽なのか?」という点です。その答えは極めてシンプル、かつジョジョらしいものでした。
アニメ化にあたり、プロデューサーの大森啓幸氏が荒木先生に「エンディングのイメージはありますか?」と尋ねたところ、返ってきた答えが「YesのRoundaboutを聴きながら描いていた」というエピソードです。
荒木先生は洋楽への造詣が非常に深く、登場人物やスタンド名の多くが実在のバンドや楽曲から引用されていることは有名ですよね。第1部でジョナサンを助ける勇者・ブラフォードの名前も、実はYesのドラマーであるビル・ブラフォードから取られています。
「作品が生まれた時に鳴っていた音楽を、そのままアニメの音にしたい」。この熱意によって、通常のアニメタイアップでは考えられないような「伝説の洋楽使用」が実現したのです。
プログレッシブ・ロックの「予測不能な展開」とジョジョの親和性
「Roundabout」が収録されているのは、1971年に発表されたアルバムFragileです。この曲はいわゆる「プログレッシブ・ロック(プログレ)」というジャンルに分類されます。
プログレの特徴は、一曲の中にいくつもの展開があり、拍子が目まぐるしく変わり、複雑な楽器演奏が絡み合う点にあります。この「次に何が起こるか分からない」「運命が複雑に絡み合う」という音楽性が、ジョジョの物語が持つドラマチックな展開と見事にリンクしました。
特に、静かなイントロから始まり、唸るようなベースラインが加わって一気に加速していく構成は、物語がクライマックスへ向かう高揚感とこれ以上ないほどマッチしていたのです。
音響監督・岩浪美和氏が仕掛けた「神演出」の裏側
「Roundabout」がここまでジョジョファンの記憶に刻まれているのは、単に曲が良かったからだけではありません。アニメの演出、特に「曲の入り方」が天才的だったからです。
音響監督の岩浪美和氏は、この曲を「単なるエンディング曲」としてではなく、物語を締めくくる「劇伴(BGM)」の一部として機能させることを重視しました。通常のアニメであれば、本編が終わってからパッと画面が切り替わって曲が始まります。しかし、ジョジョでは違いました。
本編のラスト数分、キャラクターたちがまだ会話をしていたり、衝撃的な事件が起こったりしている最中に、うっすらとあのイントロが流れ始めるのです。
「チャーン、チャチャチャチャーン……」
この音が聴こえてきた瞬間、視聴者は「ああ、今週も終わってしまう!」「この後どうなるんだ!」という強烈な引き(サスペンス)を感じることになります。この「映像と音のシームレスな融合」こそが、ジョジョを特別なアニメにした大きな要因の一つです。
8分半の原曲を「使い切る」というこだわり
実は「Roundabout」の原曲は8分を超える大作です。アニメの放送回によって、使用されるパートが微妙に異なっていたことにお気づきだったでしょうか。
スタッフは、その回の物語のテンションに合わせて、イントロから使うこともあれば、中盤の盛り上がるパートを使うこともありました。1stシーズンを通して観ると、原曲のほぼ全てのパートがどこかしらで流れているという、音楽ファンへのリスペクトが詰まった構成になっています。
歌詞に込められた意味とジョジョの世界観の重なり
「Roundabout」という言葉には「環状交差点(ロータリー)」や「遠回り、迂回」といった意味があります。作詞をしたボーカルのジョン・アンダーソンは、ツアー中の移動で見た風景から着想を得たと語っていますが、これがジョジョの文脈で解釈されると非常に深い意味を持ちます。
- 運命の輪と血統の継承ジョースター家とディオの因縁は、100年以上の時を超えて巡り巡ります。「Roundabout(円環)」という言葉は、まさに終わることのない宿命の連鎖を象徴しているかのようです。
- 「I’ll be there with you」というメッセージ歌詞の中には「君のそばにいるよ」というフレーズが登場します。これは、肉体が滅んでも「黄金の精神」として受け継がれていくジョナサンたちの意志、あるいは共鳴し合うスタンド使いたちの絆を予感させるものとして、ファンの間で感動を呼びました。
直接的にジョジョのために書かれた歌詞ではないからこそ、聴く側が自由に物語を投影できる余白があり、それが深みを生み出しているのです。
世界中で大流行した「To Be Continued」ミームの正体
さて、ジョジョと「Roundabout」を語る上で避けて通れないのが、海外から火がついたネットミーム現象です。
YouTubeやSNSを見ていると、誰かが転んだり、ハプニングが起きる直前の絶妙なタイミングで画面がセピア色に静止し、左下に「To Be Continued」の矢印が出て、例のイントロが流れる動画を見かけたことはありませんか?
この「To Be Continued」ミームは、ジョジョのアニメ第1部・第2部の演出をパロディ化したものです。
- なぜここまで流行ったのか?あの演出には「未完の美」と「予感」があります。何かが起こる一歩手前で止めることで、視聴者の想像力を刺激する。その「オチをあえて見せない面白さ」に、Roundaboutのスタイリッシュなイントロが完璧にハマったのです。
このブームにより、ジョジョを全く知らない海外の若者たちまでもが「Roundabout」を聴くと「あ、あの動画の曲だ!」と反応するようになりました。アニメの演出が、一国の文化を超えて世界のネット文化のスタンダードになった稀有な例と言えるでしょう。
歴代の洋楽EDから見る「荒木ルール」の徹底
ジョジョのアニメシリーズは、その後も一貫して洋楽をEDに採用し続けています。
- 第3部:Walk Like an Egyptian(バングルス)
- 第4部:I Want You(サヴェージ・ガーデン)
- 第5部:Freek'n You(Jodeci)
これらもすべて、荒木先生が「連載当時に聴いていた曲」や「作品のイメージに合う曲」として選定されています。最新のトレンドを追うのではなく、作者の魂のルーツを辿る。このブレない姿勢が、ジョジョという作品のブランドをより強固なものにしています。
特に第6部『ストーンオーシャン』の最終回。物語が大きな区切りを迎えた際、再び「Roundabout」が流れた時の衝撃を覚えているでしょうか。第1部から始まった壮大な物語が、最初のED曲に戻ることで完結する。この「円環」を閉じる演出は、長年のファンに対する最高のご褒美となりました。
音楽としての「Roundabout」を深く味わうために
もしあなたがアニメのショートバージョンしか聴いたことがないのであれば、ぜひ一度フルバージョンを聴いてみることをおすすめします。
プログレの金字塔と言われるだけあって、クリス・スクワイアのバキバキと唸るような力強いベース演奏や、スティーヴ・ハウの変幻自在なギターワークは、今聴いても全く古臭さを感じさせません。
Yesの音楽は、一見難解そうに思えますが、メロディ自体は非常にキャッチーで美しいのが特徴です。ジョジョという作品が持つ「クラシック(古典)でありながら常に新しい」という空気感は、まさにYesの音楽性と合致しているのです。
ジョジョED「Roundabout」の採用理由と意味を徹底解説!ミーム化の背景も:まとめ
ここまで、ジョジョの奇妙な冒険と「Roundabout」の深い関係について解説してきました。
荒木飛呂彦先生の個人的な思い出から始まり、制作陣の執念とも言える演出工夫によって、この曲は単なるアニメソング以上の存在になりました。物語をドラマチックに彩るだけでなく、ネットミームとして世界中に拡散され、時代や国境を超えて愛される象徴となったのです。
「Roundabout」という一曲の音楽が、ジョナサン・ジョースターの冒険を支え、私たちの胸を熱くさせてくれた。そう考えると、あのイントロが聴こえてくるたびに、また物語の最初から読み返したくなってしまいますよね。
宿命は巡り、また新しい物語が始まる。そんな円環のメッセージを、ぜひ今一度原曲を聴きながら噛み締めてみてください。

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