「ジョジョの奇妙な冒険」を読んだことがない人でも、あの独特なフォントで描かれた「ゴゴゴ」という文字を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。画面の端から這い寄るように、あるいはキャラクターの背後に重圧として立ち昇るあの三文字。
普通の漫画であれば、擬音は「音」を説明するためのものです。しかし、ジョジョにおける擬音は、もはや音の枠を超えた「発明」と言っても過言ではありません。なぜ、私たちはあの文字を見るだけで、肌がピリつくような緊張感を感じてしまうのか。
今回は、ジョジョの代名詞とも言える「ゴゴゴ」に隠された意味や誕生の由来、そして作者である荒木飛呂彦先生が仕掛けた驚きの演出効果について、ディープに掘り下げていきます。
「ゴゴゴ」が表現しているのは物理的な音ではない?
まず、多くの読者が直感的に感じている通り、ジョジョの「ゴゴゴ」は必ずしも物体が擦れ合う物理的な音を指しているわけではありません。
この擬音が最も真価を発揮するのは、登場人物たちが対峙し、一触即発の緊張感が漂うシーンです。ここで表現されているのは、そこに存在する「圧倒的なプレッシャー」や「目に見えない殺気」そのもの。いわば、空間そのものが震えている状態を可視化しているのです。
通常の漫画では、キャラクターの心理描写はモノローグや表情で伝えます。しかし、荒木先生はそこに「文字」というデザインを介入させることで、読者の視覚にダイレクトに「不穏な空気」を叩き込みました。
「何かが起きる」「誰かが潜んでいる」「逃げ場のない絶望が迫っている」。そんな言葉にできないザワザワとした感情を、私たちは「ゴゴゴ」という記号を通して、脳内で自動的に再生しているのです。
荒木飛呂彦氏のルーツから紐解く擬音の誕生秘話
では、この独特な表現はどこからやってきたのでしょうか。荒木飛呂彦先生が過去のインタビューや著書で語っているエピソードには、非常に興味深いルーツが隠されています。
最大のインスピレーション源の一つとして挙げられるのが「ヘヴィメタル音楽」です。荒木先生は大の音楽好きとして知られていますが、特にエレキギターのディストーション(歪み)サウンドを漫画で表現できないかと考えたのが始まりだと言われています。
アンプから流れる重低音の唸り、空気を震わせる地響きのような振動。それを文字に変換しようとした結果、あの独特な「描き文字」が誕生しました。
また、ホラー映画やサスペンス映画の影響も無視できません。映画では、恐怖シーンの直前に不気味な低音のBGMが流れますよね。あの「耳には聞こえるけれど、正体が見えない恐怖」を、静止画である紙の上で再現するために、擬音を背景の一部として配置する手法が編み出されたのです。
さらに、イタリアのルネサンス美術などから影響を受けた「画面構成の美学」も関係しています。ジョジョの擬音は、単なる補足説明ではなく、絵画としてのバランスを整えるための重要な「図形」として機能しているのです。
「ゴゴゴ」と「ドドド」には決定的な使い分けがある
ジョジョには「ゴゴゴ」と並んで多用される「ドドド」という擬音があります。一見似ているようですが、実はこの二つには明確な役割の違いが存在します。
「ゴゴゴ」が主に「静」の恐怖やプレッシャー、内面から湧き上がるような重圧を表現するのに対し、「ドドド」はより「動」のエネルギーに近い表現です。
例えば、キャラクターが猛スピードでこちらに向かってくる時、心臓の鼓動が激しく高鳴る時、あるいはスタンドがラッシュを叩き込む直前の爆発的な予感。これらは「ドドド」という、より物理的な振動を伴う音として描かれます。
「ゴゴゴ」が空間に停滞する霧のようなプレッシャーだとしたら、「ドドド」は迫りくる戦車の轟音のようなイメージです。この使い分けを意識して読み返すと、荒木先生がいかに緻密に、その場の空気の「質感」を描き分けているかがよく分かります。
世界を魅了する「描き文字」のデザイン性と遠近法
ジョジョの擬音を語る上で欠かせないのが、そのレタリングの美しさです。ただ文字を書くのではなく、一つ一つの文字にパース(遠近法)がかかっていることに気づいたでしょうか。
文字が手前から奥へと小さくなっていく。あるいは、壁の影に回り込むように配置される。これにより、平面であるはずの漫画のページに、圧倒的な奥行きが生まれます。
また、文字の輪郭が震えていたり、かすれていたりするのも特徴的です。これは、その場の温度感や湿気、あるいはキャラクターの動揺を表現するための繊細なテクニック。
海外のファンからも、この擬音は「Onomatopoeia(オノマトペ)」の粋を超えたアートとして高く評価されています。英語圏では「Rumble(ゴロゴロ鳴る)」や「Menacing(威圧的な)」と訳されることもありますが、熱狂的なファンの間ではそのまま「Gogogo」という響きが、クールな日本文化の象徴として親しまれています。
スタンド能力と擬音がリンクする瞬間の快感
ジョジョの第3部から登場する「スタンド(幽波紋)」という概念。この超能力表現と擬音の相性は抜群でした。
本来、スタンドは「目に見えない精神エネルギー」です。その正体不明のエネルギーが、現実に干渉し始める際の違和感を演出するのが、まさに「ゴゴゴ」の役割。
姿は見えないけれど、そこに確実に「何か」がいる。その気配を「ゴゴゴ」という文字が代弁することで、読者はキャラクターと同じ恐怖を共有することになります。
もし、ジョジョに擬音がなかったら、あの独特の「奇妙な」雰囲気は半分も伝わらなかったかもしれません。文字がキャラクターを追い越し、背景を侵食し、時にはページ全体を支配する。このダイナミックな演出こそが、ジョジョを唯一無二の作品に押し上げた要因なのです。
日常でも使える?ジョジョ的擬音が与えた文化的影響
今や「ゴゴゴ」という表現は、漫画の枠を超えて広く社会に浸透しています。SNSやバラエティ番組などで、緊張する場面や圧倒的な存在が登場する際に、この擬音のエフェクトが使われるのはもはや定番ですよね。
なぜここまで普及したのか。それは、私たちが日常で感じる「言葉にできない重苦しい空気」に、荒木先生が完璧な名前(文字)を与えてくれたからではないでしょうか。
嫌な上司が近づいてくる時、大事な試験の結果発表を待つ時。私たちの心の中には、間違いなくあの「ゴゴゴ」という音が響いています。実体のない感情を視覚化するという発明は、それほどまでに画期的だったのです。
また、ジョジョのフィギュアやグッズを飾る際にも、この擬音プレートを添えるだけで一気に作品の世界観が再現されます。まさに、文字そのものがキャラクターと同じくらいの存在感を持っていると言えるでしょう。
まとめ:ジョジョの擬音「ゴゴゴ」が教えてくれる表現の深淵
ジョジョの奇妙な冒険において、擬音は単なる効果音ではありませんでした。それは、音を「見る」ものに変え、感情を「デザイン」に変えた、荒木飛呂彦先生による芸術的な挑戦の結晶です。
ヘヴィメタルの重低音にルーツを持ち、映画のBGMのような役割を果たしながら、画面に奥行きと緊張感を与える「ゴゴゴ」。この三文字があるからこそ、私たちはジョジョの世界に深く没入し、あの奇妙な熱狂を体感することができるのです。
もし次にジョジョを読み返す機会があれば、ぜひ文字の「形」や「配置」にも注目してみてください。そこには、台詞以上に雄弁に物語を語る、豊穣な表現の世界が広がっているはずです。
ジョジョの擬音「ゴゴゴ」の意味と由来は?荒木飛呂彦氏が語る独自の演出効果を解説した今回の内容が、あなたのジョジョライフをより深く、より奇妙に彩るヒントになれば幸いです。
次は、ジョジョの奇妙な冒険を全巻読み返して、自分だけのお気に入りの「描き文字」を探してみてはいかがでしょうか。きっと新しい発見があるはずですよ。

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