『ジョジョの奇妙な冒険』を読んでいると、ふとした瞬間に「これ、漫画の枠を超えていない?」と圧倒されることはありませんか?キャラクターがとる異次元のポージング、通称「ジョジョ立ち」。そして、鮮烈な色彩感覚とハイセンスなファッション。
これらの要素がどこから来たのかを探っていくと、一人の伝説的な天才の名に行き当たります。それが、1970年代から80年代のファッション界を席巻したイラストレーター、アントニオ・ロペスです。
今回は、作者の荒木飛呂彦先生が多大な影響を受けたと公言するアントニオ・ロペスの世界と、ジョジョの物語に組み込まれたその「芸術的遺伝子」について、ディープに解説していきます。
伝説のイラストレーター、アントニオ・ロペスとは?
まずは、アントニオ・ロペスという人物についておさらいしておきましょう。彼は、写真がファッション誌の主役になる直前の時代、ペンとブラシ一本で世界のモードを支配した人物です。
プエルトリコに生まれ、ニューヨークで育った彼は、類まれな観察眼とデッサン力を持っていました。彼の描くイラストは、単に「服を紹介する」ための道具ではありませんでした。そこにはモデルの体温、呼吸、そして時代が持つエネルギーが凝縮されていたのです。
彼が活躍したのは、ちょうどディスコ文化やポップアートが花開いた狂乱の時代。VOGUEやELLEといった一流誌を舞台に、彼は「ファッションイラストレーション」を芸術の域まで高めました。
荒木飛呂彦先生は、自身の画風を確立する過程で、多くのファッション誌や写真集を研究したことで知られています。その中でも、アントニオ・ロペスの描く「力強く、官能的で、どこか人間離れした美しさ」は、ジョジョのビジュアルの根底に流れる大きな川のような存在となったのです。
もし、彼の圧倒的な色彩感覚を自分の手元でじっくり確認したいなら、Antonio Lopez: Fashion, Art, Sex, and Discoといった画集をチェックしてみてください。ページをめくるたびに「あ、この雰囲気、ジョジョで見たことがある!」という既視感に襲われるはずです。
「ジョジョ立ち」のルーツにある肉体の捻りと躍動感
ジョジョの代名詞といえば、なんといってもあの独特なポージングですよね。解剖学的にはありえない方向に腰が曲がっていたり、指先まで神経が通った優雅な仕草。これらは、アントニオ・ロペスの描くモデルたちのポーズと驚くほど共通点が多いのです。
アントニオ・ロペスは、モデルをただ立たせることはしませんでした。身体を極端に捻らせ、筋肉の緊張と緩和を一枚の絵の中に共存させる。これによって、静止画であるはずのイラストに「動き」と「ドラマ」が生まれます。
荒木先生はこのエッセンスを見事に漫画へと昇華させました。例えば、第3部の空条承太郎が指を差すポーズや、第5部のジョルノ・ジョバァーナが見せる胸元に手を当てる仕草。これらは、ロペスが描いた「アントニオ・ガールズ」と呼ばれるモデルたちの立ち振る舞いに、彫刻のような重厚さを加えたものだと言えるでしょう。
特に、身体のラインを強調するためにわざと重心を崩す手法は、ロペスが最も得意とした表現の一つです。漫画の中でキャラクターが不自然なほど格好良く見えるのは、ファッションイラストの頂点が持つ「魅せるための構図」が取り入れられているからなのです。
キャラクターデザインに投影された80年代の熱狂
ジョジョの魅力はポーズだけではありません。キャラクターが身にまとっている服、そしてその着こなしそのものが芸術的です。
第1部や第2部では、当時のハリウッドアクション映画のような筋肉美が強調されていましたが、第3部以降、徐々にファッションの比重が高まっていきます。ここでロペスの影響がより鮮明になります。
アントニオ・ロペスは、ストリートの文化をハイファッションに持ち込んだ先駆者でもありました。キャップ、チェーン、大胆なカッティングのジャケット。これらは、承太郎の学生服アレンジや、第4部の東方仗助のディテールにも通じるものがあります。
また、敵キャラクターたちが着ている、実用的ではないけれど圧倒的にスタイリッシュな衣装。あれこそが「アントニオ・ロペス的な世界観」の具現化です。服が単なる装備ではなく、そのキャラクターのプライドや生き様を表現する皮膚の一部になっている。この哲学こそが、ジョジョを他の少年漫画から孤立させた、唯一無二の個性となりました。
荒木先生の描くカラー原稿の鮮やかな色彩も、ロペスの使用したインクや水彩のタッチを彷彿とさせます。ピンクの空、紫の肌。そんな自由な色の使い方は、ロペスが当時の広告デザインで試みたアヴァンギャルドな手法と共鳴しているのです。
荒木飛呂彦先生が語る「絵の描き方」とファッション
荒木先生は、自著『荒木飛呂彦の漫画術』の中でも、自身の絵に影響を与えた存在としてファッションイラストレーターたちの名前を挙げています。漫画家としてデビューした当初、周囲の漫画を模写するのではなく、あえて「外の世界」にある美しさを取り入れようとした決断が、現在の成功に繋がっています。
先生はよく「ルネサンス彫刻」と「ファッションイラスト」を並べて語りますが、ロペスはその両方の要素を兼ね備えた存在でした。彫刻のような立体的な肉体表現と、最新の流行を追う軽やかさ。
ジョジョの第7部『スティール・ボール・ラン』以降に見られる、より繊細で写実的なタッチの中にも、ロペスが描く人物が持っていた「内側から溢れ出すパワー」は健在です。特に集団の構図においては、ロペスの有名なイラストをオマージュしたと思われるシーンもあり、ファンにとってはニヤリとさせられるポイントが散りばめられています。
こうしたハイセンスな感性を養うために、荒木先生が愛用している筆記具や画材へのこだわりも有名です。アナログの温かみを大切にする先生の姿勢は、デジタル全盛の今だからこそ、より一層輝いて見えますよね。
日常で少しでもその感性に触れたいなら、uni-ball Signoのような、先生が愛用していると言われるペンを手に取って、キャラクターのラインを真似してみるのも面白いかもしれません。
アントニオ・ロペスの視点でジョジョを再読する楽しみ
これを知った上で改めてジョジョを読み返すと、今までとは違った景色が見えてきます。
例えば、単行本の表紙。キャラクターが一点を見つめる構図や、複雑に絡み合うポージングは、まさにアントニオ・ロペスの画集の一ページのようです。また、作中に登場するスタンドのデザインにも、ロペスが好んだ幾何学的なパターンや、メタリックな質感が反映されていることに気づくでしょう。
ファンの中には、アントニオ・ロペスのヴィンテージな画集を探し求める人も増えています。彼の作品を知ることは、荒木先生の脳内にある「美のライブラリ」を覗き見るような体験だからです。
「なぜジョジョはこれほどまでに世界中で愛され、ルーヴル美術館にまで飾られることになったのか?」
その答えの一つは、荒木先生がアントニオ・ロペスというフィルターを通して、漫画に「普遍的な美」と「最先端のモード」を融合させたからに他なりません。少年漫画という枠組みの中に、ニューヨークのディスコやパリのランウェイの空気を持ち込んだ。その革命こそが、ジョジョという作品の正体なのです。
ジョジョの元ネタ?アントニオ・ロペスが荒木飛呂彦のデザインに与えた衝撃の影響を解説:まとめ
さて、ここまでアントニオ・ロペスとジョジョの深すぎる関係について紐解いてきました。
荒木飛呂彦先生が、単なる漫画のテクニックに固執せず、アントニオ・ロペスのような異ジャンルの天才からインスピレーションを受け続けたこと。それが、35年以上にわたって色褪せない『ジョジョの奇妙な冒険』という奇跡を生んだと言えるでしょう。
「ジョジョ立ち」の一つのポーズ、衣装のボタン一つの配置、そして影の落とし方。そのすべてに、かつてニューヨークで魔法のようなイラストを描いていたアントニオ・ロペスの魂が宿っているかもしれません。
次にあなたがジョジョのページをめくる時、そこには荒木先生の筆致とともに、1980年代のきらびやかなファッションシーンの風が吹いているのを感じるはずです。
もし、もっと深く荒木先生の思考を知りたいと思ったなら、荒木飛呂彦の漫画術を読んで、先生がどのように外部の芸術を自分の血肉に変えていったのか、その秘密を探ってみるのもおすすめです。
次は、どのキャラクターのポーズがロペスのどの作品に近いのか、自分なりの「元ネタ探し」の旅に出てみてはいかがでしょうか?

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