『ジョジョの奇妙な冒険』を読んでいると、物語の熱量と同じくらい、あるいはそれ以上に目に飛び込んでくるものがありますよね。そう、あの独特すぎる「描き文字」――擬音(効果音)です。
「ゴゴゴゴゴ」や「ドドドドド」といった空気を震わせる音から、「メメタァ」「レロレロ」といった耳慣れない謎の音まで。ジョジョの世界において、擬音は単なる背景の一部ではなく、キャラクターの血肉であり、スタンド能力の鼓動そのものです。
今回は、数あるジョジョ擬音の中から特に伝説的なものをピックアップし、その意味や由来、そして作者である荒木飛呂彦先生が抱く並々ならぬ「音」へのこだわりを徹底的に深掘りしていきます。この記事を読み終える頃には、あなたの脳内でもジョジョ特有の重厚なサウンドが鳴り響き始めるはずです。
なぜジョジョの効果音は「耳に残る」のか?
ジョジョの擬音を語る上で外せないのが、その圧倒的なビジュアルのインパクトです。普通の漫画であれば、擬音はコマの隅っこに添えられる「記号」に過ぎません。しかし、ジョジョの場合は違います。
文字がキャラクターの背後に巨大な壁のようにそびえ立ち、時にはパースがついて奥行きを感じさせ、時にはキャラクターの身体を突き抜けて描かれます。これはもはや「文字」ではなく、グラフィックデザインの一部なのです。
荒木飛呂彦先生は、イタリアの彫刻やルネサンス期の芸術、さらにはファッション誌のポージングなど、多方面からインスピレーションを受けて作品を描かれています。その美学は擬音にも貫かれており、一文字一文字が計算されたバランスで配置されているのです。
また、ジョジョの擬音は「物理的な音」だけを表現しているわけではありません。「何か嫌な予感がする」「圧倒的な才能の差を感じる」といった、本来は音のしない心理的なプレッシャーまでを「ゴゴゴ」という文字で可視化しています。読者は視覚を通じて、その場の緊迫した「空気の震え」を肌で感じることになる。これが、ジョジョの擬音が読者の記憶に強烈に刻まれる最大の理由です。
伝説の擬音「メメタァ」の意味と衝撃の由来
ジョジョの擬音の中で最も有名であり、かつ最も意味不明だと言われるのが、第1部に登場する「メメタァ」ではないでしょうか。
この音は、ジョナサン・ジョースターの師匠であるウィル・A・ツェペリ男爵が、岩の上にいるカエルを拳で殴った際に出たものです。「カエルを殴る」という行為に対して、通常なら「グシャ」や「ベチャ」といった湿った音が想像されます。しかし、ツェペリ男爵が放ったのは、生命のエネルギーを操る「波紋」。
波紋の力はカエルの身体を無傷で通り抜け、その下の岩だけを粉砕しました。この「生命を透過する神秘的な現象」を表現するために選ばれた言葉が「メメタァ」だったのです。
荒木先生はこの音について、実際に自分の拳で物を叩いた時に聞こえる音を突き詰めて考えたと語っています。現実の音をそのまま文字にするのではなく、その瞬間に流れる「感触」や「質感」を言語化した結果、あのような唯一無二の響きが生まれたのです。まさに「考えるな、感じろ」を地で行く、ジョジョ的擬音の原点とも言えるでしょう。
感情を揺さぶる「ズキュウウウン」と「レロレロ」
第1部からもう一つ、初期のジョジョを象徴する音が「ズキュウウウン」です。これはディオ・ブランドーがジョナサンの恋人・エリナに強引にキスをしたシーンで描かれました。
キスの音といえば「チュッ」や「ムギュ」が一般的ですが、ディオのそれは「ズキュウウウン」です。そこにはディオの暴力的な支配欲、エリナの受ける衝撃、そして運命が歪み始める鋭い痛みが込められています。アニメ版ではこのシーンにギターの鋭いチョーキング音が重ねられ、視覚と聴覚の両面から視聴者の心に突き刺さりました。
そして、第3部で読者にトラウマ級の印象を与えたのが、花京院典明(に化けたラバーソール)がチェリーを舌の上で転がす音「レロレロレロレロ」です。
この擬音は、ただの食事の音ではありません。相手を挑発し、不快感を与え、自分のペースに引きずり込むための「攻撃的な音」として機能しています。後に本物の花京院も同じ動きを見せることで、彼の中にある意外な茶目っ気や頑固さを表現するアイコンとなりました。日常的な動作に奇妙な擬音を乗せることで、キャラクターの個性を爆発させる。これもまた荒木流の演出術です。
荒木飛呂彦先生が擬音に込めた「音楽的」こだわり
荒木飛呂彦先生は大の音楽好きとして知られています。登場するキャラクター名やスタンド名の多くが洋楽のアーティストや楽曲に由来していることは有名ですが、実は擬音そのものも「音楽」から強い影響を受けています。
特にヘヴィメタルやハードロックのサウンドは、ジョジョの擬音に多大なインスピレーションを与えています。
- 歪んだギターの残響: 文字の端がうねっていたり、長く伸びていたりする表現は、エレキギターのフィードバック音やディストーションのかかったサウンドを視覚化しようとした試みです。
- 重低音の振動: 「ドドドド」という地響きのような音は、ベースやドラムのキックが腹に響く感覚を再現しています。
- リズムとしての配置: コマの中での擬音の並びは、読者がページをめくる際のリズムをコントロールしています。速いテンポのバトルシーンでは文字が躍動し、静寂のシーンでは重厚な文字が居座る。誌面全体がひとつの楽曲のように構成されているのです。
荒木先生はインタビューで、「既存の漫画の記号に頼りたくない」という趣旨の発言をされています。例えば、銃を撃つ音であっても、ピストルなのかライフルなのか、あるいは撃つ者の精神状態はどうなのかによって、響きは変わるはず。その「一回性の音」を追い求めた結果、私たちは見たこともない新しい言葉に出会うことができるのです。
空間を削り取り、静寂を生む「ガオン」の恐怖
ジョジョの物語が中盤以降(第3部、第4部)に進むと、スタンド能力の多様化に合わせて擬音も進化を遂げます。その代表格が、空間そのものを削り取る能力に関連する「ガオン」です。
第3部のヴァニラ・アイス、第4部の虹村億泰。彼らが能力を振るうとき、そこにあった物質は音もなく消滅します。しかし、完全な無音ではなく、空気が急激に吸い込まれるような、あるいは存在が消えた瞬間の真空の震えのような音が「ガオン」という短い響きに集約されています。
この音には、逃げ場のなさと絶望感が漂っています。派手な破壊音(ドカーン)ではないからこそ、逆に「触れたら終わり」という底知れない恐怖が際立つのです。擬音ひとつで能力の「格」や「ヤバさ」を分からせてしまう。これは高度なストーリーテリングの技術と言えるでしょう。
日常に潜むジョジョ的擬音を探してみよう
ジョジョの擬音を知ると、不思議なことに現実の世界も少し違って見えてきます。
例えば、朝起きて重い腰を上げるときの音は、単なる「よっこらしょ」ではなく「グッパオン」かもしれません。あるいは、誰かの視線を鋭く感じたときは、背後に「ゴゴゴゴゴ」という文字が浮き出ているように感じるかもしれません。
荒木先生は、日常の中にある「音にならない音」を拾い上げる天才です。私たちが普段聞き流している生活音の中にも、実は「ジョジョ的な響き」は隠れています。
- 沸騰したヤカンの音
- 古いエレベーターが止まる寸前の振動
- 真夜中の静かな部屋で鳴る冷蔵庫の音
これらに自分なりの擬音をつけてみる。それだけで、何の変哲もない日常が少しだけ「奇妙な冒険」に近づくような気がしませんか?
グッズやゲームで楽しむジョジョの効果音
これほどまでに愛されているジョジョの擬音ですから、当然のように様々な形で立体化・商品化されています。
ジョジョの奇妙な冒険のコミックスはもちろんですが、ゲーム作品(オールスターバトルRなど)では、擬音がそのままエフェクトとして画面に飛び出し、コンボを決める爽快感を高めてくれます。
また、擬音をモチーフにしたTシャツやアクセサリー、さらには「擬音プレート」がついたフィギュアなども人気です。文字そのものがキャラクターと同じくらい愛されている作品というのは、世界中を探してもジョジョくらいのものでしょう。
ジョジョのフィギュアを飾るとき、横に「ゴゴゴ」の文字があるだけで、そのフィギュアに「魂」が吹き込まれたような錯覚に陥ります。それほどまでに、あの描き文字には強い生命力が宿っているのです。
まとめ:ジョジョの効果音・擬音一覧!「メメタァ」の意味や由来、荒木飛呂彦先生のこだわりを徹底解説
ここまで、ジョジョをジョジョたらしめる象徴的な要素「擬音」についてお伝えしてきました。
「メメタァ」という一見ふざけているような響きの裏に、生命の神秘と物理への深い洞察があったこと。
「ズキュウウウン」という音の中に、運命を切り裂くドラマが凝縮されていたこと。
そして、それらすべてが荒木飛呂彦先生の音楽的センスと、芸術に対する情熱から生み出されたものであること。
ジョジョの擬音は、単なるオノマトペ(擬音語・擬声語)の枠を超え、読者の五感を刺激し、物語を立体的に描き出すための不可欠なピースです。これからジョジョを読むとき、あるいはアニメを観るときは、ぜひその「音」の形をじっくりと観察してみてください。
一文字の「ド」の中に込められた重量感。
長く伸びる「ン」の余韻。
そこには、言葉では説明しきれない「黄金の精神」が確実に宿っています。ジョジョの擬音を知ることは、作品をより深く、より熱く楽しむための第一歩です。さあ、あなたも心の中に自分だけの「ゴゴゴ」を響かせて、この奇妙な世界を突き進んでいきましょう!

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