「ジョジョの奇妙な冒険」を読み進めていると、避けては通れないある「法則」に気づくはずです。それは、作中に登場する犬たちの多くが、あまりにも無残で悲劇的な結末を迎えるということ。
ファンの間では「ジョジョに犬が出てきたら覚悟しろ」とまで言われるこの現象。なぜ、作者の荒木飛呂彦先生はこれほどまでに愛らしい動物たちを過酷な運命にさらすのでしょうか?
今回は、歴代の部で描かれた犬たちのエピソードを振り返りながら、その裏に隠された作者の真意や、物語における重要な役割について深く掘り下げていきます。
ジョジョ第1部から始まる「犬の受難」とディオの狂気
物語のすべての始まりである第1部「ファントムブラッド」において、読者が最初に受ける衝撃のひとつが、ジョナサンの愛犬・ダニーの死です。
ダニーはジョナサンにとって、孤独な幼少期を支えてくれたかけがえのない親友でした。しかし、ジョースター家の乗っ取りを企むディオ・ブランドーの手によって、生きたまま焼却炉に入れられるという、想像を絶する最期を遂げます。
ここで重要なのは、ダニーが死んだことそのものよりも「なぜディオがそんなことをしたのか」という点です。荒木先生は、ディオという男がいかに冷酷で、人間らしい良心を一切持ち合わせていない「絶対的な悪」であるかを読者に分からせるために、あえてこの描写を選びました。
罪のない、そして抵抗できない善良な生き物をいたぶる。この行為こそが、読者に「こいつだけは許せない」という強烈な嫌悪感を抱かせる最短ルートだったのです。
第2部で描かれた「悪の美学」と救われた命
第1部で「犬=犠牲者」というイメージが定着した直後、第2部「戦闘潮流」では少し異なる毛色のエピソードが登場します。
究極生命体を目指す「柱の男」の一人、カーズ。彼は人類にとって最大の脅威でありながら、飲酒運転の車に轢かれそうになった子犬を、自らの体を刃に変えて車を切り裂くことで救いました。
このシーンは非常に示唆に富んでいます。カーズにとって人間は「進化を阻む下等な存在」でしかありませんが、自然の一部である動物に対しては敬意を払うという、彼なりの独自の倫理観が描かれているのです。
犬を殺すことで「底知れぬ悪」を描いた第1部に対し、第2部では犬を救うことで「敵側の気高い精神性」を描く。犬という存在が、キャラクターの深みを出すための重要なバロメーターとして機能していることがわかります。
第3部の象徴・イギーが見せた「誇り高い野良犬」の魂
ジョジョにおける犬を語る上で、第3部「スターダストクルセイダース」のイギーを外すことはできません。彼は単なるペットではなく、スタンド能力を持つ一人の「戦士」として描かれました。
ニューヨークの野良犬の王として君臨していたボストンテリアのイギーは、当初、承太郎たちの旅に協力することを拒んでいました。しかし、DIOの館を守る冷徹な番犬、ペット・ショップとの死闘を経て、彼の心境には変化が訪れます。
そして迎えたヴァニラ・アイス戦。ボロボロになりながらも、仲間のポルナレフを救うために自らの命を投げ出したシーンは、多くの読者の涙を誘いました。
イギーの死は、単なる悲劇ではありません。それは「誇り高き魂」の証明でした。犬であっても、人間と同じように(あるいはそれ以上に)高潔な精神を持ち、仲間のために戦える。イギーというキャラクターを通じて、ジョジョのメインテーマである「人間讃歌(=精神の輝き)」が、種族を超えて描かれたのです。
第4部以降にみる幽霊と守護者としての犬たち
第4部「ダイヤモンドは砕けない」でも、犬は重要な役割を担います。殺人鬼・吉良吉影によって殺害された杉本鈴美の愛犬、アーノルドです。
アーノルドは幽霊となってもなお鈴美に寄り添い、杜王町の平和を乱す吉良を追い詰めるために協力します。物語の終盤、吉良が「振り返ってはいけない小道」で裁きを受ける際、アーノルドが彼の喉元に噛み付くシーンは、長年の怨念が晴らされた瞬間でもありました。
また、第4部には広瀬康一の愛犬・ポリスが登場しますが、彼はジョジョ界では珍しく、平穏な日常の中で生き続ける希少な存在です。
さらに時が流れた第8部「ジョジョリオン」では、岩動物という特殊な生態を持つ「岩助(いやすけ)」が登場します。部を追うごとに、犬の描かれ方は「一方的な犠牲者」から「物語のキーマン」や「家族の一員」へと、より複雑で深みのあるものへと変化していきました。
なぜ犬なのか?荒木飛呂彦先生が込めた「意図」を考察
ここまで見てきた通り、ジョジョにおける犬の扱いは非常に過酷です。ネット上では「荒木先生は犬が嫌いなのではないか?」という噂が流れることもありますが、実はその逆。荒木先生は大の犬好きとして知られています。
では、なぜ好きなものをあえて惨い目に合わせるのか。そこには漫画家としての徹底した演出論があります。
- 読者の感情を強く揺さぶるため漫画において、読者に強い感情(怒り、悲しみ、緊張感)を与えることは非常に重要です。身近で愛される存在である犬を危機にさらすことで、読者は一気に物語に没頭し、敵役への憎しみを募らせることができます。
- 「絶対的な悪」を定義するため先述の通り、理由もなく動物を傷つける描写は、そのキャラクターが「更生の余地がない悪」であることを一瞬で分からせる記号になります。
- ホラー的演出の継承荒木先生が愛するホラー映画の世界では、「平和な家庭の象徴であるペットが最初に犠牲になる」というのは定番の手法です。日常が壊されていく恐怖を演出するために、犬の死は効果的なフックとして機能しているのです。
ジョジョを楽しむための視点と「犬」が教えること
もしあなたがこれからジョジョを読み始める、あるいは読み返そうとしているなら、ぜひ犬たちの「目」に注目してみてください。
彼らは単に可愛がられるだけの存在ではありません。ある時は勇猛な戦士として、ある時は理不尽な悪の目撃者として、その場に存在しています。彼らが命を落とすシーンは確かに辛いものですが、その犠牲があるからこそ、主人公たちの戦う動機が補強され、物語に圧倒的なリアリティが宿るのです。
ちなみに、ジョジョのような長編漫画をじっくり読み解くなら、電子書籍リーダーを活用するのも一つの手です。細かい背景描写やキャラクターの表情までチェックしたい場合はkindleなどのデバイスがあると、移動中も快適にジョジョの世界に浸ることができますよ。
まとめ:ジョジョに登場する犬たちはなぜ悲劇的な最期を遂げるのか?
物語の中で犬たちが辿る運命は、決して無意味なものではありません。それは常に「悪の残酷さ」を際立たせ、あるいは「精神の気高さ」を証明するために必要なプロセスとして描かれてきました。
ダニーから始まり、イギー、そしてアーノルドへ。彼らが残した魂のバトンは、ジョースター家の一族が紡ぐ黄金の精神と深く共鳴しています。
残酷な描写に目を背けたくなることもありますが、その裏にある「生命への敬意」や「悪に対する怒り」を感じ取ることができれば、ジョジョという作品の魅力はさらに何倍にも膨れ上がるはずです。
次にジョジョを読むときは、彼ら「四本足のヒーロー」たちが命を懸けて伝えたかったメッセージを、ぜひ受け取ってみてくださいね。
ジョジョに登場する犬たちはなぜ悲劇的な最期を遂げるのか?全キャラ一覧と作者の意図について、あなたの考察もぜひ深めてみてください。

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