荒木飛呂彦先生による『ジョジョの奇妙な冒険』第8部『ジョジョリオン』。物語の完結から時間が経った今でも、ファンの間で議論が絶えないのがシリーズ史上「最も理不尽で最強」と称されるラスボス、**透龍(とおる)**の存在です。
杜王町を舞台にした呪いを解く物語の裏で、ひっそりと、しかし確実に破滅を撒き散らしていた彼の正体とは何だったのか。この記事では、透龍の不気味な生態から、無敵に近いスタンド能力、そして衝撃のラストシーンまでを徹底的に掘り下げていきます。
これを読めば、難解と言われる第8部の核心がスッキリと理解できるはずです。
突如として現れた「元カレ」という名の怪物
物語の終盤、ヒロインである広瀬康穂の前にふらりと現れた青年。それが透龍でした。最初は「過去に付き合っていた少し執着心の強い元カレ」という、どこか日常的な危うさを持つキャラクターとして登場します。
しかし、その実態は人間ではありませんでした。彼はシリコンベースの代謝を持つ特殊生物**「岩人間」**であり、本作における諸悪の根源とも言える組織のリーダー格だったのです。
岩人間は、人間社会の隙間に潜り込み、戸籍を乗っ取り、自分たちの繁栄のために「仕組み(メカニズム)」を利用します。透龍もまた、TG大学病院でアルバイトを装いながら、裏では「新ロカカカ」という奇跡の果実を巡る陰謀を指揮していました。
彼が恐ろしいのは、承太郎の宿敵・DIOのような圧倒的なカリスマ性や、吉良吉影のような執拗なまでの静止画的殺人欲求とは異なる、「無関心な冷酷さ」を持っている点にあります。彼にとって人間は、自分たちの反映のための土壌であり、利用価値がなくなれば排除すべきノイズに過ぎないのです。
スタンド「ワンダー・オブ・U」と厄災の理
透龍の強さを語る上で外せないのが、彼のスタンドである**ワンダー・オブ・U(ワンダー・オブ・ユー)**です。この能力は、これまでのジョジョに登場した「時間停止」や「運命の上書き」を凌駕するほど、絶望的な性質を持っています。
院長「明負悟」という偽りの姿
このスタンドの特異な点は、スタンド自体が「明負悟(あけふさとる)」という89歳の病院長になりすまし、社会的に実在していることです。一般人にも姿が見え、防犯カメラにも映る。この「擬態」こそが、透龍が姿を隠したまま目的を遂行するための鉄壁の盾となっていました。
追う者は死ぬ「厄災のエネルギー」
ワンダー・オブ・Uの本質的な能力は**「厄災を操る」**ことです。発動条件は極めてシンプルかつ不可避。
- 透龍、あるいは院長を「追撃しよう」と決意する
- 彼らの正体を暴こうと「探る」
- 彼らに向かって「攻撃を仕掛けよう」とする
これらの「意志」を持った瞬間、ターゲットには物理法則を無視した不運、すなわち「厄災」が降り注ぎます。例えば、降り始めた雨粒が銃弾のような威力で体を貫く。ぶつかっただけの椅子が体を切断する。タバコの灰が肺を焼き切る。
この世の「理(ことわり)」そのものが味方しているため、防御は不可能です。相手が近づこうとすればするほど、厄災の激しさは増し、戦う前に命を落とすことになります。
新ロカカカを巡る「仕組み」への執着
なぜ透龍はこれほどまでに強力な能力を使い、暗躍していたのでしょうか。その目的は、等価交換で病や怪我を治す果実「新ロカカカ」の独占にありました。
彼は、この果実を世界の富裕層や権力者に提供することで、莫大な富と権力を手に入れようとしていました。しかし、彼が求めていたのは単なるお金ではありません。彼は**「自分が何もしなくても、勝手に利益が流れ込み、敵が勝手に滅びるシステム」**を作りたかったのです。
これは、岩人間という「愛を知らずに育つ孤独な生物」ゆえの思想かもしれません。彼は、他者との絆や信頼ではなく、抗えない「仕組み」によって世界を支配することに、自分たちの生存意義を見出していたのです。
ジョジョリオンを読み返すと、彼の言葉の端々に「自然の摂理」や「メカニズム」という単語が登場することに気づくでしょう。彼は、自分が世界のルールそのものになろうとした唯一のラスボスと言えるかもしれません。
康穂への執着と「愛」の欠落
透龍というキャラクターを深く理解する上で、広瀬康穂との関係は無視できません。彼は幼い頃の康穂と出会い、彼女のスタンド「ペイズリー・パーク」の才能を見抜いていました。
かつて二人が付き合っていたのも、康穂への愛情があったからではなく、彼女の「情報をナビゲートする能力」が自分の計画に有利に働くと踏んだから。透龍にとっての元カレというポジションは、彼女を監視し、利用し続けるための「最適な距離感」に過ぎなかったのです。
この徹底した実利主義こそが、透龍の気味の悪さの正体です。彼は最後まで、康穂のことを「思い出」として語りはするものの、その瞳には慈しみのかけらもありませんでした。
最期の攻略法:存在しない「ゴー・ビヨンド」
無敵と思われた「厄災の理」ですが、ついにその牙城が崩れる瞬間が訪れます。主人公・東方定助が覚醒させた能力**「ソフト&ウェット:ゴー・ビヨンド」**です。
ワンダー・オブ・Uの能力は、あくまで「この世に存在する理」に基づいて発動します。しかし、定助の指先から放たれたシャボン玉は、極限まで細い「紐」が超高速で回転してできているものであり、その実態は「この世に存在しない(無)」の状態でした。
「存在しないもの」に対して、この世のルールである「厄災」は干渉できません。理の外側から放たれた、目に見えない、狙うことすらできない一撃。これこそが、絶対的なシステムを破壊する唯一のバグだったのです。
透龍は自らが信奉していた「仕組み」の外側からの攻撃に戸惑い、最後は東方家の母・花都の手によって、岩人間としての等価交換の果てに砕け散りました。
結末から考察する透龍という存在の意義
透龍の死をもって『ジョジョリオン』の本編は幕を閉じます。歴代のボスたちが「夢」や「目的」のために情熱を燃やしたのに対し、透龍はどこまでも平熱で、事務的に他者の命を奪い続けました。
彼は、ジョジョという作品が長年描いてきた「人間讃歌」の対極に位置する存在です。人間が持つ感情や絆を「無駄なもの」として切り捨て、効率と仕組みを優先した。だからこそ、その末路は誰にも看取られることのない、虚しい消滅でした。
第8部は「呪いを解く物語」でした。透龍という存在は、東方家にとっても、そして社会にとっても、避けては通れない「合理性という名の呪い」だったのかもしれません。
『ジョジョリオン』のラスボス・透龍を徹底解説!正体やスタンド能力、最期の結末まで:まとめ
透龍というキャラクターは、これまでのジョジョの敵役の中でも異質な輝きを放っています。直接的な暴力ではなく「追いかけることすら許さない」という防衛本能に近いスタンド能力は、読者に言いようのない恐怖を植え付けました。
最後に彼の特徴を整理しておきましょう。
- 正体: TG大学病院のバイトを装う、岩人間の組織のリーダー。
- 能力: ワンダー・オブ・U。自分を追う者に「厄災」をぶつけ、物理法則を超えた事故で殺害する。
- 目的: 新ロカカカを独占し、世界の支配構造(仕組み)を手に入れること。
- 結末: 理の外側の一撃「ゴー・ビヨンド」により敗北し、等価交換の末に消滅。
彼の最期を見届けた後、もう一度最初からジョジョリオンを読み直してみると、物語の至る所に「厄災」の影が潜んでいることに気づくはずです。
「正体を知りたい」という好奇心すら命取りになる——そんなスリリングな恐怖を与えてくれた透龍。彼は間違いなく、ジョジョの歴史に深く刻まれる「最恐」の一人でした。
今回の解説が、あなたの『ジョジョリオン』理解を深める一助となれば幸いです。もし気になるシーンがあれば、ぜひコミックスを手に取って、その圧倒的な絶望感を再体験してみてください。

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