「ジョジョの奇妙な冒険」という長い歴史を持つ物語の中で、ひときわ異彩を放ち、かつ最高傑作との呼び声高いのが第7部『スティール・ボール・ラン(SBR)』です。これまでの部とは舞台を一新し、パラレルワールドのような19世紀末のアメリカを舞台にしたこの物語。そこで描かれる人間ドラマは、少年漫画の枠を超えた深みを持っています。
今回は、第7部の主人公であるジョニィ・ジョースターにスポットを当て、相棒ジャイロとの熱すぎる絆、そして物語の根幹をなすスタンド能力について、その魅力を余すことなく語り尽くします。
どん底から這い上がる「マイナス」の主人公
歴代のジョジョたちを思い返してみてください。ジョナサンは高潔な紳士、承太郎は無敵のヒーロー。彼らは最初から「プラス」の資質を持った強者として描かれることが多かったですよね。
しかし、第7部の主人公ジョニィ・ジョースターは違います。彼は物語のスタート地点において、文字通りの「どん底」にいます。かつては天才騎手として喝采を浴びていましたが、自らの慢心から起きたトラブルで銃撃され、下半身不随になってしまったのです。
希望を失い、世の中を呪い、車椅子で生活する青年。彼は正義のために戦うヒーローではなく、ただ自分の足を治したい、もう一度自分の足で立ちたいという、極めて個人的で切実な欲望を抱いてレースに参加します。この「欠落」を抱えた主人公が、どのようにして再び歩き出すのか。その再生のプロセスこそが、SBRの最大のテーマなのです。
ジャイロ・ツェペリという「導き手」との出会い
ジョニィが絶望の淵で見出した一筋の光、それがもう一人の主人公とも言えるジャイロ・ツェペリです。ネアポリス王国からやってきたこの男が放つ鉄球の「回転」を目の当たりにしたとき、ジョニィの動かないはずの足が一瞬だけ動きました。
「あの回転には、僕を救う可能性があるかもしれない」
ジョニィは、技術も精神も未熟なままジャイロに食らいつきます。二人の関係は、最初は利害の一致による同行者のようでしたが、過酷な大陸横断レースを通じて、深い信頼で結ばれた「戦友」へと変わっていきます。
ジャイロは単なる相棒ではありません。ジョニィにとって、人生の師(マスター)でもありました。ジャイロが教える「Lesson」の数々は、ジョニィがスタンド能力を開花させるためのヒントであると同時に、一人の人間として誇り高く生きるための哲学でもあったのです。
「漆黒の意志」がもたらす圧倒的な強さ
ジョジョシリーズを象徴する言葉に「黄金の精神」というものがあります。正義を信じ、他者のために命を懸ける尊い心。しかし、ジョニィ・ジョースターが持っているのは、それとは対照的な「漆黒の意志」です。
これは決して「悪」という意味ではありません。目的を達成するためなら、自らが地獄に落ちることも厭わず、迷いなく引き金を引ける冷徹な決意のことです。
ジョニィの目は、時折「暗い殺意」を宿します。敵対する者がいれば、たとえ相手に同情すべき事情があっても、彼は自分の目的(遺体の回収、そして足の治療)のために容赦をしません。この非情なまでの純粋さが、ジョニィをこれまでの主人公たちとは一線を画す、恐ろしくも美しい存在にしています。
進化するスタンド「タスク」と回転の技術
ジョニィのスタンドジョジョの奇妙な冒険 第7部に登場する「タスク(TUSK)」は、物語の進行とともに「ACT1」から「ACT4」へと進化を遂げます。この進化は、そのままジョニィの精神的成長とシンクロしています。
最初は自分の爪を回転させて飛ばすだけの「爪弾」でした。射程も威力も限られたものでしたが、ジャイロから「自然界の黄金長方形」に基づいた回転を学ぶことで、その威力は次元を増していきます。
特に終盤で登場する「ACT4」は、ジョジョ史上最強議論に必ずと言っていいほど名前が挙がる能力です。馬の走力が生み出すエネルギーと、完成された回転が合わさったとき、それは「無限」の力を得ます。どれほど強固な防御も、別次元への逃走も許さない。その一撃は、まさに「神の領域」に踏み込んだ結果と言えるでしょう。
宿敵ヴァレンタイン大統領との「正義」のぶつかり合い
物語のクライマックスで立ちはだかるのは、アメリカ合衆国大統領ファニー・ヴァレンタインです。彼の目的は「聖なる遺体」を手に入れ、自国にのみ幸福が訪れるようにすること。
客観的に見れば、大統領の行動は「国を愛するがゆえの献身」であり、ジョニィの行動は「自分の足のためだけの利己的な執着」に見えるかもしれません。しかし、大統領の掲げる正義が他者の犠牲の上に成り立つ「独善」であるのに対し、ジョニィの執着は自分自身の人生を取り戻すための「祈り」に近いものです。
この二人の対決は、どちらが正しいかという単純な勧善懲悪ではありません。どちらの信念がより「納得」できるものかという、魂のぶつかり合いなのです。
「ありがとう」で締めくくられる最高の結末
ネタバレを避けて表現するならば、SBRの結末は非常に静かで、深い余韻を残すものです。ジョニィが最後に手に入れたものは、当初彼が求めていたもの以上の価値を持つ「何か」でした。
長い旅を終えた彼が口にする「ありがとう。それしか言う言葉が見つからない」という台詞。この一言に、ジャイロへの想い、過酷だったレースのすべて、そして自分自身の過去への決別が込められています。
読者はこのラストシーンに立ち会うことで、ジョニィとともに長い旅を終えたような、形容しがたい充足感に包まれるはずです。
【ジョジョ7部】主人公ジョニィの魅力とは?ジャイロとの絆や能力を徹底解説!:まとめ
第7部『スティール・ボール・ラン』は、ジョニィ・ジョースターという「マイナスの人間」が、ジャイロという「光」に出会い、自らの「漆黒の意志」を燃やしてゼロに向かって歩き出す物語です。
その過程で描かれる「回転」の理、奇妙なスタンドバトル、そしてアメリカ大陸を駆け抜ける馬たちの躍動感。どれをとっても一級品のエンターテインメントでありながら、読み終わった後には人生について考えさせられる深遠さがあります。
もしあなたが、まだジョニィの物語を体験していないのであれば、ぜひスティール・ボール・ラン 文庫版を手に取ってみてください。そこには、歴代ジョジョの中でも最も泥臭く、そして最も美しい「人間讃歌」が待っています。ジョニィ・ジョースターの瞳に宿る光を、あなたもぜひ目撃してください。

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