「一番の近道は遠回りだった」「遠回りこそが俺の最短の道だった」
ジョジョの奇妙な冒険の歴代主人公の中でも、ひときわ異質で、そして泥臭く人間臭い物語。それが第7部『スティール・ボール・ラン(SBR)』です。19世紀末、広大なアメリカ大陸を馬で横断するという壮大なスケールで描かれるこの物語は、これまでの「正義の物語」とは一線を画す、再生への記録でもあります。
特に物語の序盤から中盤にかけて、アメリカ南部を舞台に繰り広げられる死闘は、読者の心に強烈な「漆黒の意思」を焼き付けます。なぜ舞台は南部だったのか、そしてジョニィたちが追い求めた「遺体」の正体とは何だったのか。その謎と魅力に迫ります。
1890年アメリカ南部から始まる「再生」のカウントダウン
物語の幕開けはサンディエゴ。そこから東へと向かう過酷なレースが始まります。この時代の「南部」は、単なる荒野ではありません。南北戦争が終わってから数十年、急速な近代化の波が押し寄せつつも、依然として古い慣習や、厳しい自然環境が支配する「力」の時代でした。
主人公ジョニィ・ジョースターは、かつて天才騎手として南部でも名を馳せたスターでした。しかし、自らの慢心が招いた悲劇によって下半身不随となり、富も名声も、そして歩くことさえも失ってしまいます。彼は人生の「マイナス」地点に立ち尽くしていました。
そんな彼が出会ったのが、ネアポリス王国から来た謎の男、ジャイロ・ツェペリです。ジャイロが操る「鉄球」の回転の振動によって、動かないはずの自分の足が一瞬だけ動いた。その奇跡の正体を知るため、ジョニィは這いつくばって馬に乗り、レースへの参加を決意します。
ジョニィとジャイロが追い求めた「納得」という名の羅針盤
ジョジョ第7部の最大の魅力は、ジョニィとジャイロという二人の男の絆にあります。彼らは決して、世界を救おうとしているわけではありません。
ジャイロ・ツェペリの目的は、自国で無実の罪により死刑を待つ少年を救うこと。そのためにレースで優勝し、国王の恩赦を勝ち取ろうとします。彼が重んじるのは、自分がその行動に「納得」できているかどうか。高潔な騎士道精神を持ちながらも、どこか抜けたところがあるジャイロのキャラクターは、過酷な旅路における一筋の光です。
一方のジョニィは、もっと切実で、もっと利己的です。「マイナスをゼロに戻したい」という、人間としての根源的な欲求。そのためなら、彼は時として冷酷な判断を下します。この二人の対照的な性格が、南部から中西部へと続く長い道のりの中で、互いに補完し合い、深い信頼関係へと昇華していく過程こそが、SBRの真骨頂と言えるでしょう。
旅の途中で彼らが愛用するキャンプ道具や、過酷な環境を生き抜くための装備を想像すると、現代の私たちもアウトドア用品を手にして、彼らの足跡を辿ってみたくなりますね。
聖なる遺体がもたらす「奇跡」と「呪い」の正体
レースの裏側で進行する真の目的、それが「聖なる遺体」の争奪戦です。アメリカ南部の砂漠地帯を越える頃、ジョニィたちはこのレースが単なるスポーツではなく、国家規模の陰謀であることを知ります。
「聖なる遺体」とは、かつてこの地を旅したとされる「聖者」の遺骸です。そのパーツを手に入れた者は、強大なスタンド能力を授かり、時には運命さえも変える力を得ます。
- 遺体の右腕: 最初にジョニィたちを襲った「悪魔の手のひら」で発見。
- 遺体の脊椎: 地形そのものが意志を持つかのような過酷な土地に隠されている。
- 遺体の頭部: 全てのパーツを繋ぐ最重要部位。
この遺体を集めることで、アメリカ合衆国を「世界の中心」にしようと画策するのが、第23代大統領ファニー・ヴァレンタインです。彼の掲げる「愛国心」は純粋であり、だからこそ恐ろしい。正義の反対は悪ではなく「別の正義」であることを、SBRは私たちに突きつけてきます。
スタンド能力の進化と「黄金の回転」の秘密
第7部では、これまでの部のような「生まれ持った超能力」としてのスタンドだけでなく、技術や遺体によって開花する能力が描かれます。
ジョニィのスタンド「タスク(牙)」は、ジャイロから学んだ「回転」の技術と、遺体の力が融合して進化していきます。最初は爪を弾くだけの小さな力でしたが、物語が進むにつれて、空間を切り裂き、概念さえも突き破る「無限の回転」へと到達します。
この「回転」という概念は、自然界に存在するフィボナッチ数列、いわゆる「黄金長方形」に基づいています。南部の荒野に咲く一輪の花や、大空を舞う鳥の形。自然の中に隠された「完璧な美しさ」を読み取ることで、回転のエネルギーは最大化されます。
私たちが日常でカメラを向けて切り取る景色の中にも、もしかしたらジョニィたちが目指した「黄金の回転」が隠れているのかもしれません。
南部から全米へ!ジョジョ第7部SBRの舞台・南部の謎とは?聖なる遺体とジョニィの旅を徹底解説!
サンディエゴを出発し、アリゾナの砂漠を抜け、ロッキー山脈を越えていく。ジョニィとジャイロの旅は、単なる距離の移動ではなく、魂の成長記録でした。
物語の終盤、舞台はニューヨークへと移りますが、彼らの精神の原点は間違いなくあの「南部」にありました。何も持たず、絶望の中にいたジョニィが、ジャイロという相棒に出会い、馬の背中で「風」を感じ、再び自分の足で立つ決意をした場所。
「聖なる遺体」を巡る戦いは、最終的に誰が勝者となったのか。それはぜひ、皆さんの目で確かめてみてください。そこにあるのは、勧善懲悪では語りきれない、深い感動と余韻です。
SBRは、一度読み始めると止まらない魅力があります。もしまだ読んでいないなら、ジョジョの奇妙な冒険 第7部を手に取って、彼らと共にアメリカ大陸を駆け抜けてみてはいかがでしょうか。きっとあなたの心の中にも、消えることのない「黄金の回転」が生まれるはずです。


コメント