夕暮れ時、ふとした瞬間に頭の中で流れ出すメロディ。アニメ『ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース』エジプト編を観終えた視聴者にとって、それは特別な意味を持つ旋律です。パット・メセニー・グループによる「Last Train Home」は、なぜこれほどまでに私たちの心を掴んで離さないのでしょうか。
単なるアニメのエンディング曲という枠を超え、物語の魂そのものを体現したかのようなこの楽曲。今回は、パット・メセニーとジョジョが交差した、あの熱い旅の記憶を深く掘り下げていきます。
荒木飛呂彦先生が惚れ込んだ「風景を白昼夢に見せる音楽」
ジョジョの物語において、音楽は切り離せない要素です。原作者の荒木飛呂彦先生は、執筆中も常に音楽を流しており、キャラクター名やスタンド名に洋楽のアーティスト名を引用するのはもはや伝統。そんな荒木先生が、第3部エジプト編のエンディングとして熱望したのがパット・メセニーでした。
パット・メセニーは、ジャズ・フュージョン界の巨匠であり、グラミー賞を何度も受賞している世界的なギタリストです。彼の音楽は、ジャンルの壁を超えた「叙情性」が最大の特徴と言えます。
荒木先生はかつて、パット・メセニーの音楽について「風景を想像させる」「印象派の音楽のよう」と評したことがあります。砂漠を突き進む承太郎一行の孤独、熱気、そして一抹の寂寥感。これらを表現するのに、メセニーの乾いた、それでいて温かみのあるギターサウンドほどふさわしいものはなかったのです。
「Last Train Home」というタイトルが象徴する旅の終焉
この曲のタイトルを直訳すれば「家へ帰る最終列車」となります。1987年に発表されたアルバムStill Life (Talking)に収録されたこの名曲は、ジョジョの物語と驚くほどシンクロしています。
物語の第3部は、DIOという宿命の敵を倒すため、日本からエジプトへと向かう50日間の旅を描いています。彼らが目指したのは、日常を取り戻し、愛する家族のもとへ帰ること。しかし、その旅路はあまりにも過酷で、多くの仲間が「最終列車」に乗ることなく命を散らしました。
曲の冒頭、シャカシャカというブラシワークによるリズムが刻まれます。これは明らかに列車の走行音を模したものです。一定のリズムで進み続けるその音は、止まることのできない運命の歯車や、一歩一歩着実に死闘の地へと近づく一行の足取りを感じさせます。
シタール・ギターが奏でるノスタルジーと異国情緒
「Last Train Home」を一度聴いたら忘れられないものにしているのは、あの独特のメインメロディです。パット・メセニーが演奏しているのは、コーラル・シタール・ギターという珍しい楽器。
インドの民族楽器シタールのような「ビーン」という共鳴音を含んだ音色が、エジプトという異国の地の空気感を完璧に演出しています。ジャズでありながら、どこか東洋的で、それでいてアメリカの広大な大地をも想起させる不思議なサウンド。
この多国籍な響きこそが、香港、シンガポール、インド、パキスタンと経由してエジプトへ至る「スターダストクルセイダース」の旅路そのものを音楽に昇華させているのです。アニメのエンディング映像で、キャラクターたちのこれまでの足跡が写真のように流れる演出と重なったとき、視聴者の感情は一気に爆発しました。
パット・メセニー・グループという伝説の集合体
この曲を語る上で欠かせないのが、パット・メセニー・グループ(PMG)というバンドの存在です。単なるソロ活動ではなく、キーボードのライル・メイズという稀代のパートナーがいたからこそ、この緻密で壮大な世界観は完成しました。
ライル・メイズが構築するシンセサイザーのオーケストレーションは、ギターのメロディを優しく包み込み、まるで映画のサウンドトラックのような広がりを与えています。残念ながらライル・メイズは2020年にこの世を去りましたが、彼らが残したThe Essential Collection Last Train Homeなどの作品は、今もなお色褪せることはありません。
ジョジョを通じてパット・メセニーを知った若いファンが、このアルバムを手に取り、ジャズやフュージョンの奥深さに触れる。まさに、音楽のバトンが世代を超えて受け継がれていく瞬間です。
アニメ映像との完璧な同期がもたらした感動
ジョジョのエンディング演出は、曲の入り方が非常に秀逸であることで知られています。本編のラストシーン、緊迫した空気が漂う中で、あの列車の走行音が重なり始める。そして画面が暗転し、夕日のようなオレンジ色の光とともにメロディが流れ出す。
特にエジプト編の後半、ひとり、またひとりと仲間が欠けていく展開において、「Last Train Home」の持つ切なさは増していきました。生き残った者が抱える喪失感と、亡き友への想い。それを癒やすかのように流れるメセニーのギターは、単なるBGMではなく、物語の一部として機能していました。
この曲を聴くだけで、イギーの勇姿や、花京院の最期、アヴドゥルの自己犠牲を思い出し、涙腺が緩むというファンは少なくありません。まさに音楽がアニメという媒体を得て、新しい神話となった例と言えるでしょう。
ジョジョから始まるパット・メセニー入門
もしあなたがジョジョをきっかけにパット・メセニーに興味を持ったなら、ぜひ他のアルバムもチェックしてみてください。彼のキャリアは非常に長く、多種多様なスタイルに挑戦しています。
- Offramp:シンセサイザー・ギターを大胆に導入した初期の傑作。
- Bright Size Life:パットのデビュー作であり、天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスとの共演盤。
- Letter From Home:ブラジル音楽の要素をふんだんに取り入れた、明るくも切ない名盤。
ジョジョで使用された曲だけでなく、彼の音楽全体に流れる「旅情」や「誠実さ」に触れることで、作品への理解もより深まるはずです。
音楽が繋ぐ、終わらない「黄金の精神」
ジョジョの物語は、部が変わるごとに主人公も舞台も一新されます。しかし、根底に流れる「黄金の精神」は変わりません。それはパット・メセニーの音楽活動にも通じるものがあります。
彼は常に新しい技術や楽器を取り入れ、自らの音楽をアップデートし続けてきました。しかし、その中心にある「聴く者の心に情景を描く」という姿勢はデビュー以来、一度もブレていません。
第3部の終わり、承太郎が空港でジョセフと別れるシーン。そこで流れた静寂と、心の中に響いたであろう「Last Train Home」。私たちはあの曲を通じて、彼らと一緒に旅をし、一緒に戦い、そして一緒に「帰還」したのです。
パット メセニー ジョジョ:時代を超えて響き続ける旅人の調べ
『ジョジョの奇妙な冒険』というエポックメイキングな作品と、パット・メセニーという音楽界の至宝。この二つが出会ったことは、アニメ史に残る幸運な出来事でした。
「Last Train Home」が流れる数分間、私たちは日常を離れ、砂塵舞うエジプトの空の下へと誘われます。たとえ旅が終わっても、そのメロディが耳元にある限り、承太郎たちの冒険は私たちの心の中で永遠に生き続けるのです。
もし今、あなたが何かに疲れたり、長い一日の終わりに安らぎを求めていたりするなら、ぜひPat Metheny Groupのアルバムを再生してみてください。あの列車の音が聞こえてきたとき、あなたはきっと、自分だけの「帰るべき場所」へと導かれることでしょう。パット メセニー ジョジョ、この組み合わせがもたらした感動は、これからも新しい世代のファンを魅了し続けていくに違いありません。

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