「もう人生、詰んだかもしれない……」
そんなふうに感じたことはありませんか? 会社のために身を粉にして働き、家族を養い、ようやく定年を迎えたその日に、すべてを失う。もし自分がその立場になったら、一体どうなってしまうのか。
今回ご紹介する本宮ひろ志先生の漫画『まだ、生きてる…』は、まさにそんな「絶望の淵」から物語が始まります。ビジネス誌『ビジネスジャンプ』で連載され、全2巻という短さながら、多くの読者の人生観を揺さぶった伝説的な名作です。
なぜ、この物語が今もなお語り継がれ、私たちの心を掴んで離さないのか。そのあらすじと魅力を、ネタバレなしで徹底的に紐解いていきます。
絶望から始まる物語:『まだ、生きてる…』のあらすじ
主人公は、60歳の岡田憲三。彼は38年間、真面目一筋に経理マンとして会社を支えてきました。パソコンが普及しても、彼は頑なに「そろばん」で仕事をこなし、家族を養うために必死に生きてきたのです。
しかし、定年退職を迎えて帰宅した彼を待っていたのは、信じられない光景でした。
家の中はもぬけの殻。長年連れ添った妻は預金すべてを引き出し、離婚届だけを残して失踪。息子や娘たちも、父である憲三を疎ましく思い、連絡すらつきません。会社という居場所を失い、家庭という心の拠り所も失い、さらには再就職先でも「パソコンも使えない老人は不要」と突き放されます。
「自分は何のために生きてきたのか」
絶望した憲三は、死に場所を求めて故郷の山へ向かいます。そこで首を括ろうとしますが、無情にも木の枝が折れ、死ぬことさえ許されませんでした。
雨に打たれ、泥にまみれ、どん底に落ちた彼は、そこで一つの境地に達します。
「どうせ死んだも同然なら、死ぬまで生きてやる」
一文無しの老人が、自然の中で「真の生」を取り戻していく、壮絶なサバイバルがここから幕を開けます。
なぜ心に刺さる?本作が持つ圧倒的なリアリティ
この漫画が他のサバイバル作品と一線を画しているのは、そこに描かれる「痛み」が極めて現代的だからです。
昭和の男が直面する「デジタル社会の疎外感」
憲三は、そろばんの技術を極めたプロフェッショナルです。しかし、時代はそれを必要としなくなりました。彼がハローワークで受ける冷遇は、単なる創作ではなく、今の日本社会が抱えるリアルな問題そのものです。「自分はまだやれる」という自負と、社会からの「あなたはもういらない」という宣告。このギャップに苦しむ憲三の姿に、胸を締め付けられる読者は少なくありません。
家族という幻想の崩壊
長年家族を支えてきた自負があるからこそ、家族からの拒絶は死よりも辛い。憲三が直面する「孤独」は、決して他人事ではありません。お金や地位で繋がっていた人間関係が消え去った後、自分に何が残るのか。この鋭い問いかけが、読者の深い共感を呼びます。
自給自足の極限サバイバル:知恵と生命力の爆発
山にこもった憲三は、最新のキャンプ道具など持っていません。彼にあるのは、幼少期に山で遊んだ記憶と、生きるための最低限の知恵だけです。
ゴミを宝に変える「生きる力」
憲三は、不法投棄された家電や資材を拾い集め、それらを加工して自分の拠点を作り上げます。文明社会では「粗大ゴミ」として捨てられたものが、生きるための貴重な「資源」に変わる。このプロセスは、機能性ばかりを追求する現代社会に対する、強烈なカウンターメッセージにもなっています。
命を喰らう、命を繋ぐ
空腹に耐えかね、野生の生き物を捕らえて食べるシーンには、圧倒的な生命の躍動感があります。血を流し、肉を食らい、排泄する。都会で忘れてしまった「生き物としての基本」を憲三が取り戻していく姿は、読者の本能を揺さぶります。
電子書籍や単行本でこの迫力をぜひ体感してほしいのですが、読む際はぜひkindleなどのデバイスで、その力強い筆致を隅々までチェックしてみてください。
本宮ひろ志作品としての新境地
『サラリーマン金太郎』や『男一匹ガキ大将』など、本宮ひろ志先生といえば「熱い男が大きな組織や権力に立ち向かう」というイメージが強いかもしれません。しかし、本作『まだ、生きてる…』は、それらとは全く異なる手触りを持っています。
静かなる闘志
本作には、大金も、政治的な駆け引きも、派手な格闘シーンもありません。描かれるのは「自分という人間をどう全うするか」という、極めて個人的で静かな戦いです。本宮流の力強い線はそのままに、登場人物の内面的な葛藤をこれでもかと深く掘り下げています。
短編だからこそ凝縮された「人生」
全2巻というボリュームは、忙しい現代人にとっても読みやすいサイズ感です。しかし、その密度は並の長編漫画を遥かに凌ぎます。第1部で描かれる父・憲三の再生と、第2部で描かれる息子・信夫の物語。この親子二代にわたるドラマが、一つの円を描くように完結する構成は見事というほかありません。
読後の爽快感と「生きる勇気」
この漫画を読み終えた後、多くの人が感じるのは、どんよりとした絶望ではなく、不思議なほどの「清々しさ」です。
憲三は、社会的なステータスや財産をすべて失いました。しかし、その代わりに彼は「自分自身の人生」を取り戻しました。誰のためでもなく、自分の命を使い切るために生きる。その覚悟が決まった人間の強さは、何物にも代えがたい輝きを放ちます。
もし今、あなたが仕事で行き詰まっていたり、将来に不安を感じていたりするなら、ぜひこの本を手に取ってみてください。憲三の泥臭い生き様は、「かっこいい大人とは何か」「豊かさとは何か」を、言葉ではなく背中で教えてくれます。
読書のお供には、リラックスできるherbal teaなどを用意して、じっくりとこの世界観に浸るのがおすすめです。
漫画「まだ、生きてる…」のあらすじと魅力をネタバレなしで解説!:まとめ
いかがでしたでしょうか。
『まだ、生きてる…』は、単なるサバイバル漫画ではありません。それは、一度死んだ男が、自らの足で再び立ち上がるまでの「魂の再生物語」です。
- 定年退職ですべてを失った男の衝撃的な幕開け
- 「そろばん」と「山での知恵」を武器にした極限の自給自足
- 現代社会が抱える孤独と疎外感を突く、鋭いテーマ性
- 全2巻に凝縮された、圧倒的な読後感
これほどまでに「人間」を剥き出しにして描いた作品は、そう多くありません。今の時代、私たちは多くの情報や物に囲まれていますが、本当に大切なものは意外とシンプルなところにあるのかもしれません。
憲三が山の中で見つけた「光」は、きっとあなたの心にも届くはずです。
もし、この記事を読んで興味を持たれたなら、今すぐ本を開いてみてください。そして、読み終えたとき、鏡の中の自分に問いかけてみてください。
「自分は今、ちゃんと生きているか?」と。
あなたの人生に、この一冊が新しい風を吹き込んでくれることを願っています。

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