「ジャンプ史上、最も汚い漫画だった」
そんなふうに評されることもありますが、同時にこれほどまでに多くの読者の心に「トゲ」のように刺さり続け、忘れられない作品も珍しいのではないでしょうか。その名も『モンモンモン』。
1990年代初頭の『週刊少年ジャンプ』黄金期。ドラゴンボールやスラムダンクといった王道作品が並ぶ中、突如として現れた「おさるの兄弟」の物語は、当時の子供たちの常識を根底から覆しました。
なぜ、鼻水を垂らし、お漏らしを繰り返し、常に全裸の猿たちが、令和の今になっても伝説として語り継がれるのか。今回はモンモンモンの漫画が人気の理由とは何か、そして強烈すぎるキャラクターの魅力を徹底的に考察していきます。
圧倒的な「画力」に裏打ちされた狂気のギャグ
まず語らなければならないのは、作者・つの丸先生の圧倒的な画力です。一見すると「子供が描いたような汚い絵」に見えるかもしれません。しかし、実はその逆。緻密に計算されたフォルム、キャラクターの動線、そして何より「表情」のバリエーションが異常なまでに豊かなのです。
- 筋肉や動きのリアリティ猿たちが暴れ回るシーンの躍動感は、並のギャグ漫画の域を超えています。骨格を感じさせる動きがあるからこそ、その後の「脱力したオチ」がより際立つのです。
- 「汚さ」を芸術に昇華させた表現鼻水、ヨダレ、排泄物……。本来であれば不快感を与えるはずの要素が、つの丸先生の手にかかると「笑い」へと変換されます。この絶妙なバランス感覚こそが、本作を単なる下品な漫画で終わらせなかった最大の要因でしょう。
この圧倒的な描き込みがあるからこそ、読者はその世界観に引き込まれ、いつの間にか「猿たちの日常」を当たり前のものとして受け入れてしまうのです。
主人公・モンモンの「クズ」なのに憎めない人間臭さ
物語の核となるのは、やはり主人公のモンモンです。彼はヒーローとは程遠い存在。卑怯、不潔、わがまま。人間の醜い部分をすべて猿の姿に凝縮したようなキャラクターです。
しかし、なぜか私たちは彼を嫌いになれません。そこには、モンモンというキャラクターが持つ「多面的な魅力」が隠されています。
- 圧倒的な生命力とバイタリティどんなにひどい目に遭っても、次のコマではケロッとして悪巧みをしている。その不屈の精神(?)は、どこか見ていて清々しさすら感じさせます。
- 時折見せる「兄としての顔」基本的には弟のモンチャックをこき使ったり、身代わりにしたりと散々な扱いをしますが、本当に窮地に陥ったときには、兄らしい(彼なりの)優しさを見せることがあります。この「ツンデレ」ならぬ「クズデレ」なギャップが、読者の母性本能や保護欲をくすぐるのです。
モンモンは、私たちが社会生活の中で隠している「本音」や「恥」をすべてさらけ出してくれる存在。だからこそ、彼の傍若無人な振る舞いに、私たちはある種のカタルシスを覚えるのかもしれません。
弟・モンチャックの「純粋さ」が引き立てる狂気
モンモンを語る上で欠かせないのが、弟のモンチャックです。頭にチャックがついた不思議な造形の彼は、初期は「兄に振り回される可哀想な弟」というポジションでした。
しかし、物語が進むにつれて、モンチャックのキャラクターも深化していきます。
- 兄以上のポテンシャルと狂気純粋無垢ゆえに、時として兄のモンモンさえも震え上がらせるような行動に出ることがあります。この「無垢な恐怖」が、ギャグにさらなる深みと予測不能な展開をもたらしました。
- マスコットとしての完成度あんなに不潔な設定なのに、どこか可愛らしい。この「キモ可愛い」の先駆けとも言えるデザインは、後のみどりのマキバオーに繋がる、つの丸キャラの真骨頂と言えます。
兄の毒を浄化するどころか、さらに増幅させてしまう。この兄弟のコンビネーションこそが、『モンモンモン』という爆発的な笑いのエンジンでした。
脇を固める「濃すぎる」サブキャラクターたち
『モンモンモン』の世界は、猿たちだけではありません。彼らを取り巻く人間や動物たちも、一人一人が主役を張れるほどの個性を持っています。
- 原田勝夫(おじさん)猿のモンモンと対等(あるいはそれ以下)のレベルでやり合う人間の大人。彼の存在が、「猿対人間」という構図を崩し、物語をより混沌としたシュールな空間へと導きました。
- 小杉や他の猿たちエリート猿から暴走族風の猿まで、猿社会のヒエラルキーが描かれることで、物語に妙なリアリティが生まれます。
これらのキャラクターたちが、モンモンという台風の目に巻き込まれ、常識が崩壊していく様を見るのが、本作の醍醐味の一つです。
「泣ける」要素との絶妙なバランス
単なる不条理ギャグ漫画だと思っていると、足元をすくわれるのが『モンモンモン』の恐ろしいところです。物語の随所に、ふと胸を締め付けるような「哀愁」が漂います。
- 猿社会の孤独と切なさ野生の世界の厳しさや、仲間外れにされる悲しみ。そういった「負」の感情が、笑いの裏側にしっかりと描き込まれています。
- 最終回への衝撃多くの読者が語り草にするのが、そのラストシーンです。あれだけバカをやっていた物語が、どのような結末を迎えるのか。詳細は伏せますが、ギャグ漫画とは思えないほどの「余韻」を残す締め方は、読者の心に深く刻まれました。
「笑い」と「涙」は紙一重と言われますが、つの丸先生はその境界線を行き来する天才。大笑いした後に、ふと寂しくなる。この情緒の揺さぶりこそが、長年愛される理由です。
令和の今、なぜ再び『モンモンモン』なのか?
今の時代、漫画におけるコンプライアンスは非常に厳しくなっています。そんな中でモンモンモン 文庫版を読み返すと、当時の自由奔放な表現のパワーに圧倒されます。
- 忖度のない「笑い」の純粋さ誰かに配慮するのではなく、ただ「面白いもの」「バカバカしいもの」を追求する姿勢。その純粋なエネルギーが、閉塞感のある現代において、逆に新鮮に映るのです。
- SNSとの親和性1コマのインパクトが強烈なため、SNSなどで画像が流れてくると、未読の若い世代も「なんだこれは!?」と食いつきます。時代を超越したビジュアル・インパクトが、新たなファンを生み出し続けています。
まとめ:モンモンモンの漫画が人気の理由とは?キャラクターの魅力を考察して見えたもの
ここまで振り返ってみて、一つの答えに辿り着きました。
モンモンモンの漫画が人気の理由とは、単に下品で面白いからだけではありません。それは、人間の「醜さ」や「弱さ」を、猿というフィルターを通して肯定し、全力で笑い飛ばしてくれる「優しさ」があるからではないでしょうか。
主人公モンモンをはじめとするキャラクターたちは、決して立派な存在ではありません。失敗ばかりだし、汚いし、自分勝手です。でも、彼らはどんな時でも一生懸命に(あるいは必死に)生きています。その姿は、完璧を求められる現代社会を生きる私たちにとって、ある種の救いのようにさえ感じられます。
鼻水を垂らしながら笑い、時々ちょっぴり切なくなる。そんな唯一無二の体験をさせてくれる『モンモンモン』。
もし、あなたがまだこの「猿の迷宮」に足を踏み入れていないのなら、ぜひ一度手に取ってみてください。そこには、言葉では説明できない「魂の叫び」と「最高のバカ」が待っています。一度読み始めたら、あなたもモンモンの、そしてモンチャックの不思議な魅力から逃れられなくなるはずですよ。

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