仕事中の怪我や病気で療養しているとき、心の支えになるのが労災保険の「休業補償給付」ですよね。しかし、ある日突然、労働基準監督署や会社から「そろそろ休業補償を打ち切ります」という通知や打診が来たら、目の前が真っ暗になるような不安を感じるのも無理はありません。
「まだ体が痛くて動けないのに、どうして?」
「これから先の生活費はどうすればいいの?」
そんな切実な悩みを抱えているあなたに向けて、この記事では労災の休業補償が打ち切られる本当の理由と、納得できない通知が届いたときに取るべき具体的な対処法を分かりやすく解説します。
そもそもなぜ?労災の休業補償が打ち切りになる基準
労災の休業補償は、無期限に受け取れるものではありません。打ち切りの通知が来るのには、法律に基づいた明確な「基準」が存在します。まずは、なぜ自分の補償が止まろうとしているのか、その理由を正しく把握しましょう。
「治ゆ」または「症状固定」と判断されたとき
労災保険における「治ゆ」とは、怪我が完全に元通りになることだけを指すのではありません。「症状固定」といって、現代医学の力を尽くしても、これ以上の症状改善が見込めなくなった状態も含まれます。
「まだ痛みがあるのに」と思うかもしれませんが、治療を続けても劇的な変化がないと判断されると、労災法上は「療養の必要がない」とみなされ、休業補償の対象から外れてしまうのです。
労働ができる状態(就労可能)とみなされたとき
休業補償は「療養のために労働できず、賃金を受けていないこと」が支給の条件です。そのため、例えば「元の仕事は無理でも、事務作業のような軽作業ならできる」と医師や労基署が判断した場合、休業補償が打ち切られる、あるいは減額される可能性があります。
療養開始から1年6か月が経過したとき
一つの節目となるのが「1年6か月」です。この期間を過ぎても治っていない場合、労基署は「傷病の状態」を改めて調査します。重い障害が残っている場合は「傷病補償年金」に切り替わりますが、そこまでの基準に達していないと判断されると、休業補償そのものが打ち切りを検討される対象になります。
打ち切り通知の「前兆」と具体的な受け取り方
「休業補償打ち切り通知」という名前の書類がいきなりポストに届くことは稀です。多くの場合、その前段階としていくつかの「サイン」があります。
労基署からの電話や面談
もっとも多いのが、労働基準監督署の担当者から「最近の体調はどうですか?」「主治医の先生は何と言っていますか?」といった確認の連絡が入ることです。ここで「少しずつ良くなっている」と答えると、それが打ち切りの判断材料に利用されることもあります。
医師への照会回答
労基署は定期的にあなたの主治医に対して、治療の状況や今後の見通しを確認する「照会」を行っています。医師が「現状維持(症状固定)」という回答を出すと、それを根拠に打ち切りの手続きが進みます。
支給決定通知書の備考欄
毎月の休業補償の振込に合わせて届く「支給決定通知書」をよく見てください。備考欄に「〇月分をもって支給を終了する予定です」といった一文が添えられていることがあります。これは非常に重要な通知ですので、必ずチェックしましょう。
打ち切りに納得できない!その場でやるべき3つの行動
もし、まだ体が動かず復職もできないのに打ち切りの話が出てきたら、決して「はい、わかりました」と諦めてはいけません。
1. 主治医の意見を再確認する
労基署が打ち切りを判断する最大の根拠は、医師の診断です。まずは主治医に「まだ仕事ができる状態ではないこと」「治療を続ければさらに改善の余地があること」を明確に伝えましょう。もし医師が「もう固定だね」と考えている場合は、具体的にどの動作が辛いのかを詳細に伝え、診断書の内容を検討してもらう必要があります。
2. 労基署に「意見書」や「診断書」を追加提出する
「打ち切り」という行政処分が正式に出される前であれば、追加の証拠を提出して判断を覆せる可能性があります。主治医に「現在の治療が有効であること」を証明する追加の診断書を書いてもらい、労基署に提出しましょう。
3. セカンドオピニオンを検討する
もし主治医が打ち切りに協力的でない、あるいは「もう治った」と決めつけてしまう場合は、別の病院でセカンドオピニオンを受けるのも一つの手です。別の専門医から「まだ治療が必要」という診断が得られれば、それが強力な反論材料になります。
打ち切られた後の生活を守る「不服申し立て(審査請求)」
もし正式に打ち切り通知が届いてしまったら、法的な手続きである「審査請求」を行うことになります。
審査請求とは何か
これは、労基署の下した決定(打ち切り)に対して、「その判断は間違っているから取り消してほしい」と申し立てる制度です。決定を知った日の翌日から「3か月以内」に行う必要があります。
どこに対して行うのか
勤務地を管轄する都道府県労働局にいる「労働者災害補償保険審査官」に対して行います。裁判のように複雑なものではありませんが、書面で「なぜ打ち切りが不当なのか」を論理的に説明しなければなりません。
成功させるためのポイント
「痛いから困る」という感情論だけでは、審査官は動いてくれません。「この検査結果に基づけば、まだ回復の余地がある」「労基署の判断根拠となった医師の回答には、実際の症状が反映されていない」といった、医学的・客観的な根拠を示すことが成功の鍵となります。
収入が途絶える不安を解消する「お金の代替案」
労災の休業補償が止まっても、すぐに収入がゼロになるわけではありません。状況に応じて、以下のような公的制度の活用を検討してください。
障害補償給付への移行
「症状固定」で打ち切られた場合、それは「これ以上治らない後遺症が残った」ということです。その場合は、障害の程度に応じて「障害補償年金」や「障害補償一時金」を請求できます。休業補償が終わるのと引き換えに、こちらの請求準備を始めるのが一般的です。
健康保険の「傷病手当金」
もし「労災としては認められないが、病気や怪我で働けない状態」であるなら、会社で加入している健康保険から「傷病手当金」を受け取れる可能性があります。ただし、労災と健康保険の二重取りはできないため、切り替えのタイミングについては加入している健康保険組合や協会けんぽに相談が必要です。
障害年金(公的年金)
労災保険とは別に、国民年金や厚生年金から支給される「障害年金」があります。労災の障害補償給付と併用できる場合もありますが、その際は労災側の支給額が調整(減額)される点には注意してください。
会社から「打ち切りだからクビ」と言われたら?
労災の打ち切り通知が届くと、会社側が「もう補償も出ないし、働けないなら辞めてくれ」と迫ってくるケースがあります。しかし、これは法的に非常に危険な行為です。
労働基準法19条による解雇制限
法律では、労働者が労災で休業している期間と、その後30日間は解雇してはならないと定められています。たとえ休業補償が打ち切られたとしても、療養が必要な状態であれば、会社が勝手にクビにすることはできません。
会社都合の退職を安易に受け入れない
会社から退職勧奨(肩たたき)を受けても、納得がいかなければ応じる必要はありません。無理にサインをしてしまうと「自己都合退職」として処理され、後の失業給付などで不利になる可能性があります。まずは「今の自分の体調でどのような仕事ができるか」を会社と話し合い、復職に向けた調整(配置転換など)を求める権利があります。
療養中に役立つアイテムの活用
自宅での療養期間が長引く場合、少しでも体への負担を減らす環境作りが大切です。
例えば、腰痛や関節の痛みがある場合は、姿勢をサポートするクッションや、長時間座っていても疲れにくいデスクチェアを検討してみましょう。もし自宅での作業が必要なら、エルゴノミクスチェアのような人間工学に基づいた椅子が、体への負担を軽減してくれるかもしれません。
また、通院の記録や労基署とのやり取りをメモするために、iPadのようなタブレット端末があると、膨大な書類をスキャンして整理したり、スケジュール管理をしたりするのに非常に便利です。
まとめ:労災の休業補償打ち切り通知への備え
労災の休業補償打ち切り通知は、あなたへの「もう働け」という命令ではなく、あくまで一つの行政判断に過ぎません。その判断が、あなたの実際の体調や生活状況と乖離しているのであれば、正当な手段で声を上げる権利が認められています。
- まずは主治医としっかり話し合い、現状を共有する。
- 通知が来たら3か月以内に「審査請求」を検討する。
- 打ち切り後の「障害補償給付」や「傷病手当金」への移行を確認する。
- 会社の不当な解雇圧力には屈しない。
これらを意識するだけで、不安の正体が見え、次の一手が打てるようになります。
「労災の休業補償打ち切り通知が届いたら?理由や納得できない時の対処法を解説」しましたこの記事が、あなたの健やかな回復と、安心できる生活を取り戻すための一助となれば幸いです。
まずは手元の通知書をもう一度確認し、主治医に今の正直な気持ちを伝えるところから始めてみませんか?

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