「計算結果が理論上の数字とほんの少しだけズレている……」
プログラミングや数値計算、あるいは情報処理試験の勉強をしているときに、こんなモヤモヤを感じたことはありませんか?
コンピュータは魔法の箱ではなく、厳密なルールに従って動く機械です。そのため、私たちが数学の時間に習う「無限」や「連続」といった概念を、そのまま扱うことができません。そこでどうしても発生してしまうのが「誤差」です。
今回は、数ある誤差の中でも特に重要で、かつ「丸め誤差」と混同されやすい「打ち切り誤差」について、その正体と対策をスッキリ解き明かしていきます。
打ち切り誤差の正体は「計算の妥協」にある
まず結論からお伝えしましょう。打ち切り誤差とは、一言でいえば「無限に続く計算を、現実的なところで無理やり終わらせることで生じるズレ」のことです。
数学の世界には、無限に足し算を続けたり、極限まで値を小さくしたりすることで答えを導き出す計算がたくさんあります。しかし、コンピュータにそんな「終わりなき旅」をさせたら、いつまで経っても計算結果が出力されません。
どこかで「よし、ここまでで十分だ!」と計算を打ち切る必要があるのです。この「妥協」によって切り捨てられた部分が、打ち切り誤差の正体です。
具体的にどんな場面で起きるのか、いくつかの例を見ていきましょう。
無限級数を途中で止める場合
例えば、ネイピア数($e$)という定数があります。これは数学的には無限に続く足し算で定義されています。
$e = 1 + 1/1! + 1/2! + 1/3! + \dots$
これをコンピュータで計算する場合、無限に足し続けることはできません。最初の10項や100項で計算をストップさせます。このとき、101項以降の「本当は足すべきだった数字」がすべて無視されるため、真の値との間に誤差が生まれます。
数値微分や数値積分
グラフの傾きを求める微分や、面積を求める積分も同様です。理論上は「限りなくゼロに近い幅」で計算したいのですが、現実には「0.000001」といった有限の幅で計算を代用します。この「限りなくゼロ」と「0.000001」のわずかな隙間が、打ち切り誤差となって現れます。
丸め誤差との決定的な違いを整理しよう
「打ち切り誤差」を学ぶ上で最大の壁になるのが、よく似た言葉である「丸め誤差」との違いです。ここを曖昧にしていると、試験や実務で必ずつまずきます。
イメージで理解すると非常に簡単です。
打ち切り誤差:計算手順(レシピ)による誤差
打ち切り誤差は、私たちがコンピュータに命令した「計算のやり方」そのものに起因します。「無限に続く計算を、100回目で止めてね」と命令した時点で、この誤差の発生は確定しています。いわば、アルゴリズムという「レシピ」の段階で発生する誤差です。
丸め誤差:器のサイズ(メモリ)による誤差
一方で丸め誤差は、コンピュータの「数字を保持する能力」の限界から来ます。
コンピュータは数字を「ビット」という箱の中に格納しますが、箱の大きさには限りがあります。例えば「0.1」という数字を2進数で表そうとすると、実は無限に続く小数になってしまいます。これをメモリに収めるために、入り切らない末尾を四捨五入したり切り捨てたりします。これが丸め誤差です。
どちらが原因かを見極めるポイント
もしあなたが「計算回数を2倍に増やした」ことで誤差が減るなら、それは打ち切り誤差です。
もしあなたが「変数の型をfloat(単精度)からdouble(倍精度)に変えた」ことで誤差が減るなら、それは丸め誤差(または情報落ちなど)です。
この切り分けができるようになると、数値計算のトラブルシューティング能力が格段にアップします。
数値計算で避けて通れない「誤差のジレンマ」
打ち切り誤差の仕組みがわかると、「じゃあ、計算回数をめちゃくちゃ増やせば誤差はゼロになるんじゃない?」と考えるかもしれません。実は、ここが数値計算の面白い(そして厄介な)ところです。
打ち切り誤差を極限まで減らそうとして、計算のステップを細かくしすぎると、今度は「丸め誤差」が牙を剥きます。
計算回数が100万回、1億回と増えていくにつれ、一回一回の計算で発生する微小な丸め誤差がどんどん蓄積されていくからです。場合によっては、打ち切り誤差を減らしたメリットよりも、蓄積された丸め誤差のデメリットの方が大きくなってしまい、全体の精度が悪化することすらあります。
理想的なバランスを探る
数値計算の世界では、「打ち切り誤差」と「丸め誤差」の合計が最小になるポイントを探すことが重要です。
- ステップが粗すぎると、打ち切り誤差が大きい。
- ステップが細かすぎると、丸め誤差が積み重なる。このバランスを考慮して、最適な計算回数やアルゴリズムを選択するのがエンジニアの腕の見せ所と言えるでしょう。
実践的な対策:打ち切り誤差を賢く減らす方法
ただ闇雲に計算回数を増やす以外にも、打ち切り誤差を制御するテクニックはいくつか存在します。
1. より精度の高い近似式(アルゴリズム)を使う
例えば、面積を求める積分計算において、単純な「長方形」で近似するよりも、斜めの線を使った「台形」で近似するほうが、少ない計算回数で高い精度が得られます。さらに「シンプソンの公式」という、二次関数を使って近似する方法を選べば、打ち切り誤差を劇的に抑えることが可能です。
2. 収束判定を適切に設定する
「1000回計算する」と回数で決めるのではなく、「前の計算結果との差が $10^{-12}$ 以下になったら終了する」といったように、精度の目標値に基づいて計算を打ち切る仕組みを導入します。これにより、無駄な計算(丸め誤差の蓄積)を防ぎつつ、必要な精度を確保できます。
3. 数学的な変形を行う
計算式そのものを数学的に整理し、誤差が出にくい形に書き換えることも有効です。これを「算法の改良」と呼びます。
学びを深めるためのツール活用
誤差の感覚を掴むには、実際にプログラムを書いて動かしてみるのが一番の近道です。Excelなどの表計算ソフトや、Pythonといった言語を使えば、計算回数を変えたときに結果がどう変化するかを簡単に実験できます。
本格的にプログラミングを始めるなら、まずは形から入るのも悪くありません。例えば MacBook Air や Surface Pro などのノートPCが一台あれば、数値計算の世界にはすぐに飛び込めます。
また、こうした知識を体系的に学びたいなら、基本情報技術者試験や応用情報技術者試験の参考書をめくってみるのもおすすめです。試験勉強を通じて、「桁落ち」「情報落ち」「丸め誤差」といった仲間たちとの違いがより明確になるはずです。
まとめ:打ち切り誤差とは?丸め誤差との違いや仕組み、数値計算での対策を理解して精度を高める
最後に今回のポイントを振り返りましょう。
打ち切り誤差とは、無限に続く計算を有限のステップで止めたときに生じる、避けて通れないズレのことです。コンピュータの箱のサイズで起きる「丸め誤差」とは異なり、あくまで「計算の手順(アルゴリズム)」に原因があります。
この誤差を制するには、単に力任せに計算を繰り返すのではなく、適切なアルゴリズムを選び、丸め誤差とのバランスを見極める冷静な視点が必要です。
- 無限を有限にするのが「打ち切り誤差」。
- 端数を処理するのが「丸め誤差」。
- 両方の合計を最小にするのが「優れた計算」。
この3点を意識するだけで、あなたのデータ分析やプログラミングの精度は、これまでよりも一段高いステージへ進むはずです。
「なぜか計算が合わない」と悩んだときは、ぜひこの記事を思い出して、自分の書いたコードが「どこで計算を妥協しているか」をチェックしてみてください。誤差の正体さえ見えてしまえば、もう数値計算は怖くありません。

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