曽田正人先生が描くバレエ漫画の金字塔『昴』。その圧倒的な熱量と、心臓を直接掴まれるような描写に、多くの読者が魂を揺さぶられました。しかし、ネット上で本作を検索すると必ずと言っていいほど浮上するのが「打ち切り」という不穏なワードです。
「あんなに面白いのに、なぜ打ち切りなんて噂が出るの?」「本当はもっと続くはずだったんじゃない?」と、疑問に思っている方も多いはず。
今回は、長年この作品を愛し続けているファンの視点を交えつつ、漫画『昴』の打ち切り説の真相や、物語が辿った数奇な運命、そして続編『MOON -昴 ソリチュード スタンディング-』へと繋がる深い魅力について、徹底的に解説していきます。
なぜ「打ち切り」という噂が広まったのか?その意外な理由
結論から申し上げますと、漫画『昴』は**「打ち切り」ではありません。** では、なぜこれほどまでに打ち切り説が根強く囁かれているのでしょうか。それには、第一部である『昴』が完結した際、あまりにも「読者の予想を裏切る形」で幕を閉じたからだと言えます。
まず一つ目の理由は、物語が最高潮に達したタイミングでの連載終了です。
第一部のラストは、主人公の宮本すばるがローザンヌ国際バレエコンクールを経て、ついにプロとして世界へ羽ばたこうとする高揚感の中で描かれました。「これから、すばるが世界でどんな嵐を巻き起こすのか!」と期待していた読者にとって、唐突な「完結」の文字は、強制終了されたかのようなショックを与えました。
二つ目の理由は、出版社との調整や休止期間の存在です。
実は『昴』が一度終わった背景には、作者である曽田正人先生の極限状態がありました。先生はインタビュー等で、すばるというキャラクターを描くことは、自らの命を削るような作業だったと語っています。一人の少女の狂気的な才能を描き切るために、作家自身が燃え尽き、筆を置かざるを得ない状況があったのです。
その後、数年の沈黙を経て続編がスタートしますが、この「空白の期間」と「物語の唐突な区切り」が混ざり合い、いつの間にか「打ち切りだったのではないか」という都市伝説的な噂へと変化していったと考えられます。
出版社の垣根を超えた復活!『昴』から『MOON』への進化
『昴』を語る上で避けて通れないのが、掲載誌の移籍とタイトルの変更です。
第一部である『昴』は、小学館の「ビッグコミックスピリッツ」で連載されていました。一度はそこで幕を閉じましたが、読者の熱い要望と曽田先生の執筆意欲の再燃により、再び同じ「ビッグコミックスピリッツ」誌上で続編が始動します。それが『MOON -昴 ソリチュード スタンディング-』です。
この『MOON』は、単なる「続き」ではありません。
タイトルの「MOON(月)」や「ソリチュード(孤独)」という言葉が示す通り、すばるの物語はより深く、より静謐な「青い炎」を纏うようになっていきます。
第一部が、周囲をなぎ倒しながら進む「爆発的な熱量」の物語だったとすれば、第二部である『MOON』は、孤独の深淵でしか見ることのできない「純粋な芸術」を追求する物語です。
読者の間では、この二作品を合わせて一つの大きな叙事詩として捉えるのが一般的です。もしあなたが『昴』を読んで「あそこで終わったのはもったいない」と感じているなら、ぜひMOON 昴 ソリチュード スタンディングを手に取ってみてください。そこには、第一部以上に研ぎ澄まされた表現と、すばるという一人の女性が辿り着く究極の境地が描かれています。
宮本すばるという「異質」な主人公が愛される理由
本作が他のスポーツ漫画や芸術漫画と決定的に違うのは、主人公・宮本すばるの造形です。彼女は、いわゆる「努力と根性で成功を掴む健気な主人公」ではありません。
彼女のバレエの原動力は、幼くして亡くなった双子の弟・和馬への思いです。
病室で踊り、弟を笑わせることが彼女の原点でした。だからこそ、すばるにとってバレエは「誰かに褒められるためのもの」でも「コンクールで勝つための手段」でもありません。それは、死者と対話し、この世の苦痛から逃れるための「呼吸」そのものなのです。
すばるは、時に残酷です。
舞台に立てば、共演者のスポットライトを奪い、演出家の意図を破壊し、観客の心に爪痕を残します。彼女の踊りは、美しさよりも「凄絶さ」が勝るのです。
この「孤独を恐れず、むしろ孤独の中でしか輝けない」というすばるの生き様は、現代社会で生きづらさを感じている多くの人の心に深く刺さりました。誰とも分かり合えない絶望を、最高の芸術へと昇華させる姿は、読む者の魂を救うような力を持っています。
脇を固める強烈なキャラクターたちとの「魂の削り合い」
すばるの物語がこれほどまでに熱いのは、彼女に対峙するライバルたちが、単なる「敵」ではなく、同じレベルで命を懸けている表現者だからです。
特に印象的なのが、ライバルであり光の存在でもある日比野真子です。
すばるが「闇」や「混沌」を体現するなら、真子はどこまでも「清廉」で「正統」なバレエの美しさを追求します。二人は決して仲良く手を取り合う関係ではありませんが、舞台の上でだけは誰よりも深く繋がり、互いの限界を超えていきます。
また、世界的なトップダンサーであるプリシラ・ロバーツの存在も欠かせません。
彼女はすばるの才能をいち早く見抜き、それを「危険なもの」として退けるのではなく、己のキャリアを懸けて真っ向から受け止めようとします。大人たちの政治的な思惑や、バレエ界の伝統という壁を、すばるの踊りが粉砕していく様子は、読んでいて鳥肌が立つほどのカタルシスがあります。
これらの人間模様をより鮮明に楽しむためには、曽田先生の過去作であるめ組の大吾などと比較してみるのも面白いかもしれません。熱血漢を描くのが得意な先生が、なぜこれほどまでに繊細で壊れやすい「バレエ」という世界を、ここまで力強く描けたのか。そのコントラストに驚かされるはずです。
漫画『昴』が現代の読者に与える影響と再評価
連載終了から時間が経った今でも、『昴』はSNSやレビューサイトで定期的に話題になります。
それは、本作が単なる「バレエ漫画」という枠組みを超え、「自分として生きることの覚悟」を問う哲学的な作品だからです。
例えば、作中で描かれる「コンクール」の重圧や、プロとしての過酷な現実。これらは、仕事や勉強で成果を求められる私たちの日々と重なります。すばるが周囲の批判を浴びながらも、自分の信じる踊りを貫く姿に、どれほど多くの人が救われたことでしょうか。
また、本作の演出力は、現代のクリエイターたちにも大きな影響を与えています。
無音のコマから音楽が溢れ出したり、紙面から汗の匂いや床の軋む音が聞こえてくるような感覚。これは漫画というメディアが到達できる一つの頂点と言っても過言ではありません。
もし、今「何かに熱中したいけれど、一歩が踏み出せない」「自分の個性を出すのが怖い」と悩んでいるなら、ぜひ昴 曽田正人を全巻一気読みしてみてください。読み終えた後には、世界の見え方が少し変わっているはずです。
結末への納得感と、読後に残る美しい余韻
物語の終着点について、少しだけ触れておきましょう。
続編である『MOON』の最終回を読み終えたとき、多くの読者が感じたのは「寂しさ」よりも「救い」でした。
すばるは、長い旅の果てに、ようやく自分自身を許し、愛することができる場所を見つけます。それは、第一部の頃の彼女からは想像もできないほど、静かで温かい光に満ちたラストシーンでした。
打ち切り説を心配して読み始めた人も、最後には「これ以外にあり得ない結末だった」と納得するはずです。作者の曽田先生が、どれほどキャラクターに寄り添い、苦しみながらも最後まで描き抜いたか。その誠実さが、最後の1ページに凝縮されています。
漫画「昴」は打ち切りだった?完結の真相と続編「MOON」へ続く物語の魅力を解説:まとめ
ここまで、漫画『昴』にまつわる打ち切り説の真相から、作品が持つ唯一無二の魅力について解説してきました。
改めて整理すると、以下の通りです。
- 『昴』は打ち切りではなく、移籍と改題を経て完結した。
- 第一部の「唐突な終わり」は、作者の極限の熱量による区切りだった。
- 続編『MOON』を読むことで、物語の真の美しさが完結する。
- 宮本すばるの「孤独を恐れない生き様」は、時代を超えて読者の心を打つ。
漫画『昴』は、単なるエンターテインメント作品ではありません。それは、一人の天才が孤独と向き合い、自らの命を輝かせるまでの、壮大な魂の記録です。
まだ読んでいない方は、ぜひこの機会に『昴』、そして『MOON』の世界に飛び込んでみてください。ページをめくる手が止まらなくなる感覚、そして読後に訪れる、魂が洗われるようなあの感覚を、ぜひあなた自身で体験してほしいと思います。
昴 全巻セットきっと、あなたの人生にとっても、忘れられない一冊になるはずです。

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