「ジョジョの奇妙な冒険」という巨大な山脈の中で、ひときわ異彩を放ち、かつ深い愛を持って語り継がれている一冊の小説があります。それが、鬼才・乙一氏が執筆したThe Book jojo's bizarre adventure 4th another dayです。
第4部「ダイヤモンドは砕けない」の連載終了から長い年月を経て発表されたこの作品は、単なるノベライズの枠を完全に超えてしまいました。なぜ、多くのジョジョラーが「これは実質的に4部の完結編だ」とまで口を揃えるのか。
今回は、ジョジョと乙一という二つの才能がぶつかり合い、奇跡のような化学反応を起こした本作の魅力を、徹底的に深掘りしていきます。
乙一という作家が「ジョジョ」を描くということ
まず語らなければならないのは、著者である乙一氏の圧倒的な「ジョジョ愛」です。彼は自他共に認める重度のジョジョファンであり、この一冊を書き上げるまでに、なんと2,000枚以上もの原稿を没にしたという伝説があります。
乙一氏といえば、『夏と花火と私の死体』や『GOTH リストカット事件』などで知られる、切なさとグロテスクさが同居した作風が持ち味。一方、荒木飛呂彦先生の描く「ジョジョ」は、人間讃歌と黄金の精神をテーマにした熱いバトル漫画です。
一見、対極にあるように思える両者ですが、実は「奇妙な出来事の裏にある人間の業」を描くという点において、これ以上ないほど共鳴しています。乙一氏は、ジョジョの世界観を借りて自分の物語を書いたのではありません。杜王町という町に深く潜り込み、そこに生きる人々の吐息や、建物の隙間にこびりついた記憶を、乙一氏のフィルターを通して「翻訳」したのです。
舞台は吉良吉影戦の後の「杜王町」
物語の舞台は、あの吉良吉影との死闘から数ヶ月が経過した杜王町。季節は冬へと向かっています。原作第4部のラストで、町を覆っていた巨大な悪は去りました。しかし、平和を取り戻したはずの町で、再び不可解な事件が起こり始めます。
- 血を流さずに死んだ女性の謎
- 図書館で静かに暮らす一人の青年
- 冬の冷たい空気の中に漂う、誰かの復讐の匂い
東方仗助や広瀬康一、そして虹村億泰といったお馴染みのメンバーが、この新しい「奇妙な事件」に巻き込まれていく過程は、まさに原作を読んでいるかのようなワクワク感を与えてくれます。
特筆すべきは、乙一氏が描くキャラクターたちの「解像度」です。仗助の優しさ、康一の成長、そして億泰のどこか憎めない真っ直ぐさ。彼らの口調や行動原理が、寸分の狂いもなく「ジョジョ」なのです。原作ファンが抱く「キャラ崩壊」への不安は、ページをめくって数行で消え去ることでしょう。
スタンド能力を「記憶」の装置として再定義
ジョジョの代名詞といえば「スタンド」ですが、The Book jojo's bizarre adventure 4th another dayにおいて、この能力はさらに文学的な深みを与えられています。
本作のタイトルにもなっている敵キャラクターのスタンド『The Book』。これは、自分の体験したすべてを「本」として記録し、他者にその記憶を追体験させる能力です。
乙一氏はこの能力を通じて、「人間は何によって形作られるのか」という重厚なテーマを突きつけます。私たちが普段忘れてしまいたいと思っている嫌な記憶、あるいは失いたくない大切な思い出。それらがもし、実体を持った「本」として存在し、他人の脳内に直接流し込まれたらどうなるか。
このスタンド描写の緻密さは、まさにミステリ作家としての乙一氏の本領発揮と言えます。物理的な破壊力ではなく、精神的な侵食。その恐怖と美しさは、これまでのジョジョシリーズにはなかった独自の質感を放っています。
原作の「あのシーン」を回収するファン歓喜の展開
本作が「4部ファン必読」と言われる最大の理由は、原作で描かれなかった「隙間」を完璧に埋めている点にあります。
特に、幼い頃の東方仗助が雪道で命を救われた「学ランの少年」のエピソード。原作では「仗助が理想とするヒーロー像」として語られるのみで、彼の正体は謎のままでした。乙一氏はこの誰もが知る謎に対し、あまりにも切なく、そして納得感のある答えを用意しています。
これは単なる後付けの設定ではありません。物語のテーマである「記憶」と「継承」に結びつけることで、原作の価値をさらに高めるような素晴らしいリスペクトが込められているのです。この部分を読んだ時、多くのファンが「乙一が書いてくれて本当によかった」と確信したはずです。
蓮見琢馬という悲劇的なアンチヒーロー
本作のもう一人の主人公とも言えるのが、敵として立ちはだかる蓮見琢馬です。彼は吉良吉影のようなサイコパスではありません。彼を突き動かしているのは、あまりにも純粋で、あまりにも悲しい「復讐心」です。
琢馬の過去は、乙一作品特有の「黒い乙一」が全面に出た、目を背けたくなるような残酷さに満ちています。ビルの隙間で生まれ、誰にも知られずに育った母子の物語。その描写は、読む者の心に深い傷跡を残します。
ジョジョの敵役は、時に同情の余地のない絶対的な悪として描かれますが、琢馬の場合は違います。彼にもまた、彼なりの「黄金の精神」があったのではないか。あるいは、ほんの少し運命が違えば仗助たちの友人になれたのではないか。そう思わせる絶妙なキャラクター造形が、物語のラストシーンをより一層、涙なしでは読めないものにしています。
本という「物質」へのこだわり
もし可能であれば、電子書籍ではなくThe Book jojo's bizarre adventure 4th another dayの単行本(ハードカバー版)を手に取ってみてください。この本は、装丁自体が一つのアート作品になっています。
表紙は重厚な革張りを思わせる質感で、作中に登場するスタンド『The Book』そのものを模したデザインになっています。本を開き、文字を追い、ページをめくるという行為自体が、作中のキャラクターの能力を追体験しているかのような仕掛けになっているのです。
「本をテーマにした物語を、本という物質で表現する」。このメタ的な演出は、紙媒体の小説だからこそ到達できた表現の極致と言えるでしょう。
ジョジョ未経験者でも楽しめるのか?
よく聞かれる質問ですが、結論から言えば「ジョジョ第4部を知っていた方が100倍楽しめるが、知らなくても傑作ミステリとして成立している」となります。
乙一氏の文章は非常に平易で、かつ情景描写が巧みなため、スタンドという特殊な概念もスッと頭に入ってきます。一人の青年が自らのルーツを探り、復讐を果たすまでのサスペンスドラマとして見れば、ジョジョを知らない読者をも惹きつける力を持っています。
しかし、もしあなたがまだジョジョに触れたことがないのであれば、まずはジョジョの奇妙な冒険 第4部を読み、その後にこの『The Book』を手に取ることを強くおすすめします。そうすることで、この小説に散りばめられた宝石のような伏線の数々に、より深く感動できるからです。
ジョジョと乙一の精神が共鳴する「人間讃歌」
結局のところ、なぜこの二つの個性がこれほどまでにマッチしたのでしょうか。それは、荒木飛呂彦先生と乙一氏が、共に「孤独な魂」への優しい眼差しを持っているからだと私は考えます。
ジョジョに登場するキャラクターたちは、誰もが何かしらの欠落や傷を抱えています。それでも前を向いて歩こうとする姿が読者の胸を打ちます。乙一氏もまた、社会の片隅で震えているような、声なき者たちの痛みを描き続けてきた作家です。
本作の終盤、仗助と琢馬が対峙するシーン。そこで語られる言葉のひとつひとつには、両者の哲学が凝縮されています。正義とは何か、悪とは何か。そして、変えられない過去を背負ってどう生きていくのか。その答えは、決して説教臭いものではなく、冬の夜空に白く浮かぶ吐息のように、静かで切実な温かさを持って提示されます。
結びに:ジョジョ 乙一のタッグが生んだ永遠のスタンダード
物語の最後、杜王町に再び静かな日常が戻ってきます。しかし、読者の心の中には、もう一つの「杜王町の記憶」が確実に刻まれているはずです。
The Book jojo's bizarre adventure 4th another dayは、単なる企画モノのノベライズではありません。一人の熱狂的なファンが、自らの作家生命を懸けて原作と格闘し、勝利した記録でもあります。
荒木飛呂彦先生が描いた黄金の精神を、乙一氏が「物語の記憶」という形で結晶化させたこの一冊。それは、刊行から時間が経過した今でも、全く色褪せることのない輝きを放っています。
まだこの本を開いていない方は、ぜひその一歩を踏み出してみてください。そこには、あなたが知っているようで知らなかった、もう一つの奇妙な冒険が待っています。ジョジョ 乙一という最強の組み合わせが提示した、唯一無二の読書体験を、ぜひその手で確かめてみてください。

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