漫画を描いていて、ふと手が止まる瞬間。それは「このセリフ、文字が小さすぎないかな?」「それとも大きすぎて絵を邪魔してる?」という、フォントサイズに関する悩みではないでしょうか。
せっかく面白い物語を描いても、文字が読みにくければ読者はページをめくる手を止めてしまいます。逆に、文字のバランスが完璧な漫画は、まるでアニメを観ているかのようにスラスラと内容が頭に入ってきます。
今回は、プロの現場でも意識されている「漫画のセリフに最適なフォントサイズ」の基本ルールから、読者を物語に引き込むための調整のコツまで、徹底的に解説していきます。
漫画のフォントサイズが「読みにくさ」を左右する理由
漫画における文字は、単なる情報の伝達手段ではありません。それは「声」そのものです。
例えば、B4サイズの原稿で描く商業誌向けと、スマホで読まれることを前提としたWEB漫画では、読者が画面や紙面を見る距離がまったく違います。
もし、印刷された単行本の文字が小さすぎたら、読者は目を細めて読み進めることになり、没入感が削がれてしまいます。一方で、スマホ画面で文字が大きすぎると、一画面に表示される情報が少なくなってしまい、テンポが悪く感じられるのです。
漫画のフォントサイズを決めることは、読者に「どんな音量で、どんな距離感で声を届けるか」をデザインすることと同じなのです。
媒体別・原稿サイズ別の「基本フォントサイズ」目安
フォントサイズを決めるとき、まず確認すべきは「最終的にどのサイズで読まれるか」です。デジタル制作ソフト、例えばCLIP STUDIO PAINTなどを使っている場合、単位の設定(ptやQ)にも注目しましょう。
商業誌・投稿用(B4原稿の場合)
少年誌や青年誌などの投稿用原稿は、B4サイズという大きな紙に描き、それがB5サイズに縮小されて印刷されます。
- 推奨サイズ:12pt 〜 15pt / 18Q 〜 20Q(級)
このサイズは、縮小されても潰れず、かつ絵を邪魔しない絶妙なバランスです。一般的には14pt(約20Q)前後が最も読みやすい「標準のセリフ」とされています。
同人誌・一般書籍(A5 / B6サイズの場合)
A5サイズの同人誌や単行本サイズの場合、B4原稿に比べて誌面がコンパクトになります。
- 推奨サイズ:8pt 〜 12pt / 12Q 〜 15Q
「少し小さいかな?」と感じるかもしれませんが、A5サイズで14pt以上を使うと、吹き出しが巨大になりすぎて絵が隠れてしまいます。プロの単行本のような洗練された雰囲気を出すなら、9pt〜10pt程度に収めるのがスマートです。ただし、8ptを下回ると高齢の方や疲れ目の読者には厳しくなるので注意しましょう。
WEB漫画・スマホ閲覧用
現代の漫画制作で最も気を使うのが、スマホでの読みやすさです。
- 推奨サイズ(ピクセル換算):14px 〜 24px
スマホは画面が小さいため、PCのモニターで「ちょうどいい」と感じるサイズよりも、もう一段階大きく設定するのがコツです。特に縦スクロール形式(Webtoon)の場合は、視線移動が速いため、20px前後のしっかりしたサイズで視認性を確保することが推奨されます。
単位「pt(ポイント)」と「Q(級)」を使い分けるコツ
デジタルで描いていると、単位の設定に迷うことがありますよね。それぞれの特徴を知っておくと、設定がスムーズになります。
- pt(ポイント)多くのソフトで標準となっている単位です。1ptは約0.35mm。Wordや他のデザインツールと共通の感覚で使えるのがメリットです。
- Q(級)日本の印刷業界で長年使われてきた単位です。1Qはちょうど0.25mm。つまり、4Qで1mmという計算がしやすいため、アナログ原稿のように「定規で測って5mmの文字にしたい」という場合に非常に便利です。
印刷を強く意識するなら「Q」、デジタル中心なら「pt」という使い分けが一般的ですが、大切なのは「自分の中で基準の数値を決めること」です。
読みやすさを劇的に向上させる「行間」と「字間」のルール
フォントサイズが決まったら、次に調整すべきは「文字と文字の隙間」です。これだけで、素人っぽさが消えて一気にプロの仕上がりに近づきます。
行間(行送り)は「ゆったり」が基本
文字同士が上下にギチギチに詰まっていると、読者はどこを読んでいるのか見失ってしまいます。
- 理想の行間:フォントサイズの120% 〜 150%
特におすすめなのは150%程度の設定です。なぜなら、日本の漫画には「ルビ(ふりがな)」を振ることが多いからです。行間が狭いと、ルビが上の行に重なってしまいます。少し余裕を持たせることで、ルビを振ってもスッキリと美しいレイアウトが保てます。
1行の文字数は「10文字以内」に
漫画の吹き出しは、正方形や円形に近い形が多いですよね。そこに長い一文を無理やり詰め込むと、1行が長くなりすぎて視線の移動が大変になります。
- 1行を短く区切り、3行〜4行にまとめる。
- 吹き出しの中央に文字が来るように配置する。
この2点を守るだけで、読者の視線はスムーズに下へと流れていきます。
字間(カーニング)の微調整で美しく
「!」「?」といった記号や、句読点の周りには、フォントの特性上、不自然な隙間が空くことがあります。こうした部分を手動で少し詰める(カーニング)作業を行うと、言葉としてのまとまりが強まり、メッセージがダイレクトに伝わるようになります。
感情を表現する!フォントサイズの使い分けテクニック
すべてのセリフを同じサイズで配置する必要はありません。漫画は「絵」の一部として文字を扱うため、感情に合わせてサイズを柔軟に変えていきましょう。
叫び・驚き(基準の1.5倍 〜 2倍)
大きな声を出しているシーンでは、文字を大きくし、かつ太いゴシック体などを使うのが定番です。吹き出しからはみ出さんばかりのサイズにすることで、音量の大きさを視覚的に表現できます。
モノローグ・心の声(基準の0.8倍 〜 0.9倍)
キャラクターの思考やナレーションは、通常のセリフより少しだけ小さく、かつ明朝体などの繊細なフォントに変えると、「音として出ていない声」であることを演出できます。
ひそひそ話・ため息(基準の0.6倍 〜 0.7倍)
小さな声や自信のない発言は、フォントを極端に小さくしてみましょう。余白を多めに取った吹き出しの中にポツンと小さな文字を置くことで、キャラクターの心理状態を読者に伝えることができます。
制作環境で失敗しないための「最終確認」のコツ
デジタル原稿で一番怖いのは「描いているときは完璧に見えたのに、出力したら読めない」という現象です。これを防ぐためのコツをご紹介します。
拡大表示の罠にハマらない
iPad Proなどの高精細なタブレットで描いていると、ついつい拡大して作業しがちです。しかし、読者がそれほど拡大して読むことは稀です。
作業中、定期的に表示倍率を「100%(実寸表示)」に戻して確認する習慣をつけましょう。もしスマホ向けのWEB漫画なら、一度画像を自分のスマホに送って確認するのが最も確実です。
白フチ(境界線)を活用する
背景の描き込みが激しいコマや、トーンの上に文字を置く場合、文字が絵に埋もれてしまいます。そんな時は、文字の周囲に細い「白フチ」をつけましょう。
ただし、白フチをつけると文字が実質的に太く見えるため、小さすぎるフォントだと潰れてしまいます。白フチを使う際は、いつもより少しだけサイズを上げるか、字間を広めに取るのがコツです。
まとめ:漫画のセリフに最適なフォントサイズは?基本ルールと調整のコツ
漫画における文字の役割は非常に大きく、適切なフォントサイズを選ぶことは「読者への思いやり」そのものです。
基本のルールを振り返ると、商業誌なら14pt前後、同人誌なら10pt前後、WEB漫画ならスマホでの視認性を優先した大きめのサイズ設定が理想的です。これに加えて、行間を150%程度に設定し、感情に合わせてサイズに強弱をつけることで、あなたの漫画はよりプロフェッショナルな輝きを放つようになります。
最終的には、自分の目で見て「気持ちいい」と感じるバランスが正解です。しかし、迷ったときは今回ご紹介した基本の数値に立ち返ってみてください。
フォントサイズの微調整は、地味な作業かもしれません。しかし、その小さなこだわりが、読者の心を動かす大きな感動に繋がっていきます。ぜひ、あなたの作品に最適な「声のサイズ」を見つけてみてくださいね。

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