『ジョジョの奇妙な冒険 第1部 ファントムブラッド』を読み返すと、物語の中盤で圧倒的な存在感を放つエピソードがありますよね。それが、ディオによって蘇った伝説の二人の騎士、ブラフォードとタルカスの過去です。
彼らが忠誠を誓った主君として語られるのが、スコットランド女王「メアリー・スチュアート」。
ジョジョの世界では、彼女を守るために命を捧げた騎士たちの悲劇が、後のジョナサン・ジョースターとの死闘に深みを与えています。でも、実際の歴史におけるメアリー・スチュアートはどんな人物だったのか、気になったことはありませんか?
今回は、ジョジョ劇中での描かれ方と、史実としてのメアリー・スチュアートの波乱万丈な生涯を照らし合わせながら、荒木飛呂彦先生が描いた「血の宿命」の真実に迫ります。
ブラフォードとタルカスが愛した女王の悲劇
ジョジョの物語において、メアリー・スチュアートは「慈愛に満ちた悲劇の女王」として描かれています。1565年、イングランド女王エリザベス1世との対立の中で、彼女は窮地に立たされました。
そこで立ち上がったのが、最強の騎士ブラフォードとタルカスです。彼らはメアリーを救うため、エリザベス側が提示した「二人の降伏と引き換えにメアリーの命を助ける」という条件を信じ、自ら武器を置きました。
しかし、待っていたのは残酷な裏切りでした。エリザベスは約束を反故にし、メアリーを処刑。さらに二人をも処刑台へと送ったのです。ブラフォードが死の間際まで抱き続けた「この世への恨み」は、まさにこの時の絶望から生まれたものでした。
このエピソードは、読者に「正義とは何か」「騎士道とは何か」を強く問いかけます。ディオが彼らを蘇らせた際、その怨念を利用したのも納得のいく、あまりにも重い過去です。
史実のメアリー・スチュアート:愛と権力に翻弄された生涯
さて、ここからは少し歴史の教科書を覗いてみましょう。実在したメアリー・スチュアート(1542年-1587年)もまた、ジョジョに負けず劣らずドラマチックな人生を歩んでいます。
彼女は生後わずか6日でスコットランド女王となり、幼少期はフランス王宮で育ちました。フランス王太子と結婚し、一時はフランス王妃にもなりましたが、夫の死によってスコットランドへ帰国します。
ここからが彼女の苦難の始まりでした。当時のイギリスは、カトリックとプロテスタントの宗教対立の真っ只中。カトリックの象徴だったメアリーは、プロテスタントのイングランド女王エリザベス1世にとって、王位を脅かす最大のライバルだったのです。
ジョジョでは「聖女」のようなイメージで語られるメアリーですが、史実では情熱的で、時にはスキャンダラスな恋愛事件を起こすなど、非常に人間味あふれる人物として記録されています。
エリザベス1世との宿命的な対立
ジョジョ劇中では、エリザベス1世は「卑劣な裏切り者」のような立ち位置で語られます。しかし、歴史の視点から見ると、彼女もまた国家を守るために必死だった統治者でした。
メアリー・スチュアートはイングランドへ亡命した後、約19年もの間、幽閉生活を送ることになります。エリザベスは当初、従姉妹であるメアリーを処刑することに消極的でした。
しかし、メアリーを中心としたエリザベス暗殺計画(バビントン事件)が発覚し、ついに死刑判決が下されます。1587年、フォザリンゲイ城で行われた処刑シーンは、今も語り継がれるほど凄惨なものでした。
処刑人が斧を振り下ろす際、一度では首が落ちず、三度も斧を振るわなければならなかったというエピソードがあります。こうした「死」にまつわる生々しいディテールは、荒木先生が好むゴシック・ホラー的な美学と共通するものがありますね。
創作キャラクター「ブラフォード」に込められた意味
ここで驚きの事実ですが、実はブラフォードとタルカスという騎士は史実には存在しません。彼らは荒木先生が生み出したオリジナルのキャラクターです。
では、なぜわざわざ実在の女王メアリー・スチュアートを登場させたのでしょうか。それは、物語に「歴史的な重み」と「説得力」を持たせるためだと考えられます。
ブラフォードという名前の由来は、プログレッシブ・ロックの著名なドラマーであるビル・ブルーフォードから取られたと言われています。音楽好きな方はYes バンド CDなどをチェックしてみると、そのリズムの力強さにブラフォードの剣筋を感じるかもしれません。
架空の騎士を実在の悲劇に組み込むことで、彼らの怒りは読者にとって「本当にあったこと」のようなリアリティを持って迫ってくるのです。
「光と影」の対比が描く人間讃歌
第1部のテーマは「人間讃歌」です。ジョナサンという「光」に対し、ディオという「闇」が対峙します。
ブラフォードとタルカスも、生前は「光」の騎士道を持っていましたが、死によって「闇」の怪物へと変えられてしまいました。しかし、ジョナサンとの戦いを通じて、ブラフォードはかつての高潔な魂を取り戻します。
彼がジョナサンに託した「PLUCK(勇気)」の剣。これは、メアリー・スチュアートへの忠誠心が、数百年を超えて正義の心へと昇華された瞬間でした。
歴史上のメアリーは敗北して命を落としましたが、ジョジョの世界では彼女の騎士がその意志を継ぎ、未来を切り開く助けとなった。これは、歴史に対する荒木先生なりの優しい解釈なのかもしれません。
ゴシック・ホラーとしての英国史
ジョジョ1部の舞台である19世紀後半のイギリスは、産業革命の光と、貧困や犯罪といった影が共存する時代でした。切り裂きジャックの事件など、当時のロンドンには「死の香り」が漂っていました。
荒木先生は、そうした時代の空気を描くために、あえて血塗られた歴史を持つメアリー・スチュアートを引き合いに出したのでしょう。
もし、より深くこの時代の雰囲気を感じたいのであれば、当時の資料や英国史 関連書籍を読んでみるのも面白いかもしれません。漫画の中で描かれた霧深いロンドンや、古城の冷え冷えとした空気感が、より鮮明にイメージできるはずです。
まとめ:メアリー・スチュアートとジョジョが交差する場所
メアリー・スチュアートという実在の人物を軸に据えることで、ジョジョ1部は単なる超能力バトル漫画を超え、重厚な歴史ファンタジーとしての地位を確立しました。
ブラフォードとタルカスが抱いた主君への愛、そしてエリザベスへの憎しみ。それらすべてを包み込んで、ジョナサン・ジョースターの物語は進んでいきます。
歴史を知れば、ジョジョはもっと面白くなります。次に1部を読み返すときは、ぜひ16世紀のスチュアート朝に思いを馳せてみてください。そこには、漫画のコマを飛び越えた、本物の人間たちのドラマが隠されています。
最後に、私たちがこの物語から学べるのは、どんなに深い闇や恨みの中にいても、誰かとの出会いによって「勇気」を取り戻せるということではないでしょうか。
「メアリー スチュアート ジョジョ」というキーワードで辿り着いた皆さんが、この物語の持つ深い魅力に改めて気づいていただけたら幸いです。

コメント