漫画を描いていて、いざ仕上げの段階に入ったとき「トーンの種類が多すぎて何を選べばいいかわからない!」と手が止まってしまったことはありませんか?
とりあえず適当に貼ってみたけれど、画面がなんだか真っ黒になってしまったり、逆に白っぽくて寂しい印象になったり……。実は、漫画のクオリティを左右するのは画力だけでなく「トーンの使い分け」という技術なんです。
トーンを自在に操れるようになると、キャラクターの感情を際立たせ、読者を物語の世界観へ一気に引き込むことができます。今回は、初心者から中級者まで役立つ、シーン別のトーン選びのコツやプロも実践するテクニックを詳しく解説していきます。
トーン選びの基本!線数と濃度の正体を知ろう
トーンを選ぶときに必ず目にする「60L 10%」といった数字。まずはこの正体をしっかり理解しておきましょう。ここを飛ばしてしまうと、印刷したときに画面がモアレ(網点の重なりによる模様)でガタガタになってしまう原因になります。
線数(L)は「きめの細かさ」
線数とは、1インチの中にどれだけ網点が並んでいるかを示す数値です。
- 60線(L)前後: 最も標準的で、どんなシーンにも馴染みます。迷ったらこれを選べば間違いありません。
- 50線以下: ドットが大きく見えるため、ポップな雰囲気や、ジーンズなどのザラついた布の質感を出すのに向いています。
- 70線以上: 非常にきめが細かく、ストッキングの透け感や、しっとりとした大人の肌の質感を表現するのに最適です。
濃度(%)は「色の濃さ」
濃度は、そのエリアがどれくらい黒いかを示します。
- 5~15%: 肌の影や、白に近い服、光が当たっている部分に使います。
- 20~30%: 中間色です。標準的な影の色として最もよく使われます。
- 50%以上: かなり濃い色です。紺色の制服や、夜のシーン、深い影などに使用します。
デジタルの場合は、液晶タブレットのWacom Cintiqなどで作業していると画面上では綺麗に見えますが、印刷すると想像以上に暗く出ることがあります。慣れるまでは、自分が「ちょうどいい」と思う濃度より一歩明るめを選ぶのがコツですよ。
キャラクターを魅力的に見せる部位別の使い分け術
キャラクターは漫画の命。トーンの使い方ひとつで、そのキャラが持つ清潔感や色気、存在感が大きく変わります。
肌の影は「薄め・細かめ」が鉄則
肌に貼るトーンは、基本的に「60L 10%」が黄金比と言われています。あまりに濃度が濃いと、顔色が悪く見えたり、不潔な印象を与えたりするので注意しましょう。
さらに、影の境界線を「カッター(デジタルなら削り用ブラシ)」でふわっとぼかすことで、肌の柔らかさを表現できます。このひと手間で、キャラクターの可愛さや格好良さがグッと引き立ちます。
髪の毛はグラデーションで立体感を
ベタ(真っ黒)の髪の毛でも、頭のてっぺんや光が当たる部分にグラデーションのトーンを重ねてみてください。これだけで平面的な絵に奥行きが生まれます。
明るい髪色のキャラなら、ハイライト部分を白く抜き、そこから下に向かって薄いトーンを貼ることで、ツヤツヤの質感を演出できます。
服の質感は「線数」で差をつける
全身のトーンをすべて同じ線数にしてしまうと、画面がのっぺりしてしまいます。
例えば、柔らかいシャツには60線、ゴツゴツした厚手のコートには40線といったように線数を変えるだけで、読者は無意識のうちに素材の違いを感じ取ってくれます。
感情と視線をコントロールする演出のテクニック
トーンは単なる「色」ではなく、読者の感情を揺さぶる「演出ツール」です。シーンに合わせて種類を使い分けましょう。
幸せなシーンは「白」と「柄」を活用
嬉しいときや恋に落ちたときなど、ポジティブなシーンでは画面をあえて白く飛ばすのが効果的です。
「丸ほわ」と呼ばれるぼかしたドットや、花柄、キラキラとしたエフェクトトーンを背景に散らしましょう。このとき、人物の周りを少し白く抜いておくと、トーンが人物に被らず、主役がパッと目立つようになります。
不安や怒りは「万線」と「ノイズ」
心に影が差したときは、ドットではなく「万線(斜線)」のトーンを使ってみてください。斜めのラインが画面に緊張感を与えます。
また、砂のような質感の「ノイズトーン」は、ザラザラとした不快感や重苦しい空気を作るのに最適です。顔の上半分に濃いめのトーンをガツンと落とすことで、言葉以上の絶望感を伝えることができます。
背景と空気感を作る!奥行きを出すトーンの選び方
背景にトーンを貼る際、初心者がやりがちなのが「全部同じ濃度で塗ってしまう」こと。これではせっかく描いたパースが台無しになってしまいます。
遠近法をトーンで表現する
遠くにあるものほど、線数を細かく、濃度を薄くします。これを「空気遠近法」と呼びます。
手前の建物はガッシリした30〜40線のトーンで描き、遠くの山やビルは80線などの非常に細かいトーンで薄く貼る。これだけで、画面の中に吸い込まれるような広がりが生まれます。
時間帯をトーンで描き分ける
- 昼間: 影は最小限。光が強いので、コントラストをハッキリさせます。
- 夕方: 画面の上下に大きなグラデーションをかけます。太陽が沈む方向から光が差していることを意識して、影を長めに引くのがポイントです。
- 夜: 40〜60%の濃いトーンをベースにします。街灯や窓の明かりだけを白く抜くことで、夜の静けさと温かみを同時に表現できます。
背景の作画を効率化したいなら、iPad Proなどのタブレット端末で、写真からトーン化する機能を活用するのも一つの手ですね。
プロが教える!トーンを美しく仕上げるための裏技
ここからは、一歩先を行くための応用テクニックを紹介します。
「削り」で空気感を出す
トーンを貼った後、そのままにしていませんか?トーンの端を削りブラシや砂消しゴムツールでサッサッと払うように削ってみてください。
これにより、光の反射や埃が舞っているような空気感、あるいはキャラクターの吐息のような繊細な表現が可能になります。特に少女漫画のようなキラキラした世界観では、この「削り」が命になります。
重ね貼りのルールと注意点
「もう少しだけ濃くしたい」というとき、トーンの上にさらにトーンを重ねることがあります。
このときの絶対ルールは「同じ線数のトーンを重ねる」こと。60線の上に50線を重ねると、高確率でモアレが発生します。デジタル作業なら、同じ線数のレイヤーを使い、柄の位置を少しずらすことで、深みのある影を作ることができます。
デジタルマンガ制作で失敗しないためのポイント
最近はCLIP STUDIO PAINTを使ってデジタルで描く方が増えていますが、デジタル特有の落とし穴も存在します。
アンチエイリアスの罠
トーンを貼る範囲を選択するとき、選択ツールに「アンチエイリアス(境界をぼかす機能)」がかかっていると、トーンの端にグレーの半透明なドットが混じってしまいます。
これが印刷時にモアレを引き起こす最大の原因です。トーン作業をするときは、必ずアンチエイリアスをオフにした「ドットのハッキリした」選択範囲を作るようにしましょう。
出力先(紙かWEBか)で使い分ける
- 紙の同人誌・商業誌: 網点(トーン化)が必須です。グレースケールで描いても、最後は必ず「モノクロ2階調」のトーン設定で書き出しましょう。
- WEBタテヨミ漫画: スマホで読む漫画の場合、網点にすると画面を縮小したときに模様が潰れて見づらくなります。WEB専用であれば、トーン化せず「グレースケール」のまま塗ったほうが、今のデバイスでは綺麗に見えることが多いです。
自分の作品をどこで発表するのかによって、最適な仕上げ方法を選んでくださいね。
漫画のトーンの使い分けをマスターして表現の幅を広げよう!
トーンの使い分けができるようになると、あなたの漫画は見違えるほどプロっぽくなります。最初は「どの数字がいいんだろう?」と悩むかもしれませんが、今回ご紹介した基本の数値やシーン別の選び方を参考に、まずは1ページ完成させてみてください。
一番の練習法は、自分の好きな作家さんの原稿をじっくり観察することです。「この影には何線くらいを使っているのかな?」「ここで削りを入れているのはなぜだろう?」と分析してみると、たくさんの発見があるはずです。
漫画 描き方 本などで、プロの生原稿に近い印刷サンプルを見て勉強するのも、感覚を養うのに非常に役立ちます。
トーンは、あなたの絵に「光」と「影」を吹き込み、キャラクターに感情を宿らせる魔法のツールです。ぜひ楽しみながら、自分なりの「最高の使い分け」を見つけていってくださいね。あなたの漫画が、より魅力的な一冊になることを応援しています!

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